第十四章 ⑫
文字数 3,846文字
女心を男は、理解できず、です。
それと、娘の心を男親は知らずです。
そのお父さんは、何でか知りませんが、
とにかく気に入ってしまったのでしょう。
そのスイカの小銭入れを……。
高校も卒業した娘が、いらないって言った
のに、今度は、お母さん-つまり奥さん-
に、話をふります。
「おい、お前。
これを今回の旅の記念に、買ってやろうと
思ったんだけど、嫌がるんだよ。
これ、イセに、似合うよなぁ?」
すると、その美人で、そして、たおやかな
お母さんは、その財布-小銭入れ-を
じっと見つめます。
私は思いました。
「同じ女性のお母さんなら、年頃の
娘さんの気持ち分かるよね!」と。
でも、です。
その「大和撫子」という表現が相応しい
お母さんの反応は、私の予想とは反対
のものでした。
ニコッと笑い、そして、娘さん-イセ
ちゃん?-に、言いました。
「あら、あなたの大好きなスイカの
小銭入れねぇ。
お父さんが、何かを買うって言い出す
なんて珍しいことなんだし、今回の
家族旅行の記念になるわよ。
遠慮しないで、買ってもらいなさい。
うん。そうねぇ。
よく見たら素敵だわ、これ…」と。
そう来るの……、お母さん!?
「イヤイヤ、それは、ないでしょッ」と
ツッコミたくなりましたが、私は、
関東生まれだし、そんなセンス実際
ないし、そんなことやったら、変な
アラサー女だと思われるので、
やめました。
でも、さすがに、年頃の女の子、
もう高校も卒業した娘さんに、あの
スイカの小銭入れは、ないな……。
日本全国の女子高生と女子大生を呼び
集めて、「これ、あげる」と言って、
喜ぶ子を見つけ出すとしたら、
それは、大失敗に終わるでしょう。
喜ぶ子なんて、いません。
多分、「私をバカにしてんの!?」
とキレられて終わり……。
あの女の子の反応は、こうでした。
幼児用スイカ小銭入れを買おうとする
両親に、頬を膨らませ、抗議してました。
「え~。いらないし、そんなの恥しくて
使えないよ!!
って言うより、他の買ってよ!
この、乳液とかさぁ!!」
その気持ち、痛いほど分かりました!
「そうだよ!そうしてあげてよ!」と
言いたかった……。けど、当然、そんな
ことしたら、その女の子からも引かれる
し、ご両親からは、「見ちゃダメ!さッ、
もう財布もいいから、行きましょ」って
なってしまうので、やめました。
でも、本当に、その年頃の女の子も
そうで、私世代もそうですけど、
幼児向け小銭入れより、やっぱり、
化粧品とかアロマオイルですよね!
言っては悪いですが、田舎のいすみの
スーパー銭湯に、「こんなにあるの!?」
というレベルの品揃えでしたからね。
外国の珍しい化粧品類がいっぱい……。
隆子ちゃんに手を引っ張られていたから
ムリでしたけど、もっと、じっくり
見たかったですね、実際……。
で、そのあと、あのスイカの小銭入れが
どうなったのか、私は、知りません。
結果が気になったんですが、
隆子ちゃんが、「じゃ、ご飯食べに
行こうね、お姉ちゃん!」と言って、
私を売店の外に連れ出したので…。
今、思い返すと、あの子の膨れっ面
が浮かびます。
本当、あの女の子、どうなったかな?
スイカの小銭入れを押し付けられ
ちゃったかな、それとも、外国製の
高価な化粧品をゲットできたかな?
でも……、とにかく、あの3人家族の
幸せそうな語らいを見れて、聞けて、
私は、ほのぼのとした感じになれた
のでした。
彼と結婚して、あんな家庭を築きたい
なぁ……と。
そして、私たちは、食事処に
入りました。
テーブル席もたくさんありましたが、
家族連れで、満席。
座敷の方もたくさんの人で賑わって
います。
「どこか空いてないかなぁ?」と
キョロキョロ見渡す私。
でも、すぐに、隆子ちゃんが、
見つけてくれました!
「お姉ちゃんたち!!
早く来て、ここだよッ!」と。
大きく手を振る、隆子ちゃん。
元気な子です。
可愛い子です。
食事処もお客さんでいっぱいでした。
家族連れ、パパさん連中、あとは、
子どもだけのグループもありましたね。
とにかく、賑わっていました。
券売機で、好きなのを注文して、
隆子ちゃんと一緒にセルフサービスの
お水を4人分運んで、やっと、座れ
ました。券売機に、たくさん、
並んでいたので……。
でも、意外とすぐに、頼んでいた料理
が運ばれてきます。
お腹ペコペコだったので、助かりました。
義時君は、ガッツリとダブル焼肉定食と
手羽先ともつ煮込みの小!!
「食べすぎ…!!
結婚したら家計大変だわ、これ。
ちゃんと、節約に協力してもらわないと」
と内心考えましたね、あの量を見て。
隆子ちゃんは、味噌バタコーン
ラーメン。
俊光君は、カツカレーと唐揚げの小。
うん、やっぱり、男子は、お肉を
食べるものですね……。
そして、私は、蒸し野菜と蒸し鶏の
セット定食にしました。
女性に大人気って、書いてあったので。
実際、本当に美味しかった!
義時君のお家と仲良しの人の畑で
採れたのを新鮮なうちに送ってもらい、
食事処で……という、無農薬の野菜たち。
あと、ちょっと思い出せないのですが、
有名なブランド鶏…のお肉。
野菜は、ホッカホカで、お肉は、
とろける感じ…。
塩や胡椒、それと、オリジナルのタレ
につけて、食べるんです、蒸したての
野菜とお肉を!!
美味しくないわけ、ありません!
もう、最高に贅沢な時間でしたね。
「あぁ、一杯いきたいなぁ!」と
思いましたが、義時君は車です。
私だけ飲むなんて出来ません……。
だから、隆子ちゃんたちと一緒に、
お水で我慢しました。
俊光君が、一心不乱にカレーを食べて
います。
米粒を頬っぺにくっつけて、そして、
カレーのルーをこぼしながら食べる
俊光君を見て、目を細めました。
かわいい……。
キュンとします。
子どもができたら、こうなんだなぁ
……と。
そんな俊光君が、バッと顔を上げて、
無邪気な笑顔で言います。
「義時兄ちゃん!
チョコパフェ食べたい!」。
私には、慣れてないからなのか、
話しかけてくれませんが、義時君には、
最高のスマイルを見せる俊光君……。
「こんな笑顔で、頼まれたら、ダメって
言えないよ、オバサンは…」と
思いました。
でも、義時君は、親のような口調で、
「いいけど、頼んだものは全部食べろ
よな。食べ終わってからだぞ、注文は」
と、しっかり答えていました。
何か、将来のパパを見たような感じ。
「スゴイ!もう立派な保護者じゃん」と
思いました。
そんな私に、義時君は、「たしかに、
ここのパフェ、すごくウマいから
食べたら」と言ってくれました。
でも、蒸し野菜と蒸し鶏の定食、
すごく美味しいんですけど、男性向け
と思える量だったので、食べきれるか
どうか曖昧なレベルでした……。
なので、答えは、
「私は大丈夫です。
蒸し野菜と蒸し鶏で、お腹いっぱい!」。
まぁ、それに、『ガッツリ女』なんて
思われたくないですからね!
で、結局、俊光君は、見事にカツカレーと
唐揚げを完食!
なので、義時君と俊光君は、パフェを
注文しに券売機の方に、向かいました。
私と隆子ちゃんの二人だけが残されて……
微妙な雰囲気に……は、なりませんでした。
何故なら……。
隆子ちゃん、しゃべるんです!
いや、よく、しゃべる!
やっぱり、女の子ですね。
いろんな話題をポンポンって。
そして、色々と質問もしてくるんです。
ちょっと、答えに窮するような質問も何個
かありましたね。
大人の女性として訊かれたくない質問も…。
でも、悪気はないのです。
それは分かりました。
ただ、知りたがり屋さん、なんです。
ちょっとオマセで、頭も良い隆子ちゃん
を大好きになってしまいました。
思いました。
「こんなに可愛くて、頭もよくて、
人懐こいから……、小学校入ったら、
男子の憧れの的になるわね」と。
そして、本当に、切実に思いましたね。
「私とは違って、幸せな学校生活、
送ってほしいな」と……。
しばらくして、義時君と俊光君が、
顔が隠れそうな位に、大きなパフェを
手にして戻ってきました。
自分が食べるわけではありませんが、
「ワッ!!」と興奮してしまいました。
良い意味でと言うより、悪い意味で…。
これは一人分じゃないぞ……、
カロリー半端ないな、と。
実際、あのボリュームは、
「女性の敵」です!
あと肥満気味の中年のオジサンたちの。
あれを食べてしまったら、どんなに、
サウナで汗を流しても、その労苦は
無意味になってしまう……、そんな
レベル!
でも……。今、思います。
いつか、体重のこととか、イヤなこと
は全部忘れて、お腹いっぱい、あの
美味しそうなパフェを食べたいなぁ、
と……。
「食べたい!」、「でも、食べたら…。
明日、体重計の上で叫ぶわよ!」と
内心葛藤する私の前で、さぞ美味しそうに
そして、何の心配もないかのごとく
パクパク、かぶりつく男子二人!!
ちょっと、本当にチョコっとですが、
イラっときましたが、私はガマン
しました!
そして…、私は、『欲』と『怒り』に
打ち勝ちました!!
後半は、二人のパフェは見ないことに
しました。で、隆子ちゃんと話すのに
専念して……(笑)。
実際問題、あそこで、太るわけには
いかなかったのです!
近日中に、彼のご両親とお会いする
ことになっていましたからね。
それで、そろそろ男子達がパフェを完食
するかなという頃でしたね。
向こうの方で、背広姿の大柄の男性と
スラッとした女性が、私たちの方を見つめ
ているのに、私は、気づきました。
じっと、見ているのです。
そして、二人で何やら話している。
隣の人たちを見て…?
いえ、私たちを見ています。
訝しがっている私の目の前で、俊光君が、
立ち上がります。
「あッ!!パパ!ママ!」と嬉しそうに
言いながら…。
(著作権は、篠原元にあります)