第十七章 51
文字数 1,023文字
シフトチェンジした二人は、駅の周辺を
ぶらぶらと歩いてみた。
時間は、いくらでもあるし、そんなに
広くない別府の街……急ぐ必要もない。
こう言うのも良いなぁ、と真子は思った。
まぁ、前半飛ばし過ぎただけだが…。
そして、駅から数分の、美味しいのか、
そうでないのか、分からない、古びた小さな
定食屋に入ってみることにした。
「こんな冒険も悪くないかな」と、思う
真子。
自分一人なら、こんなことはしない。
けど、夫が一緒だから……。
結果は、大正解だった。
いわゆる、漫画やテレビに出てくるような
『昔の定食屋』。
そして、人懐こい、『おばちゃん』が、
一人で切り盛りしていて。
客は、義時と真子だけだった。
だから、色々話しかけてきた。
そのおばちゃんが。
真子が、実は自分達新婚旅行中なんです、
と言うと、色黒で歯のかけたおばちゃんは、
注文していない品々まで、どんどん出して
くれた。
驚く二人に、「これは、サービス
だから!」と、おばちゃんは、笑った。
二人が、頼んだのは、
手書きの【お品書き】の一番上に、
おばちゃんの豪快な字で書かれていた
『とり天定食』。
出てきた、とり天は、やっぱり、
おばちゃん同様、豪快で、デッカくて、
……そして、美味しかった。
真子が食べきれない分は、旦那が
食べてくれた。
おばちゃんに見送られて―しかも
お土産にと缶ジュースまでもたされて―
二人は店を出た。
祖父母がいない真子は、想った。
「おばあちゃんがいたら、あんな感じ
なんだろうなぁ」と。
おばちゃんは、最後まで、手を振って
くれていた……。
それから、二人は、駅まで戻って、
別府駅の周辺を一周してみて、それから、
海へと向かった。
別府の海沿いを歩く。
義時には、潮風が気持ちよく思えたけど、
真子には、強すぎだった!
髪が、髪が……!!
途中で、あきらめた。
数十分後。
二人は、バスに乗っていた。
『地獄スポット巡り』に向かうため。
まぁ、全部を廻ると、それだけ、お金も
かかるし、それに、時間もかかる。
真子は、早くチェックインして、
旅館でゆっくりしたい……と思っていた。
だから、1つ2つ観れれば良いかなぁと。
だけど、義時の方は、全制覇する気満々
だった。
趣味のカメラをしっかりと膝に置き
ながら…。
で、異なる計画・考えを、それぞれ
持っている夫婦は、一緒に、バスを降りる。
あえて、目的のバス停の2つ前で。
運動して、旅館の豪華な夕食にそなえる
ため……。
―これは両者一致なのだ―。
(著作権は、篠原元にあります)