第十七章⑦

文字数 2,981文字

月曜日。
結婚式の2日後。
この日も、新婚の2人は、早起きした。

詳しく言うなら、義時の方が早かった。
ちょっと……、いや、かなり、残念、
気がかり、そして、欲求不満気味の彼。

隣でまだ寝ている妻を見つめて考えた。
「カーテン…。あれじゃ、ダメだったん
だぁ」
意外だった。
そんなに『大事』なことだとは……。
不便さも感じなかったし、あれ―レース
カーテン―があれば、何の問題もないと
思っていたというか、深く考えて
いなかったのだ。

でも…。
昨日の夕方。
妻は。
何か、『なんとかカーテン』がないじゃ
ない、とか騒ぎ出して。
こっちを責めてきて……。
荷ほどきは一時中止にされて、車を出さ
されて…。
で、結果は、「申し訳ございません。
……どちらにしても、本日中に取り付けと
言うわけには…」という店員。

それからだ。
目に見えて、妻の雰囲気が変わった。
100%不機嫌ってわけでもないけど、
どこか、怒りを隠しているというか、
笑ってはいるけど、目が……怖い、感じ。

で、普通は、「旦那からだろ……」と
思ったけれど。
まぁ、何も言わなかった、いや、言えな
かったが…。
とにかく、サッサと、さも当然のように、
最初に風呂に入ってしまい。
こっちが風呂から出たら、もう、布団に
横になって……。

こっちが布団に入っても、何も言って
くれないし、こっちの方を見もしない。
やっぱり……機嫌損ねてること確実だ。
で、結局。「疲れてるから…」と、昨夜は
キスすらさせてくれず終いだった……。
結婚直後で…!?
「こんな性格だったのか!!」
「だまされた!」と正直思った。
これで、これから、うまくやっていける
のかと不安にもなったし…。
そんな感じて、夜、なかなか寝れなかった。
隣の真子は、すぐに、スースーと寝息を
たてだしたけど。
正直、「妻なんだから無理矢理……」
とも思ったが、さすがに、それは…。
で、欲求不満な朝なのだ。


だが、だからと言って、嫌いになった
わけでもないし、横で寝ている彼女が
憎いわけでもない。
愛おしい、大好きだ!
だが、こっちは、ひたすら残念というか
……。
男だから。
生殺し、的な……感じ。

ヤバい…。
意識していると、生理的欲求がムクムク
と体内で、特に、下半身で膨れ上がって
来る。
このままだと、自分は、結婚早々、
『一線を越えて』しまうかもしれない。
まぁ、さすがに、結婚している夫婦の
関係だから、警察問題にはならない
だろうが、それでも、「旦那に、
朝、寝ている時、無理矢理……、
襲われて…」と、彼女が大伯母に、
または、こっちの両親、義姉に報告
する、あと、最悪、彼女の大親友の
あの刑事に打ち明けたら……。
怖くなって、背筋が凍る。

そんなこと考えているうちに、
ちょっと冷静になれた。
下腹部の勢いも治まってきたし。
そうだ。また変な気を起こさないうちに
顔でも洗ってこよう……と、義時は
洗面所へ向かった。




義時が、布団から出て、洗面所と
トイレに行ってから、すぐ……。
新妻も、起き上がった。
結婚後初めての、新居での、起床だ。
隣に寝ていたはずの義時が立ち上がった
気配で、起きたのだった。

真子は、まず、あたりをキョロキョロ
見渡して……。
う~んと思い切り、両腕と背中を
伸ばした。
「熟睡したなぁ」と思う。
昨日、いや、一昨日からの疲れが
消え去っている。
爽快な感じだ。

で……。
こちら、新妻の方は、完全にスッキリ
している。
まずは、昨日のことを全然もう引きずって
いない。
彼女は、切り替えの早いタイプなのだ。
そして、もう1つ。
男性の義時と違って、朝から、性的欲求を
感じていないし、それに、「昨日、デキ
なかったなぁ」という後悔的思念なんて
全くない……。



1時間半後……。
新婚の栄夫妻は、新居で初めての
『朝食タイム』を迎えていた。
勿論、全部、新妻の手作り。
まぁ、一部、みそ汁は、インスタント
だけど。

正面に座る妻をチラッと見て、
義時はホッとしていた。
「機嫌なおってるな」と。
どうやら、彼女は、料理の出来具合が
良かったようで……、自分の想像以上のが
出来たようで、すっかり満足してる。
ニコニコと最高の笑顔で、「ハイ、
召し上がれ」と、さっきは。
うん、アレは、昨夜と正反対の表情
だったな。

しきりに、自分で、「美味しい」、
「うん。ちょうど良い味付けネ」と
言いながら、食べている妻。
義時は、「かわいいなぁ」と思った
……けど、言ったら、何だか、怒られそう
なので、やめた。

なんか、結婚してからの方が、彼女に
気をつかうなぁ…と思う。
ってか、こんなに『機嫌屋』だったけ、
とも。

まぁ、それは良い。
自分で満足しているほど、確かに、
一品一品がウマい!!
さすが、結婚前、料理教室に通って
いただけはある!
 義時の箸もどんどん進む。


真子は……。
チラッと、目の前の義時を見る。
一心不乱に食べてくれてる…けど。
少しくらい、言えないの!?
「美味しい!」とか
「作ってくれて、ありがとう」とか……。
まぁ、文句言われるよりはマシだろう
けど。
ちょっと、思うところはある的な。
「結婚前は、お菓子とか作って、
持ってってあげたら、『メッチャ美味しい』
って言いまくってくれてたのになぁ」と、
本人には言わないけれど、考える……。




まぁ、そんなこんなだけど。
お互い、愛し合って、結婚したわけで。
朝食後、新婚の2人は、並んで、キッチン
に……。
真子が洗い、義時が運んでくる。
あと、義時が、拭く。
どっちかと言えば……と言うより、完全に、
それまでの一人暮らしのマンションの
キッチンの方が広かったし、設備も
整っていた、が、しかし……。
新妻は幸せだった。
こうやって、最愛の人と、食後の後片付け
ができるのだから……。




その日も。
義時は、特別に、休みをもらっていた
から。
夫婦で、朝から、『共同作業』の開始だ。
昨日終わらなかった分の荷ほどき。
それと、ご祝儀の確認とかもある。
あと、真子が、書き出しておいた
『やるべきこと』も多数。

真子は、そのリストを見た。
半分は埋まってるけど…。
これ結構かかりそう……。
「何とか、彼が、休みもらえてる期間中に
終わらせないと」、そう、真剣に思う。
でないと、自分だけで、やることになって
しまう。
まぁ、彼は彼で、仕事でお給料もらって
きてくれるわけだけど…。


そんな感じで、2人はせっせと手を動かす。

「結婚式後もこんなに大変なんだ!」と
実感しながらの義時。
で、真子は、「雪子おばさんとの時間には
間に合わせないと!!」と考えながら、
一心不乱に。
新妻の方が、力が入っているか。


新婚夫婦は時間を忘れて、没頭していた。
で、正午頃、突然、チャイムが。

義時は、チラッと見た。
妻と目が合った。
気のせいか…、「お願い」と視線で言われた
ような気が。

何だか先が思いやられるな……と思いながら
も、義時は、重い―作業に没頭し痛い―腰を
上げた。
「宅急便かなぁ」と言いながら。
それに対し、妻からは、「う~ん」と
無関心な返事だけが戻ってくる……。
ちょっと、切ない感。
ちゃんと聞いてないな……。
まぁ、何も言わないけどナ。

義時は、「ハ~イ!?」と言いながら、
扉に手を伸ばす。
そして……、開けると。
そこに、立っていたのは、宅急便の業者
ではなく、見憶えのある若い女性だった。










(・著作権は、篠原元にあります



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登場人物紹介


奥中(おくなか) 真子(まこ)のちに(養子縁組により)(やぎ)(ぬま) 真子のちに(結婚により)栄真子




 本書の主人公。小学校3年生のあの日 、学校のクラスメートや上級生、下級生の見ている前で、屈辱的な体験をしてしまう。その後不登校に。その記憶に苛まれながら過ごすことになる。青春時代は、母の想像を絶する黒歴史、苦悩を引継いでしまうことなる、悲しみ多き女性である。





(あし)() みどり



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメートであり、大親友。



しかし、小学校3年生のあの日 、学校の廊下を走る真子の足止めをし、真子が屈辱的な体験を味わうきっかけをつくってしまう。



その後、真子との関係は断絶する。










(よし)(とき)



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメート。葦田みどりの幼馴染。



小学校3年生のあの日 、学校の廊下で真子に屈辱的な体験をさせる張本人。











奥中(おくなか) 峯子(みねこ)



本書の主人公、真子の母。スーパーや郵便局で働きながら、女手ひとつで真子を育てる。誰にも言えない悲しみと痛みの歴史がある。








雪子(ゆきこ)



本書の主人公、真子の大伯母であり、真子の母奥中峯子の伯母。


愛媛県松山市在住。







銀髪で左目に眼帯をした男



本書の主人公、真子が学校の廊下で屈辱的な体験をするあの日 、真子たちの



住む町で交通事故死した身元不明の謎の男性。



所持品は腕時計、小銭、数枚の写真。










定美(さだみ)(通称『サダミン』)



本書の主人公、真子が初めて就職したスーパーの先輩。



優しく、世話好き。



だが、真子は「ウザ」と言うあだ名をつける。









不動刑事



本書の主人公、真子が身の危険を感じ、警察署に駆け込んだ際に、対応してくれた女刑事。



正義感に溢れ、真面目で、これと決めたら周囲を気にせず駆け抜けるタイプである。



あだ名は、『不動産』。警視庁阿佐ヶ谷中央警察署生活安全課巡査部長。
















平戸



本書の主人公、真子につきまとう男。



また、真子の母の人生にも大きく関わっていた。






愛川のり子



子役モデル出身の国民的大女優。



〔あいのん〕の愛称で、幅広い世代から人気。



映画、テレビ、雑誌などで大活躍中。







石出(いしで) 生男(いくお)



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメートであり、幼馴染。小学校3年生のあの日 、真子を裏切る。




(やぎ)(ぬま) 真子のちに(結婚により)(さかえ) 真子



 本書の主人公。旧姓は、奥中。



小学校3年生の時、学校中の見ている前で屈辱的体験をし、不登校に。



その後は、まさに人生は転落、夜の世界へと流れていく。



だが、22歳の時小学時代の同級生二人と再会し、和解。回復への一歩を歩みだす。

(さかえ)(よし)(とき)



本書の主人公、真子が小学校3年生の時、屈辱的体験をさせた張本人。



そして、真子が22歳の時、男に追われているところを助けた人物でもある。



その後、真子の人生に大きく関わり、味方、何より人生の伴侶となる。

柳沼雪子



本書の主人公、真子の大伯母。養子縁組により、真子の母となる。



夫は眼科医であったが、すでに他界。愛媛県松山市で一人暮らしをする愛の女性である。

定美(さだみ)(通称・『サダミン』)



本書の主人公、真子が大事にしているキーホルダーをプレゼントしてくれた女性。



真子が川崎市を飛び出して来てから長いこと音信不通だったが、思いもしないきっかけで、真子と再会することになる。

不動みどり



本書の主人公、真子が小学校3年生の時、屈辱的体験をするきっかけを作ってしまう。



そして、真子が22歳の時、再会。つきまとい行為を続ける男から真子を助ける。



旧姓は、葦田。警視庁阿佐ヶ谷中央警察署生活安全課・巡査部長。

都和(とわ)



明慈大学理工学部で学んでいた女性。DVによる妊娠、恋人の自殺、大学中退……と、真子のように転落人生を歩みかけるが、寸前を真子に助けられる。

愛川のり子



〔あいのん〕の愛称で、幅広い世代から人気。



映画、テレビ、雑誌、海外でのドラマ出演など活躍の場を広げる国民的大女優である一方、息子の『いじめ報道』に心を痛め、また後悔する母親。



本名は、哀川憲子。

()(おり)



結婚した真子の義姉となる女性。



真子との初対面時は、性格上、真子を嫌っていたが、



後には、真子と大の仲良し、何でも言い合える仲になる。



名家の出身。



 

石出(いしで) 生男(いくお)



本書の主人公、真子を裏切った人物。



真子が小学時代の同級生二人と再会し、和解した夜に自殺。



第二巻では、彼の娘の名前が明かされる。

新名 志与


旧姓、長谷島。

第一章では、主人公に、『しーちゃん』と呼ばれている。

夜の世界で働いていた真子にとって、唯一の親友と

呼べる存在、姉的存在だった…。


ある出来事をきっかけに、真子と再会する(第二章)


小羽


 真子の中学生時代(奈良校)の同級生だったが…。


第二章で登場する時には、医療従事者になっている。

居村


 義時と真子が結婚式を挙げるホテルの担当者。

ブライダル事業部所属、入社3年目の若手。

 

真子曰く、未婚、彼氏募集中。

不動刑事


主人公の親友である不動みどりの夫。


石出生男の自殺現場に出動した刑事課員の1人。



最愛の妻、同じ署に勤務する警官のみどりが、

自分に隠れ、長年自宅に『クスリ』を保管、しかも、

所持だけではなく、使用していた事実を知った

彼は……。

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