第十三章 結われる絆 ~始まる再会後の日々~①    第二巻①

文字数 3,886文字

11月24日の木曜日。
私は、大町通商店街で、みどりちゃん、
そして、義時さんと再会しました。
小学3年生の時からずっと会って
いなかった、私たちは、22歳の冬に、
再会したのです。
しかも、劇的な……と言うのが大袈裟で
ないほどの、ドラマチックな再会!



でも、まさか、あの二人と、再会するとは
思ってもいませんでした。
そして、再会できたこともそうですが、
あのような再会のカタチになるなんて…、
本当に、人間の想像や計画を遥かに超える
何かが働いたとしか言いようがないの
です。


まさに、最高の再会でした。
私は、長い間恨み、憎み、復讐したいと
思っていた、その二人……、
義時君とみどりちゃん、この二人に、
助けてもらったのです。
そして、二人は、勇気をもって、
名乗り出てくれて、謝罪までしてくれて、
私たちは、『再会』できたのです!
それで……、あの再会の日から、
私の人生は、ガラッと変わってしまい
ました。
色々な意味で……、もちろん、良い意味
でですが……。


そして、そして!!
信じられないようなキセキも起こり
ました。
なんと、こんな私が、プロポーズを!!
そうです、冗談じゃなく、本当に、
私が、プロポーズされてしまったのです。

ずっと結婚なんて考えることも
できないでいた私が、突然、ある日、
プロポーズを受ける……。
今でも夢みたい……!

そして、昔の私なら、即「ごめんなさい!
結婚は……」でした。
でも、私は、された時…、
そうは答えなかったのです、相手の
男性に。
そのことでも、私にスゴイ変化が起こった
んだと分かります。



皆さん。
誰からだと、思います?
誰に、プロポーズされたか知りたい
ですか?
「知りたい!」と言ってくださる方が、
一人もいなくても、私は、口を開き
ます。
言いたくて言いたくて、しょうがない
んです!
みどりちゃんからは、「のろけは、
ダメだよ!!」と笑いながら言われ
ましたが、やっぱり、興奮は抑えきれ
ないのです!


皆さん。
あの再会の日から、ちょうど1か月後に、
私は、義時さんから……です!!!
正直、「夢だ、これは夢だ!」、
「聞き間違え?」だと……。
だって、私なんかが、プロポーズされる
なんて、夢にも思ってなかったから。




私は、あの再会の日に、義時さんに
謝ってもらい、そして、素直に赦せ
ました。
と言うより、助けてもらったこと、
つきまとう男を取り押さえて、私を
助けてくれたことへの感謝が、
大きかったですね。
赦すって言うような上から目線じゃなく、
ただただ、「ありがとう」の気持ちで、
いっぱいでした、警察署の廊下で…。


そして、私は、警察署の1階で、
義時さんの隣に座りながら、
気づいてしまったのです!
自分の胸が高鳴っていることに……!
心臓が異様に、ドキドキと……。

ウソ、私……?!
それまでの私なら絶対に抱かない
感情を、自分が抱いていること……。
そう、それは、おそらく、
「淡い恋心」でした。


そんな自分の想いに、驚きでした。
「淡い恋心?
私、どうなってんの?」と。


隣に座る義時さんに、気づかれまいと
必死になっていました……。


でも。
隣に義時さんが、いるだけで幸せだった。
正直、ずっと思っていました、警察の
廊下で…。
「あぁ。この時間が、ずっと続いて
ほしいなぁ。
みどりちゃん、まだ戻ってこないで、
お願いだから!!」。
みどりちゃんには、絶対に内緒ですが…。






そして、その日、夜遅く、帰宅してから、
私は考えました。
次の日も考えました、その次の日も。
結論は、「恋しちゃった。
私、変わっちゃった」でした……。
再会以前は、恋、男の人は、もっての
外でした。
でも、再会の日……、いえ、再会の時
から、私は、義時さんが、気になって
気になってしょうがなくなって
しまった、そう、正真正銘の恋心を、
抱いてしまったのです……。




義時さんとは、みどりちゃんが、
取り調べをしている間、警察の廊下で、
隣に座り合いながら、色々話しました。
いいえ、私は、話し過ぎてしまいました。
だって、義時さんは、ズルい位の
『聞き上手』なのです。
私は、素直に、しゃべっていました、
気づいたら……。しかも、全部。
あの小学校3年の事件以降のこと、
それから、母の死。
そして、平戸に追われるように
なってしまった経緯を……。

私が話し終えると、義時さんは、
「柳沼さんッ!!
本当にごめん!
俺のせいで、色々と大変な目に……。
本当に、すみませんでしたッ!!」と
深々と頭を下げて謝罪してくれました。

その素直な謝罪が、嬉しかった。
でも、その瞬間、私はハッとしました!
「あッ!全部話しちゃった……」と。
そうなんです。
私は、義時さんを責めることになる
内容の話をしてしまったのです。
それと、自分が、『夜の世界』で、
ずっと働いてきたことも……。


私は後悔しました!
「何やってんの、私?!
こんな話をしたら、絶対に、気分悪く
なるじゃん!
あぁ、良いムードだったのに、
何をペラペラ話してんのよ!」と。
もう穴があれば入りたい……と言うより、
義時さんがいなければ、自分で自分に、
ビンタを喰らわせたい、そんな気分で
した。





家に帰ってからずっと考えていました。
私が話したから……。
義時さんは、私のそれまでの生活や
仕事のことをもう全部知っている…。
思いました。
「ダメだよね。
あんなこと話しちゃったんだから……。
夜の仕事してて、そこの客に追われる
ような女、軽い女だって、思われた
はず……。残念過ぎるなぁ!!」
本当に本当に、無念でした。
再会はしたけれど、これで、もう
終わりでしょう。
再々会やこれ以上の進展は、絶対に
あり得ないのです!
すぐそばの缶ビールに手は伸び、
そのまま、ヤケ酒でした。
それまでの『悪い習慣』は、
こういう時に出て来るモノです。




でも、です!
そう思ってたのに……!
諦めていたのに……!!
まさかの義時さんからの突然の
プロポーズ!!
本当に突然でした。

でも、「再会して、まだ1か月。
二人だけで会うのも今日が初めて。
それで、プロポーズなの?」とは、
思いませんでした。
ただ、「この時間、止まれ!」と
思いました。
そして、さっきも言ったように、
「夢だ、これは夢だ!」とか
「聞き間違えだよね?」と言う疑い…。


実際、義時さんに見られないように、
左手で、左足のふくらはぎあたりを
つねってみました……。
夢ではありませんでした!
嬉しくて嬉しくて……、
自制しなければ、飛び上がっていた
かもしれません。

ちなみに……、義時さんのプロポーズの
言葉は、絶対に秘密です!
私の胸の中に、大事に大事に、
しまっておきます。
だって、あのセリフは地上で唯一、
義時さんから私への『愛の告白』なの
ですから!
いくら、私の長い話をずっと聞いて
くださっている皆さんだからと言って、
教えることはできませんッ!
ごめんなさい!
だって、みどりちゃんにも、教えて
いないほどですから……、どんなに
せがまれても!!


そして……。
義時さんからプロポーズされた私が、
開口一番何と言ってしまったか、その後、
どのような展開になったのかも、
絶対に、絶対に、秘密です!


でも、言えるのは、今までの私のコトを
知っていて、それでも、全部をひっくる
めて本気で愛してくれている……。
そう分かったのです、義時さんの
プロポーズで……!
だから、躊躇いも、それまで持っていた
諦め、後悔、恐れ全部を捨てて、
私は、義時さんと一緒になることを
決心しました。



その後、カップルらしい夜のデートを
しました。
二人で、イルミネーションの灯りの下を
歩くだけ……、手をつなぐこともなく。
周りのカップルとは、ちょっと違う…。
でも、最高ッに幸せでした!
私達、世界の中心にいるカップル
だなぁと、私は思いました。
また、「ちょっと前までの私には、
考えられない、幸せ……」とも思い
ました。
本当に、そうです!
しみじみと幸せを実感しましたし、
今でも、彼の存在ゆえの幸せに浸って
います。


その夜、歩きながら、私は、正直に、
雪子おばさんのことを伝えました。
体が弱っている大伯母、いいえ、
母のために、早く結婚式を挙げたいと。
すると、義時さんは、すぐに、
同意してくれました。
「分かった。じゃあ、来年中に、
結婚式を挙げようね」と言ってくれた
のです。
それと、義時さんの方もある理由を
打ち明けてくれました。
そして、「だから、こんなに早く
プロポーズしちゃったんだ。
普通なら、まず、お付き合いのお願い
から始めるのにね……。
ビックリさせたよね?」と、
優しく言ってくれる義時さん。
私は大きく首を振りました。
本当に、本当に、嬉しかったのです
から!
それに、本当に結婚するかも分からない
のに簡単に付き合ったり、肉体関係を
求め合ったり、一緒に暮らしたりする
バカな人間たちとは違う誠実な人だな、
と本当に思いました。



そして、その日。
私たち二人は、
「半年後、来年の6月24日にしよう」
と決めました。
つまり、半年後に挙式と決めたのです。
半年後に夫婦になる、結ばれる、と
決まったのです。

「これは、かなりの短期戦なのかな?
よく分からないけど……。
とにかく、一緒に頑張ろうね」と言って、
優しく微笑んでくれる義時さん。
一生ついていく……と心の中で誓い
ました。
「かなり大変だろうけど……。
でも、二人なら大丈夫」、私はそう考え
ながら大きく頷きました。



たった半年で、式に関する全ての準備や
結婚後の生活に関する諸々の用意なんて、
ムリがあります。実際に、考えていたよう
に、いや、想像以上に、大変でした。
式場さえ決まって……、いえ、式場の
候補すら考えて……、いえ、式場の一覧
すら手元にないのですからね……。
あの時点では……。
でも、私は強く思っていました。
「絶対に、雪子おばさんに、
花嫁姿を見てもらわないと!!」と。





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登場人物紹介


奥中(おくなか) 真子(まこ)のちに(養子縁組により)(やぎ)(ぬま) 真子のちに(結婚により)栄真子




 本書の主人公。小学校3年生のあの日 、学校のクラスメートや上級生、下級生の見ている前で、屈辱的な体験をしてしまう。その後不登校に。その記憶に苛まれながら過ごすことになる。青春時代は、母の想像を絶する黒歴史、苦悩を引継いでしまうことなる、悲しみ多き女性である。





(あし)() みどり



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメートであり、大親友。



しかし、小学校3年生のあの日 、学校の廊下を走る真子の足止めをし、真子が屈辱的な体験を味わうきっかけをつくってしまう。



その後、真子との関係は断絶する。










(よし)(とき)



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメート。葦田みどりの幼馴染。



小学校3年生のあの日 、学校の廊下で真子に屈辱的な体験をさせる張本人。











奥中(おくなか) 峯子(みねこ)



本書の主人公、真子の母。スーパーや郵便局で働きながら、女手ひとつで真子を育てる。誰にも言えない悲しみと痛みの歴史がある。








雪子(ゆきこ)



本書の主人公、真子の大伯母であり、真子の母奥中峯子の伯母。


愛媛県松山市在住。







銀髪で左目に眼帯をした男



本書の主人公、真子が学校の廊下で屈辱的な体験をするあの日 、真子たちの



住む町で交通事故死した身元不明の謎の男性。



所持品は腕時計、小銭、数枚の写真。










定美(さだみ)(通称『サダミン』)



本書の主人公、真子が初めて就職したスーパーの先輩。



優しく、世話好き。



だが、真子は「ウザ」と言うあだ名をつける。









不動刑事



本書の主人公、真子が身の危険を感じ、警察署に駆け込んだ際に、対応してくれた女刑事。



正義感に溢れ、真面目で、これと決めたら周囲を気にせず駆け抜けるタイプである。



あだ名は、『不動産』。警視庁阿佐ヶ谷中央警察署生活安全課巡査部長。
















平戸



本書の主人公、真子につきまとう男。



また、真子の母の人生にも大きく関わっていた。






愛川のり子



子役モデル出身の国民的大女優。



〔あいのん〕の愛称で、幅広い世代から人気。



映画、テレビ、雑誌などで大活躍中。







石出(いしで) 生男(いくお)



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメートであり、幼馴染。小学校3年生のあの日 、真子を裏切る。




(やぎ)(ぬま) 真子のちに(結婚により)(さかえ) 真子



 本書の主人公。旧姓は、奥中。



小学校3年生の時、学校中の見ている前で屈辱的体験をし、不登校に。



その後は、まさに人生は転落、夜の世界へと流れていく。



だが、22歳の時小学時代の同級生二人と再会し、和解。回復への一歩を歩みだす。

(さかえ)(よし)(とき)



本書の主人公、真子が小学校3年生の時、屈辱的体験をさせた張本人。



そして、真子が22歳の時、男に追われているところを助けた人物でもある。



その後、真子の人生に大きく関わり、味方、何より人生の伴侶となる。

柳沼雪子



本書の主人公、真子の大伯母。養子縁組により、真子の母となる。



夫は眼科医であったが、すでに他界。愛媛県松山市で一人暮らしをする愛の女性である。

定美(さだみ)(通称・『サダミン』)



本書の主人公、真子が大事にしているキーホルダーをプレゼントしてくれた女性。



真子が川崎市を飛び出して来てから長いこと音信不通だったが、思いもしないきっかけで、真子と再会することになる。

不動みどり



本書の主人公、真子が小学校3年生の時、屈辱的体験をするきっかけを作ってしまう。



そして、真子が22歳の時、再会。つきまとい行為を続ける男から真子を助ける。



旧姓は、葦田。警視庁阿佐ヶ谷中央警察署生活安全課・巡査部長。

都和(とわ)



明慈大学理工学部で学んでいた女性。DVによる妊娠、恋人の自殺、大学中退……と、真子のように転落人生を歩みかけるが、寸前を真子に助けられる。

愛川のり子



〔あいのん〕の愛称で、幅広い世代から人気。



映画、テレビ、雑誌、海外でのドラマ出演など活躍の場を広げる国民的大女優である一方、息子の『いじめ報道』に心を痛め、また後悔する母親。



本名は、哀川憲子。

()(おり)



結婚した真子の義姉となる女性。



真子との初対面時は、性格上、真子を嫌っていたが、



後には、真子と大の仲良し、何でも言い合える仲になる。



名家の出身。



 

石出(いしで) 生男(いくお)



本書の主人公、真子を裏切った人物。



真子が小学時代の同級生二人と再会し、和解した夜に自殺。



第二巻では、彼の娘の名前が明かされる。

新名 志与


旧姓、長谷島。

第一章では、主人公に、『しーちゃん』と呼ばれている。

夜の世界で働いていた真子にとって、唯一の親友と

呼べる存在、姉的存在だった…。


ある出来事をきっかけに、真子と再会する(第二章)


小羽


 真子の中学生時代(奈良校)の同級生だったが…。


第二章で登場する時には、医療従事者になっている。

居村


 義時と真子が結婚式を挙げるホテルの担当者。

ブライダル事業部所属、入社3年目の若手。

 

真子曰く、未婚、彼氏募集中。

不動刑事


主人公の親友である不動みどりの夫。


石出生男の自殺現場に出動した刑事課員の1人。



最愛の妻、同じ署に勤務する警官のみどりが、

自分に隠れ、長年自宅に『クスリ』を保管、しかも、

所持だけではなく、使用していた事実を知った

彼は……。

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