第十六章 ㊴
文字数 2,569文字
ぜひ、そちらもどうぞ!)
ちなみにですが、あの日までは…。
私にとって、夫との『夜の時間』は、
苦痛と快感が、まさに半々でした。
言い方を変えるなら、楽しみにしてる
自分もいたりして、逆に罪責感がさらに
煽られるわけです。
助かったと言えるのは、夫婦共働きで、
しかも、両方とも警官だった、ことです。
刑事課の夫にも生安課の私にも、週に
何度か『当直』が、まわってきます。
それは、新婚だからとか、女だからとかで
免除してもらえるわけじゃありません。
その『当直』のおかげで、週に何度かは、
思えたわけです。
「今夜は、そういうことナシだから……。
あの人を騙すってことには、ならないん
だよね」と。
でも、夫婦でそういう行為をしないだけで、
経口避妊薬を服用するという事実には
変わりありません……。
しかも、署内で飲まないといけない。
まぁ、トイレもありますし、隠れて飲める
場所に困るわけではありませんが……。
で、『当直』の日以外、それと夫の『当直』
の日以外は…。
それこそ、毎晩、夫に求められるのです。
こっちも、「イヤ!」とは言えません。
言えば、見つかる可能性が倍増するで
しょうし、そのまま、「授かりものだから
ね……。焦らずに、行こうね」という感じ
で、いてもらった方が良いのですから。
それに、自分自身、初めての日に感じた
『不安』の通りに、騙している夫を求めて
いるのです。
自分の理性より、自分の『女としての性的
感情』が勝り、その夫との行為を求めて
叫んでいるのです、心の中で……!!
私は、自分に呆れました。
いえ、自分が怖くなりました。
「妊娠しないように、服用している
のに…。騙しているのに……。
それでいて、抱かれたいと思ってる…」。
少しずつですけど、女としての悦びも
感じられるようになってきている。
そして、自分からも積極的に動いている
……。
それらは事実なのです。
でも、依然と、騙し続けているわけです。
最愛の夫を。
世界で唯一の配偶者を。
何か、自分が、『今までに取り締まって
きた悪女達』と同じように思えてきて
しまうのです。
ゾッとします。
でも、だからと言って、夫に、ありのまま
話そう、とは思えませんでした。
そうしたら、今感じている、そして、
今手にしている幸せは一瞬にして消え去る
ことになるから。
よって。
私は、このまま『偽装』を続けて、
『性行為』もしつつ、『結婚生活』を維持
することを選んで、今まで、やってきた
のです。
内心、勿論、苦しかったですよ!!
彼は、一心に私を愛してくれている。
夫は、他の女に目もくれずに私だけを
求めてくれる。
情熱的に私を抱いてくれる。
そして、時に、「男の子が生まれたら
一緒にキャッチボールをするんだ」とか
「女の子なら変なクソ野郎に騙されない
ようにせんとな」とか、純粋な顔つきで
言うんです。
あと、「最初は、男の子の方が良いな!」
とか……。
私は!
適当に答えたり、相槌を打つだけです。
だって……。
こっちは、分かっているのですから。
どんなに、夫が私を抱いても……。
夫が、男性用の避妊具を使用しないで、
これまで通り、私の『中』で果てたと
しても。
私たち2人の休日がたまたま一致した
日に、いつものように夫が、朝から
私を求めてきたとしても……。
絶対に、絶対に、妊娠はないのです!
私は、計画的に、そして、緻密に服用
しているのですから!!
だから、絶対に、彼が、私たち2人の
子を抱くなんて…あり得ない。
それを、私だけが、知っている。
そんな状態が、続きます。
まさに、生き地獄的な……。
でも、一番、申し訳ないというか、
一番の被害者は、私なんかじゃなく、
夫なんですよね。
本当に、申し訳ないことをして
きたと、思います。
反省しても、反省しつくせない!
彼の善意、愛、素直さを踏み躙って
きたのですから。
彼の抱擁、彼のキス、彼の手や口
による愛撫、彼の遺伝子……、全部を
無駄にしていたのです、この妻は。
もし、彼が、私以外の、ちゃんとした
素晴らしい女性と結婚していたなら
……。
彼は、すぐに、『子どもの父親』に
なれてたでしょうに。
そうです。
私は、彼を、『父親』にさせなかった
加害者です。
彼から、時間、体力、精力、遺伝子を
無駄に搾り取ってきた、悪女か…。
それでも、昼は、刑事の顔で生きなければ
いけない。
自分が、取り締まる側でいないといけない。
『究極のジレンマ』のように感じていた
ものです。
そんな頃……です。
私は、ある夜、署内で、偶然、彼女と
再会するのです。
真子ちゃん、と。
最初、私は、彼女が、真子ちゃんだとは
分かりませんでした。
私にとって、目の前の彼女、苦しんでいる
彼女は、『ヤギヌマさん』でしたから。
そして、私は、夫を騙し続けていると
いう【罪責感】、【良心の痛み】、
【自己嫌悪】、【呵責】等から逃げる…、
そうです、逃げおおせるためにも、
『ヤギヌマさん』の件に没頭しようと
した……そういう面もあるのです。
だって、職務内とも言えるし、
職務、つまり仕事の範疇外とも考え
られる、この『ヤギヌマさん』の件に
集中するならば……。
私自身のことを、自分の汚さを考えないで
すみます。
それに、己の醜さを忘れられるのでは
……、職務中も職務時間外も。
勿論、そんな打算だけであって、正義感は
ゼロ、警察としての使命感もゼロだった
わけじゃありませんが、とにかく、
そういう『魂胆』があったのも否めない
ということです。
今、振り返れば……。
それなのに……。
神様は、最高のことを、してくれました。
結論から言えば、まず、第一に、
私は、『ヤギヌマさん』が、真子ちゃん
であると、気づけた。
そして、真子ちゃんを、つきまといの
クズ野郎から助け出すことが、できた
のです!
そして、冒頭でも言いましたけど、
遂に、私に、『あの日』がやって
きました。
あの日……。
そうです。あの春の一日を指します。
その日に、私は、たった数分の出来事を
きっかけに、スッと重荷が取り払われ…、
長年苦しめられて来た『恐れの思考』から
解放されたのです!
その時、私と一緒にいたのは、真子ちゃん、
それから、柳沼雪子さんです。
その春の日に、私たちに何が起こったかと
言うと…………。
(・著作権は、篠原元にあります
・いつも読んでいただき、ありがとう
ございます!!
・次話は、明後日投稿です。それまでに、
お時間あれば、十五章㉟~㊴をどうぞ!
伏線がある…?! )