第十六章 ⑪
文字数 1,579文字
見渡した。
自分が逃げている間に、何があったのかは
知らないが『団結』してしまっている
この3人……。
どこを攻めよう……?
誰が一番、『マトモ』というか、
「私の話を聞いてくれるかしら?」。
速攻で、婚約者の父親は排除。
この人のせいでややこしくなっている
のだから……。
婚約者も排除。
どうせ父親のイエスマンでしょ…。
じゃあ……、と。
真子は、狙いを定めた。
『対象』は、黒のビジネススーツを
しっかりと着込んでいる居村さん。
同性だし、結婚式のプロなんだから、
「この変な団結意識、洗脳を解いて
あげたら、ちゃんと、私の意見に同調
してくれるはず……」。
だって、それが、当然。
私の考えこそ、『常識的』なのだから。
真子は、意を決して、声を上げた。
「あ、あの……。あの、ちょっと、
良いですか?」。
3人の視線が一気に集中する。
背筋と腋に変な汗が流れる。
でも、3人が黙った『この瞬間』を
見逃すわけにはいかない!!
「行け、真子~!!」と心の中で
呟いてから、声に出す。
「あの。居村さん……。
その、ですね。今、いろいろな意見が
出ていますけど、普通は……。
普通は、その、新郎側と新婦側にわけて
座りますよね」。
そう。あなた、正気に戻りなさい。
普通、常識が一番大切でしょ……。
無言で、あとは、分からせようとする。
だが………!!?
居村は、笑顔で、頷いて、最高に、真子が
望んでいない返答をしてきた!
「そうでございますね。確かに、柳沼様の
仰る通りです……」。
そう、最初は良かった、のに…。
「ですが、先ほど、栄会長様が仰った
席次、席順、スタイルも、私は、個人的に、
素敵だとな、と思います。
そのような、『枠』にとらわれない新しい
披露宴の形、素晴らしいなぁと……」。
真子は、驚きのあまり、声が出そうに
なった……のでなく、逆に、声が全く
出なくなった。
まさか……、赤坂、乃木坂とふざける
余裕は、全くない。
で、真子は、理解した。
「もうダメだ……」と。
婚約者の父親の『提案』に、
婚約者も、……そればかりか、プロの
居村さんまで……!!
「もう、どうにでもなれ!」という
気持ちになってくる。
そして、また、考えた。
「もし、雰囲気が悪くなってる
テーブルがあったら、私が行って、
声かけをしたりすれば良いか……」。
で、ため息が出そうになる。
「何で、花嫁の私が、そんなことまで
しないといけないの!」。
……式当日、披露宴当日。
真子のすべての『心配』は、
取り越し苦労だったと証明された。
真子も、「あんなに、一人で心配して
たけど、無駄だったな」と、それを
認識していた。
正直、披露宴会場に入場するまでは、
気が気でなった。
結婚式が、素晴らしすぎたから…。
「あぁ、披露宴でつまづいちゃったら
どうすんのぉ?」と不安、怒り、心配
……とにかく言葉じゃ表せないもの
だった…。
さて、一方、披露宴の招待客たちは……。
新郎新婦より一足早く、披露宴会場に
入ろうとする招待客たちの顔は輝いて
いる。
目が潤んでいる女性たちも数多く見ら
れる。
みんな、式の一コマ一コマに感動し、
興奮し、喜びを共有しているのだ…。
みんな同じように、「スゴイ、良かった
ねぇ」とか「感動で、私も泣いちゃった」
と喋りながら、チャペルの下の階にある
披露宴会場に向かっている……。
だが……。
披露宴会場の入り口で、義時と真子の
【手作り 席次表】を受けとった面々は
そろって、困惑の表情を一瞬浮かべる。
「あれ?同じテーブルの人の名前、
ほとんど知らない。誰、この人?」と
思う人が、ほとんどだ。
夫婦そろっての参加者たちや、既婚者
グループを除いて……。
ところどころから、「私たち、離れ離れ
なんだね?何で!?」とか、「えぇ!
知らない人ばっかのテーブルだぁ!」、
「お前もかぁ!!」と言う、真子が
聞いたら、顔を青ざめること確実な
『会話』が、聞こえてくる……。
(著作権は、篠原元にあります)