第十六章 ㊽
文字数 1,597文字
それに、方向を転換する決意ができて
います。
何せ、私は警察官である前に、1人の
子の母親なのですから。
恥ずかしいこと、誇れないことをして
いる『母親』でありたくはありません。
もし、私が、ちゃんと、そう考える
ことができていたら。
従兄から電話があった日も、断れて
いたでしょうし、あの同期にも、
しかるべきことを言い、自分の切符を
処理させれていたでしょう……。
でも、昔のことなので、今さら、
どうしようもありません。
だからこそ、何でも知っている神様の
前には、正直に、告白するのです。
そして、赦しを請います。
「こんな女を赦してください」、
「こんな女ですがお助けください」と。
そして……。
毎日毎日、愛媛県から戻って、そんな祈願を
続けて、結果、私は妊娠…。
本当に、信じられない気持ちでした。
先生に、そう言われた時は…。
ずっと、祈願していたけれど、やはり、
「妊娠ですね」と言われた時は、ぼんやり
しちゃって、信じられない感じで……。
帰り道、私は、感極まっていました。
「祈願していたけれど…。予想以上に、
早く妊娠できた!!」
興奮でいっぱいで、近所のスーパーでは、
普段絶対に買わない黒毛の和牛のお肉を
買ってしまっていましたね。
そして……。その日、夜。
帰ってきた、夫に、私は打ち明けたの
です。
夫は、文字通り、飛び上がって喜んで
くれました。
夫と一緒に、妊娠したことを喜べる
……。
本当に、幸せでした。
「まさか、こんな日が、こんな私に、
来るなんて!!」
嬉し涙が溢れてきます。
そして、その夜、切に思いました。
「彼に、全部、打ち明けることができて、
本当に良かったぁ!」と。
私は……。
そうなのです……。
愛媛から東京に戻る飛行機の中で、
考えていたのです。
そして、決めたのです。
「夫に、これまでのこと全部話して、
謝ろう」と。
そうです。
ただ、経口避妊薬の服用をやめて、
隠している分を捨てるだけでは不十分
だと、私は思ったのです。
私を本当に愛してくれて、浮気もせずに
尽くしてくれている夫…。
彼を裏切ってきたのだから、自分一人で
『クスリ』との縁を断ち切って、「ハイ、
終わり。万事解決」にしては、ダメ……。
ちゃんと、裏切っていた『事実』を、
彼に告白して、彼から赦してもらって、
それで、やっと、私がしてきたことの
『ケリ』がつくのです。
その夜。
つまり、愛媛から帰ってきた私を。
まだ起きていた夫は、いつも通りの
笑顔で、迎え入れてくれました。
玄関でハグしてくれて。
そして、カバンや紙袋を持ってくれて
……。
リビングへ進む彼の背を見ながら、
「こんなに良い夫を……。
自分はずっと裏切ってきたんだ…」と。
胸が痛くなって。
それに、申し訳なさ過ぎて、涙が
零れ落ちそうに。
で、それを、抑えます。
まだ、謝っていないのですから。
自分一人で泣いている場合じゃないの
ですから……。
「疲れたろ。これ、飲みな」と
言いながら、夫が、温かい紅茶を
コップに。
私は、夫の前に座り、言います。
「ありがとう」
そして、続けます。
「あのね、話しておきたいことが
あるの……」
もう心臓はバクバク、心の中は
ドキドキ、ドキドキです。
全部、打ち明けたら、この人の、
この柔和な表情はどうなるのか……。
赦してくれるのか、いや、それは
考えが甘いのではないか?
もしかしたら大激怒して、そして、
私に失望して、離婚を言い渡して
くるのでは……。
まぁ、そうなっても、悪いのは、
完全に私なのですが…。
そんな私の思いを知る由もない、
当然知らない、夫は、いつも通りの
優しい顔つきで言ってくれました。
「うん、なに……?」
ゴクっ。
もう、後には引けない。
私は、渇いた唇を必死に開けて
話し出そうと、します。
(・著作権は、篠原元にあります
・いつも、読んでいただき、ありがとう
ございます。お気に入り、いいね、
感想等…お待ちしています。
・次話、とうとう、不動みどりが、
夫に打ち明けだします!
お楽しみに…… )