序 章 はじまり ~柳沼真子の告白~①
文字数 1,296文字
これが私の名前です。
この真子と言う名前を皆さんは
どう思われますか?
おそらく、私と同じ名前の女性は
多いと思います。
良い名前です。美しい名前です。
でも、私はずっとこの名前が、
ある理由から嫌で嫌で
しょうがなかったのです。
その理由は、
いつかご説明できればと思いますが……。
とりあえずは、私の自己紹介を
させてください。
今、私は23歳です。スーパーで
アルバイトをしながら一人暮らしを
しています。
一人暮らしで、自炊をしていますが、
料理は苦手と言うより、つい最近までは、
ずっと料理と縁がない暮らしを
してきました。
先週の月曜日のことですが、
まだ慣れないものですから、
包丁で右の小指を
ちょっと切ってしまいました。
先ほど、スーパーで働いていると
言いましたが、
これまで色々な仕事を転々としました。
喫茶店でアルバイトをしたことも
ありますが、長い間、夜の仕事、
分かりやすく言えば水商売を
していました。
今は、昔に比べて収入は、
かなり減りました。
でも、やりくりしながらの生活も
楽しいものです。
そして、この日々は、幸せです。
また、今は、花嫁修業中なんです。
一生に一度の花嫁修業期間中の日々を、
私は最大限楽しんでいます。
そして、頑張って、猛勉強しています。
でも、花嫁修業と言っても、母親から
『我が家の秘伝の味付け』を教わるとか
言うようなものではありません。
私の両親は、すでに他界していますから……。
ですので、私の早嫁修業の場は、
専ら、約5か月前から通っている
料理教室です。
花嫁修業中の私の一日の流れは、
このようなものでした。
朝5時30分に起床。
すぐに、世界のベストセラーである
聖書を手にすると言う、
至福な時間を過ごします。
それから、慌ただしく動き出します。
洗濯、家事、そして、朝食の用意……。
自分ひとりのためになのですが、
ちゃんとお味噌汁も作ります。
これまでの、私には考えられない、
変化です。
この7か月ちょいで、私の生活リズムも、
考え方も、生き方も
すっかり変わってしまいました。
規則正しい生活になりました。
それに、タバコやお酒にハマる日々から、
抜け出せました。
朝食を済ませてから、私は、この部屋で、
準備作業に入ります。
お昼は食べずに、この作業に没頭します。
そして、12時30分には、家を出て、
この近くにある勤務先のスーパーに
出かけます。
私のシフトは、平日の月曜日から金曜日。
この五日間の13時~18時に、
していただいています。
優しいオーナーと店長は、
私のわがままを聞いてくださり、
短い期間しか働けないことも
分かって、私を受け入れてくれました。
その分、私も精一杯、
恩返しのつもりで働かせて
もらいました。
そして、今日が、
この思い入れ溢れるお店での、
最後のシフト日です。
今日で、私は、
このお店のアルバイトを辞めることに
なっているのです。
このお店と料理教室が、今まで、
セットになっていました。
でも、両方とも、卒業です。
今まで、スーパーでの勤務が終ると、
大急ぎで支度をして、自転車を飛ばして、
料理教室に向かいました。
そして、18時30分から約3時間、
みっちりと、楽しみながら、そして、
悪戦苦闘しながら、私は料理を
学んできました。