第七章 ②
文字数 3,235文字
そう強く思いました、改めて!!
あと気づきました。
私の斜め前に、小羽ちゃんが座っている
ことに。
それだけで、私は嬉しくなりました。
小羽ちゃんの背中は小さくて、また、
髪の毛はキレイなポニーテール。
それが、印象的でした。
話……、そうです、その刑事の女性は、
よく通る声で、私たち3年生に、
一つのことを話してくれました。
言いづらいですが、『性』に関する
内容でした。
結婚するまで異性との性関係は待ちなさい、
とその刑事さんはハッキリと言いました。
どんなに避妊しても、妊娠してしまうこと
があり、それで高校生活がダメになること
があるのよ……と。
つまり、高校生活を真面目に、そして楽しく
過ごすために、性の問題をちゃんと考え、
異性との交際関係に気をつけないさいよ……
と言う話の時間でした。
私は聞きながら思いました。
「私には、全く関係ないわ。だって、私、
男なんかとそう言うことするつもり、
一切ないもの!」と。
それに、高校に通うつもりなんかも、
さらさらないのですから!
ただ、「あの子やあの子、それから、
あいつには、絶対に必要な話ね」とは、
思っていました……。
私は、卒業式の日、その日のことを、
思い出したのです。
式を終えて、後輩に囲まれている
小羽ちゃんを見つめていて。
そして、思いました。
「小羽ちゃんは、あの話を聞いて、
どう思ったんだろう?小羽ちゃんは、
そう言うコトやったことないよね?」と。
そんな質問、死んでも面と向かって、
訊けるわけありません。
でも、とにかく、一言で良いから
挨拶だけはしたかった。
だけど、結局、小羽ちゃんと何も
話せませんでした、その日。
「もう2度と、小羽ちゃんと会うこと
はないんだな」と思いながら、私は、
校門へと向かいました。
桜の花が舞っていました。
もう一度、校舎の方を振り向きました。
みんなは希望を胸に去るこの校舎を、
私は復讐心を胸に離れて行くのでした。
その日の夕食は、雪子おばさんが、駅前の
お寿司屋さんに連れて行ってくれました。
雪子おばさんは、
「卒業おめでとう。真子ちゃんの卒業式に
出れて、嬉しかったわ」と言って
くれましたが、
「峯子さんにも、この真子ちゃんの
立派な姿を見てもらいたかったわ」とも
言いました。
やっぱり、雪子おばさんもそう思って
たんだ……、と私は思いました。
私だって、母に見てもらいたかった、
私の卒業式の姿を。
つまり、母と一緒に、幸せな卒業式を
迎えたかった。
つまりは、母のあの手紙なんか読まずに、
自分の出生の秘密を知らないままで、
いたかった!!
でも、知ってしまった。
知った以上は、復讐の道に進むしか
ありません!
私は、そんなことを考えながら、
箸をすすめました。
何となく、ひっそりとしたお祝いの
食事の時間でしたが、一人ぼっちではなく、
雪子おばさんが一緒にいてくれている
ことが、どんなに幸せなことなのか、
私はヒシヒシと感じていました。
内心、思ってしまっていました。
「このまま雪子おばさんと、一緒に、
普通に暮らしていければ……。
そうしたい。そうして、グランドスタッフに
なって、普通に結婚もして……。
でも、ダメよ!決めたんだから!!」と。
葛藤していました。
心のある面では、この雪子おばさんと、
一緒にいたい。
でも、心のある面では、自分を
奮い立たせて、復讐へと自分を急かす、
自分。
そんな私を見つめながら、雪子おばさんは、
唐揚げを小皿に取り分けてくれました、
3個も。
私は、その夜、今後のことを真剣に
考えました。
雪子おばさんは、私が、松山の高校に
通うものと思い込んでいるけど、
こっちにはそのつもりはさらさらなく、
ある程度の準備が済んだら、松山を出て、
川崎市、そう、あの夜母とクズの平戸が、
遭遇した地に向かうことになる。
復讐を果たしに……。
それまでの、短い間、どれ位になるかは
分からないけど、使えるモノを使って、
情報を集めていく。
あと、後ろから刺して、一刺しで確実に、
平戸を殺すための体力作りもしないと!
それらに専念しないといけない。
だから、高校へ通うことは、絶対にない。
私は、「いつ言おうか?」と考えました。
高校の件を、です。
復讐計画のことは、絶対に言えません。
止められるのが、確実だからです。
でも、高校には行かないと、早いうちに、
ハッキリと言っておかなければ、
松山市で色々調べたり、体力をつけたり、
つまり、『人を殺すための下準備』を
する時間が取れない……。
私は、次の日の夕方、雪子おばさんに
声をかけました。
「雪子おばさん?」と。
雪子おばさんが、ひょいと顔を上げます。
私は、つばを飲み込んで、覚悟を決めて
言いました。
「雪子おばさん。ごめんなさい!
私、来月から高校に行くことになって
いるはずだけど、行けない。
行きたくないの!
しばらく、ゆっくりと、今後の人生に
ついて考えてみたいの」。
雪子おばさんが、真剣な表情で、
私をじっと見つめてきました。
明らかに、戸惑いと困惑が、その目に
満ちていました、雪子おばさんにしては
珍しく。
雪子おばさんは、「分かった。
真子ちゃんも、もう高校生だから、自分で
しっかり考えて、好きなようにしな」とは
言ってくれませんでした。
明らかに雪子おばさんは、反対と言う態度、
姿勢、しゃべり方、物言いでした。
私と雪子おばさんは、真剣に、
話し合いました。
お互いがお互いを説得しようと必死でした、
あの時は。
2人で、夜中まで話し合いました。
私は、復讐のことには一切触れないように
気を付けながら、とにかく
「高校は行かない。家で、いろいろ考える
時間をください。その代り、掃除、洗濯、
畑仕事とかもしますから!」と
主張しました。
雪子おばさんは雪子おばさんで、
「まだ高校生なんだから勉強しなさい。
勉強しながら、高校に通いながら、
将来のことを考えればいいんよ。
高校は3年あるんだから」と、
ごくまともな意見を理路整然と語ります。
雪子おばさんが言っていることの方が、
100%正しいと分かるのです。
でも、私は復讐を誓っているのです。
高校なんかにいって、時間を無駄に
している余裕は、ありませんでした。
平戸が何らかの理由で急に、ポックリと
死なないうちに、急いで手を下さねば!!
だから、私は、頑なに、雪子おばさんの
意見を退けました。
結局、雪子おばさんが折れてくれました。
心苦しかった。
正直、かなり心苦しかった。
私を娘にしてくれた、雪子おばさんの
意見・善意を退け、雪子おばさんを
ねじ伏せる形になってしまったのです
から……。
すぐに、方向を変えて、
「ごめんなさい!雪子おばさん。
わがままばっかり言ってしまって」と
土下座して謝罪し、
「実は、私、ある人を殺して、
復讐を果たそうと思っているの……」と
言いたかった。
そうすれば、雪子おばさんは、
思いっきり私を叩いてくれる、そして、
私を止めてくれる……。
そう思いました。
でも、私の中の『鬼・奥中真子』が、
その弱さ、本音の部分を黙殺しました。
当然ながら、雪子おばさんは、私が
しばらくは学校に行かずに、家で
色々考えたり、将来を模索するのだろう
と、そのような理解したはずです。
私が復讐を企んでいる、殺人を計画して
いるとは夢にも思わなかったでしょう。
ですから、最後は、
「分かったわ。真子ちゃんも辛いわよね。
色々私も強く言っちゃって、
ごめんなさいね。
分かった。
しばらく、高校行かないで、ゆっくりと
将来のことを考えると良いわ」
と言ってくれました。
私は、雪子おばさんを騙しているようで、
いいえ、実際騙しているのですから、
心苦しかったし、ズキンと胸が痛みました。
雪子おばさんは、立ち上がり、
雪子おばさんの布団が敷かれている部屋に
入っていこうとしました。
もう話は終わったのでした……。
次の週、私は、雪子おばさんと松山へ
向かいまいた。
久しぶりの松山です。
でも、懐かしさや喜びは、感じません。
焦りと緊張感に満ちていました。
復讐を誓い、燃える怒りを胸に隠している
私の、愛媛県・松山市での、
『復讐準備の生活』が始まったのです……。
(著作権は、篠原元にあります)