第十五章 ㉒
文字数 1,700文字
半分夢の中……。
あと数分それが続けば完全に意識がとんで
いたでしょう。
でも、こしまちゃんのアノ一言で、
一瞬にして現実世界に引き戻されました。
こしまちゃんの質問が、私の耳に、
飛び込んできたから……。
それで、あの時。
こしまちゃんは、唐突に、質問したの
です。
姉である不動みどりちゃんに。
「ねえ、お姉ちゃん。
お姉ちゃんとこは、まだなの、赤ちゃん?
私、早く姪っ子を抱っこしたいんだよ。
姪っ子できたら自慢できるし、私が一番
かわいがるから!」と。
実は、私も気になっていましたから。
結婚を控える身として……。
現実世界に戻った私は、聞いていない
フリをしながら、みどりちゃんが、
妹に答えるのを、息をひそめて、
ジッと待っていました。
でも、しばらくしても……、あれは、
10秒、20秒……だったでしょうか。
みどりちゃんは、何も答えません。
静寂の空間……。
「もう、みどりちゃんも寝ちゃった
のかな?」と私は思いました。
しかし、そこで響く声。
「お姉ちゃん!もう、寝てんの!?」。
それでも、何の答えもありませんで
した。
でも、数秒後……。
「こしま……」と、みどりちゃんの
小さな声。
私は、ちょっと罪悪感も憶えましたが
そのまま黙って、動かず、耳に全神経を
集中させました。
そして、私の耳に入ってきた、
みどりちゃんの妹への答えは次のような
ものだったのです。
「こしまさ、こればっかりは、
『授かりもの』って言うからさ……。
それに、うちら両方ともさ、忙しくて」。
私は、直感的に感じました。
本音じゃないな……と。
そして、何かを隠して、言い訳みたいに
なってしまっているな……と。
それは、普段のみどりちゃんからすれば
珍しいことなのです。
何でも直球で、濁さずに、言う人なの
ですから、本来は……。
だから、「何かあるな……」と思いました。
けど、この話は、みどりちゃんとこしま
ちゃん姉妹の話ですから、ここで、私が
口出すことはできません。
そして、こしまちゃんも、姉の返答から
いつもと違う何かを感じ取ったのでしょう
「そうか……。分かった」と返し、
それ以上は何も言いませんでした。
私は勿論、また、妹のこしまちゃん、
それと、やよいちゃんも、もう成人した
女性ですから。
察するところがあったはずです。
不妊症とか、家族計画から避妊している
のかとか、もしくは、夫婦の営みの上で
問題があるとか……。
まぁ、それは、本当に、夫婦間だけの
問題ですから、私たち3人が入り込んで
はいけない話題です。
しばらく、静かな静寂の時間が
過ぎていきます。
でも、私は、分かっていました。
誰も寝ていないな……と。
だって、寝息が聞こえませんし、
隣からも、反対の隣からもガサゴソ
聞こえてくるから……。
そんな中、囁き声が聞こえました。
今度は、やよいちゃんが、こしまちゃんに
ヒソヒソと。
でも、本当に静かな空間でしたから、
しっかり聞こえました。
やよいちゃんの質問も、こしまちゃんの
回答も。
「ねえ、トワのこと思い出した……。
どうしてるかな?
最近、こしまに、連絡ある?」
「あぁ。あっちからは、無いね、全然。
ってか、学校もやめて、一人で産んで
とかさ……。無理がある話だよ」。
深刻な話しだな……と、直感。
だから、黙ってた方が良なぁとも
思いましたが、何故か、あの時の私は、
訊かずにはいられませんでした。
で、2人に声をかけてみました。
「ねぇ、こしまちゃんとやよいちゃん。
ゴメンね。急に、話しに割り込んで……。
もし良かったら、そのトワちゃんって
言う子のこと、聞かせてくれる?」。
突然、部外者の私が話に加わってきたので、
2人とも驚いているのが、暗闇の中でも
ハッキリ分かりました。
でも、こしまちゃんとやよいちゃんは、
その夜、話してくれました。
トワちゃんの身に起こったことと、
トワちゃんがやろうとしている
【無謀すぎる計画】について……。
私と刑事であるみどりちゃんは、
黙って、最後まで聞きました。
ある一人の女の子の身に降り掛かった
悲しい出来事について……。
私は、悲しかったし、怒りさえ憶え
ていました。
だから、刑事である不動みどりちゃん
は、もっと、そうだったことでしょう
……。
(著作権は、篠原元にあります)