第十六章 ⑨

文字数 1,920文字

そんなこんなで、緊張感や空腹感と
闘いながらの式だったけど、これだけは
言える!

幸せいっぱい……!!!!!
これは、間違いない。

列席者みんなに―多くは知らない顔
だけど―、祝ってもらい、愛する男性の
妻となるのだ。
それを最大最高に意識したのは、
式半ばの小滝牧師の説教の時だった…。

あまりにも幸せ過ぎて、涙を流して
しまった。
でも、気づくとパニックになりかけた。
「ハンカチ、ない……。
どうしよう?」。
まさか、ドレスで拭うわけにもいかない。
その時。
そっと横から手が伸びてきて……。
その手にキレイなハンカチが…。

ハッとする。
最前列に座っていた、美織だった。
目礼して、受けとる。
美織の目は、穏やかに、
「良いのよ。落ち着いてね」と
言ってくれていた。
真子は、「最高のお義姉さん
だなぁ」と思って、感動して、
さらに泣きそうになったけれど、
我慢した……。

そして、説教を聞きながら、
思った。
結婚することで、最愛の人と
一つになるだけではなく、その人の
家族とも『同じ家族』になれるのだ
と……。
「こんな幸せって、絶対にない!!」
と真子は幸福を噛み締めた。



一方、新郎は……。
こちらも緊張の連続だった。
そして、感動の連続だった。
どっちかと言うより、新婦より新郎
の方がウルウルしていたかも
しれない。

でも、義時が、一番、感動して
いたのは……。
一番、その日、感服していたのは、
小滝牧師の説教でもなく、そして、
来賓の存在でもなく……、それから、
最愛の新婦に対してでもなく、
父へ、だった。

そう。
父の人間性の高さ。
父の『器』の大きさ。
父の優しさ。
父の配慮の凄さ……。


あれは、披露宴会場に入った時。
新郎新婦入場の際だった。
披露宴会場を見渡して、
いつもは厳しく、真子にも、そんなに
笑顔を見せることのない父の、
『真子への想い』をヒシヒシと思い、
泣いてしまった。
妻と一緒に入場する喜びよりも、
みんなに祝われることによる感動
よりも、実際、あの時は、
父の真子への思いを、改めて知って、
それで、泣いてしまったのだ。


振り返れば、父は、ずっと、真子に
対して配慮してくれていた。
陰で、裏で、そして、そっと……。


ある時、父は、真子がいなくなった
一瞬を狙って、言った。
「おい。式や披露宴でも、あと、
うちの集まりでも、あの子に、
寂しい思いはさせてはいかんぞ」と。
それで、父の『嫁に来る人への想い』
は分かった。伝わってきた……。





だが、実際問題、義時は、
分かっていなかった。
人生経験が義時の何倍もあり、
多くの苦境、苦難を乗り越えて来た
実業家の栄義牧は、義時の想像以上に
真子のことを想ってくれていた……。

もちろん、想っていたと言っても、
変な意味で、ではない。
女性として見ていたとか、性的な目で
息子の婚約者を見ていたなんてことは
一切ない。

ただ、本気で、息子の婚約者、嫁に
来てくれる女性のことを考え、想って
いたのだった。
「自分たちは、彼女と、そのお母さん
を本当に苦しめてしまったのだから
……」と。
だからこそ、できることは何でも
やってやり、真子を幸せにしてやり
たかった。
当然、言葉には出さないし、真子に、
伝えるなんてことはあり得ないこと
だが……。

で、義牧は、息子たちの結婚式の
ことを考えていた。
そして、あることに、思い至った。
「あの子には、両親もいない。
親戚もいないだろう……」と。

それに対して……。
義時の方、つまり、新郎側には、
沢山の列席者が……。
我々両親もいて、親戚もそれなり
にいる。
また、仕事関係の招待客も、かなり
いる。
組合、銀行、役所関係、町会関係、
法人会関係、警察関係……諸々。

義時とは戦いにならないほど、
多くの結婚式に参列し、数多くの
カップルの仲人になり、もう、
主賓スピーチなんて楽勝になって
いる義牧は、想像してみた。

息子たちの式当日、どうなるか?
「新郎側と新婦側、かなり差が
でるな……。
8:2、いや、下手すると、9:1
か……」。

義牧は、唸った。
それだと、一番つらいのは、
新婦だ。
新婦の真子だ。

義牧は、思う。
「絶対に、それは避けさせて
やらんとな」。
で、その夜、義牧は、スゴイ知恵を
得た……!


なので、義牧は、ある日、
義時と真子に、ある提案をした。
あくまで『提案』という形にした。
なぜなら、式を挙げるのは、息子たち
なのだから……。




だが……。
提案を受ける側になった、義時は。


義時は、反対した。
父の『心の内』が分かっていなかった
から。
「俺たちの式だよ!
金だって、半分は、俺たち二人で、
ちゃんと出すんだから!!」と、
口には出さなかったが、思った。
そして、後悔した。
「あぁ!!やっぱり、この場に、
来させなけりゃ良かった。
だいたい、こう言う打ち合わせの
場に、父親が同席なんて、普通
おかしいもんな……」と。









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登場人物紹介


奥中(おくなか) 真子(まこ)のちに(養子縁組により)(やぎ)(ぬま) 真子のちに(結婚により)栄真子




 本書の主人公。小学校3年生のあの日 、学校のクラスメートや上級生、下級生の見ている前で、屈辱的な体験をしてしまう。その後不登校に。その記憶に苛まれながら過ごすことになる。青春時代は、母の想像を絶する黒歴史、苦悩を引継いでしまうことなる、悲しみ多き女性である。





(あし)() みどり



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメートであり、大親友。



しかし、小学校3年生のあの日 、学校の廊下を走る真子の足止めをし、真子が屈辱的な体験を味わうきっかけをつくってしまう。



その後、真子との関係は断絶する。










(よし)(とき)



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメート。葦田みどりの幼馴染。



小学校3年生のあの日 、学校の廊下で真子に屈辱的な体験をさせる張本人。











奥中(おくなか) 峯子(みねこ)



本書の主人公、真子の母。スーパーや郵便局で働きながら、女手ひとつで真子を育てる。誰にも言えない悲しみと痛みの歴史がある。








雪子(ゆきこ)



本書の主人公、真子の大伯母であり、真子の母奥中峯子の伯母。


愛媛県松山市在住。







銀髪で左目に眼帯をした男



本書の主人公、真子が学校の廊下で屈辱的な体験をするあの日 、真子たちの



住む町で交通事故死した身元不明の謎の男性。



所持品は腕時計、小銭、数枚の写真。










定美(さだみ)(通称『サダミン』)



本書の主人公、真子が初めて就職したスーパーの先輩。



優しく、世話好き。



だが、真子は「ウザ」と言うあだ名をつける。









不動刑事



本書の主人公、真子が身の危険を感じ、警察署に駆け込んだ際に、対応してくれた女刑事。



正義感に溢れ、真面目で、これと決めたら周囲を気にせず駆け抜けるタイプである。



あだ名は、『不動産』。警視庁阿佐ヶ谷中央警察署生活安全課巡査部長。
















平戸



本書の主人公、真子につきまとう男。



また、真子の母の人生にも大きく関わっていた。






愛川のり子



子役モデル出身の国民的大女優。



〔あいのん〕の愛称で、幅広い世代から人気。



映画、テレビ、雑誌などで大活躍中。







石出(いしで) 生男(いくお)



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメートであり、幼馴染。小学校3年生のあの日 、真子を裏切る。




(やぎ)(ぬま) 真子のちに(結婚により)(さかえ) 真子



 本書の主人公。旧姓は、奥中。



小学校3年生の時、学校中の見ている前で屈辱的体験をし、不登校に。



その後は、まさに人生は転落、夜の世界へと流れていく。



だが、22歳の時小学時代の同級生二人と再会し、和解。回復への一歩を歩みだす。

(さかえ)(よし)(とき)



本書の主人公、真子が小学校3年生の時、屈辱的体験をさせた張本人。



そして、真子が22歳の時、男に追われているところを助けた人物でもある。



その後、真子の人生に大きく関わり、味方、何より人生の伴侶となる。

柳沼雪子



本書の主人公、真子の大伯母。養子縁組により、真子の母となる。



夫は眼科医であったが、すでに他界。愛媛県松山市で一人暮らしをする愛の女性である。

定美(さだみ)(通称・『サダミン』)



本書の主人公、真子が大事にしているキーホルダーをプレゼントしてくれた女性。



真子が川崎市を飛び出して来てから長いこと音信不通だったが、思いもしないきっかけで、真子と再会することになる。

不動みどり



本書の主人公、真子が小学校3年生の時、屈辱的体験をするきっかけを作ってしまう。



そして、真子が22歳の時、再会。つきまとい行為を続ける男から真子を助ける。



旧姓は、葦田。警視庁阿佐ヶ谷中央警察署生活安全課・巡査部長。

都和(とわ)



明慈大学理工学部で学んでいた女性。DVによる妊娠、恋人の自殺、大学中退……と、真子のように転落人生を歩みかけるが、寸前を真子に助けられる。

愛川のり子



〔あいのん〕の愛称で、幅広い世代から人気。



映画、テレビ、雑誌、海外でのドラマ出演など活躍の場を広げる国民的大女優である一方、息子の『いじめ報道』に心を痛め、また後悔する母親。



本名は、哀川憲子。

()(おり)



結婚した真子の義姉となる女性。



真子との初対面時は、性格上、真子を嫌っていたが、



後には、真子と大の仲良し、何でも言い合える仲になる。



名家の出身。



 

石出(いしで) 生男(いくお)



本書の主人公、真子を裏切った人物。



真子が小学時代の同級生二人と再会し、和解した夜に自殺。



第二巻では、彼の娘の名前が明かされる。

新名 志与


旧姓、長谷島。

第一章では、主人公に、『しーちゃん』と呼ばれている。

夜の世界で働いていた真子にとって、唯一の親友と

呼べる存在、姉的存在だった…。


ある出来事をきっかけに、真子と再会する(第二章)


小羽


 真子の中学生時代(奈良校)の同級生だったが…。


第二章で登場する時には、医療従事者になっている。

居村


 義時と真子が結婚式を挙げるホテルの担当者。

ブライダル事業部所属、入社3年目の若手。

 

真子曰く、未婚、彼氏募集中。

不動刑事


主人公の親友である不動みどりの夫。


石出生男の自殺現場に出動した刑事課員の1人。



最愛の妻、同じ署に勤務する警官のみどりが、

自分に隠れ、長年自宅に『クスリ』を保管、しかも、

所持だけではなく、使用していた事実を知った

彼は……。

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