第十六章 ㉜
文字数 3,473文字
時間枠が一致するので、
交互に読まれることをすすめる)
勿論、元ラーメンマニアで、現ラーメン屋
奥さんのしーちゃんは、それも話して
くれましたよ。
「それでさ、告白されてね……。
ちょうど、社長の娘さんが会社に入るって
タイミングだったし、彼も『家を守って
くれ』ってタイプだったのもあるし、
それにさ、うちもマコッちも、ホスト
通いとかしなかったし、違法なことして、
あっちに送る……ってこともなかった
じゃん。だから、貯金はかなりあったから
さ……」。
そうです。
私は、大々々の『男嫌い』でしたし、
しーちゃんも、周りの子たちと違って、
そういう店に出入りすることはして
いませんでした。
嬢にしては、珍しいこと、なのです。
大概の女の子は、稼いだら、ほとんどを
ホストのクズに使っちゃいますからね。
それに、そうです。ピーナのクズ共は
私以上に……、まぁ、あの頃かなりの
ことをしていた私が言うのもなんです
が……、とにかく、あの手この手で金を
手に入れて、送金するわけです。
でも、私もしーちゃんも、いわば、
異端児的存在でしたので、ホスト遊びは
しなかった。
それに、お金を送るべき家族もいない
…。で、お金は貯まる一方です。
まぁ、ラーメン店巡りに使うお金は別
として、ですけど。
あとは、私個人で言えば、酒とタバコと
優越感に浸るための、『高値の出前』
か……。
さて。
すみません、私の回想を入れて
しまって……。
しーちゃんの話に戻しますね。
「だからさ、思い切って、会社辞めて、
『専業主婦』……?
なったのよ。
で、意外と、うちの人さ、若いわりに
稼いでてね。
生活は別に彼の給料だけで十分やって
いけるって感じ……。
まぁ、慣れない主婦業とご近所との
お付き合い……、最初、メッチャ苦しんだ
けどね!」。
なんとなく分かります。
『夜の仕事』なんかしていると、私の
実体験から言えますが、ご近所付き合い
なんてゼロです、って言うか、到底
できっこありません!
だって、普通の奥様方、普通の家庭人が
活動している頃に寝てて、それらの人達が
熟睡している頃に、こっちは稼いでいる
わけですから……。
「新妻のしーちゃん、苦労しただろう
なぁ」って思いましたね。
で……。すみません。また、私の『解説』
入ってしまいましたね。
クセなんです。
そう、しーちゃんが続けます。
「それでもさ、どんどん順応していってさ
それなりに、自分的にも『あれ?案外、主婦
向いてるかも?』って思え出した頃ね。
うん。そう。『これから、どんどん、家事
とか頑張って、あの人をサポートしていこう
!!』って思えるようになった頃……。
つまりさ、主婦として余裕ってのかな、
そう言うのがついてきた、ちょうどその頃
のことなんだけどさ。
家に帰ってきた彼がさ、急に、
『ちょっと、座ってくれる?』って、
いつもと違う、何か、スゴイ思い詰めた
表情で言うわけ……」。
そして……。
年齢の割には、かなり稼いでいたという
新名家の旦那は、突然、新妻に宣言する
のです!!
「脱サラして、ラーメン屋を始めたい!」
と……。
皆さん。
ラーメンマニアであるしーちゃん。
彼との結婚もラーメンが『縁』となり、
結婚した、しーちゃん。
彼女は、その、急に、脱サラ宣言した夫に
どう反応したと思いますか?
「良いね!!」。
「はぁあ!?」。
さすがに……。さすがのラーメンマニア女子
であっても、もう主婦です。家庭を持って
いる身です。
それに、「これから、さらに、夫をサポート
してあげて、いつかは、赤ちゃんも……」と
考えていたわけです、彼女は!
だから、しーちゃんは、後者だったそう
です。
うん。分かります。私でも、そうだと
思います……。
しーちゃんは言いました。
「私ね、『この人、私に隠れて、ラーメン
食べに行き過ぎて、頭おかしく
なっちゃったのかな?』って本気で、
思ったわ。
だってさ、こっちは、主婦として家事やら
料理の腕前も上げてるって、自分でも実感
し出してさ、やる気も夫への愛情も、
それまでよりもどんどん深まって行って
るの。
それにさ、彼には言わないけど、
『そろそろ赤ちゃんも』って思ってるのよ。
それなりに、家庭計画とか未来像とかも
あったしさ……。
それなのに、『脱サラして、ラーメン店
開業』でしょ?
百歩譲って、私に隠れて、ラーメン店に
行くのは良いわ。
それで、夜遅くなったり、用意したご飯を
全部食べてくれなくても……。
でもさ、自分でラーメン店開くって……!
準備は?場所は?修業とかは?生活は?
って、考えるじゃん、こっちはさ。
それに、失敗したら、夫婦そろって、
路頭に迷うわけだしさ……」。
しーちゃんは、猛反対です。
説得します。
現実的なことを、語って。
でも……。
普段は、……と言うより、生まれつき
無口だと、妻のしーちゃんが信じ切って
いた旦那さんが、その夜は、大いに話した
と言うのです。
「俺は、君と結婚するまで、それこそ、
ラーメン屋を巡ることの他、全然、金を
使って来なかったんだ。
同僚たちに、女遊びやら酒やら声かけられ
てもね。
だから、君も知ってる通り、俺名義で
ずっと貯まってはずなんだ。
頼む!!
夫として、男として、一生で一度だけの
決断なんだッ。
絶対、しよちゃんが、後悔するような
ことにならないように、死ぬ気で、
頑張る!!
応援してくれッ!!!」。
と、まぁ、こんな趣旨のことを言い張った
そうです。
気が強く、これと決めたら絶対に引かない
女である、しーちゃんに。
初めて見る夫の『本気の気迫』と、
真摯な告白は、新妻の心を完全にノック
アウトしました。
しーちゃんは、言います。
「こっちはさ、絶対に、取り合うつもり
なかったの。
でもさ、普段、『招き猫』のような人
なのに、それが、まるで、集団で
ワーワー騒ぐ女子高生並みの『マシンガン
トーク・マシーン』になっちゃてるの…。
で、怖くなったねさ、実は。
これ、このまま、ほっといたら、やばい。
今でも、うるさくてしかたないのに、
ここで、私が引かなかったら、この人、
ひっきりなしに言って来て、私の目を
閉じる時間、睡眠時間さえくれないわ
……」と。
そうです。
つまりは、気が強く、夜の世界にいた頃は、
クズ集団、そうです、暴走族野郎4,5人に
女1人で立ち向かい、追い払ったという伝説
保持者のしーちゃんが、『根負け』した
わけです。
たった1人の男性に、一夜で……。
それと、あとは、本当に、夫の熱情を妻が
理解した、と言うことでしょう。
「それでさ。
とにかく、彼の貯金の大半と退職金全額を
ぶっこんでね、開店にこぎつけたわけ
なんだけどさ。
まぁ、予想通り、最初の頃は、ダメダメで
失敗の連続でね。
正直なところ、私もバイトしたりして
何とかさ……。
でも、ある時さ、何か、急に閃いたみたい
でね、それからは……。
まるで、あれよあれよ、だよ、本当。
だからさ、私、今なら思う。
あん時、反対し続けないで良かったって
……。
もし、私が、反対の立場取り続けてさ、
彼が、結局、脱サラ諦めてたら、
今みたいに、夫婦2人で厨房に立つなんて
ことも出来なかっただろうし、自分の夫が
真剣な顔つきでラーメン1杯と向き合う
姿を見るなんて……できなかったんだもん
ねぇ……」。
感慨深げに語る、しーちゃん。
目はどっか遠くを見てるよう……。
分かります。彼女は、愛する夫を眺めて
いるのです。
彼女の目で分かります。
そして、私は……。
彼女の惚気話を聞かされていたのです。
そして、今日……。
千葉県千葉市まで、彼女は、ベビーカーを
押してやって来てくれたのです!
そう、主婦のしーちゃんが。
そして、私は、初めて、先輩である
しーちゃんの赤ちゃんとも会えた
わけです……。
かっわいい、女の子でした。
ぐっすり眠っていました、ずっと。
式の前に、しーちゃんと一緒に控室に
来てくれた時だけは、起きてて、
私を見てぱぁっと満面の笑顔で笑って
くれて……。
まさに、本当に、一瞬で、心奪われました。
その笑顔、破壊力大、そうです、危険級
でした(笑)
で、
しーちゃんに、「抱っこしたい!」と
頼んだですが、先輩であり、先輩花嫁でも
あるしーちゃんは、OKを出してくれません
でした。
「よしな。3つの意味で!
まず、うちの子、超重いからさ。
おデブちゃんで、2歳児って間違えられる
位なんだよ!式の前に、腕痛めちゃマズイ
よ……。
あと、この子、何でか、私以外の女の人に
抱っこされると泣くんだよね。
いや、これママバカじゃなくて、本当
だからさ。
あと、3つ目。泣いたら……、まぁ、泣かなく
ても、万一、そのウェディングドレスに
よだれとかついたらヤバイから。
また、今度抱っこして」と。
その時のしーちゃんは、まさに、母親の
顔をしていました。
(著作権は、篠原元にあります)