第十七章 ⑤
文字数 1,346文字
上層階の特別室。
そのベッドルーム。
薄暗いその部屋に、ただ、新婦の
寝息だけが……。
義時は、息をひそめて、新婦を
見つめた。
起こさないように。
ずっと、この寝顔を見ていたいから。
この寝顔を、この美しい肌を、
見れる……と言うより、見たのは、
自分が初めてなのだ、男では……。
幸せ過ぎる!
いや、そんな言葉じゃ、言い尽くせない。
今すぐ、飛び上がって、このキングサイズの
ベッドの上で、飛び跳ねたい……ほどの
幸せだけど。
それは、やめとく。
……約1時間後。
6月25日。
日曜日。
早朝。
新婚ほやほやの栄夫妻は、
手をつないで、エレベーターの中に
いた……。
ありがたいことに、本当に、ラッキーな
ことに、他には誰も乗っていない。
だから……。
義時は、妻と手をつなぐことができた。
最初、彼女は、恥ずかしがったけど、
「誰もいないじゃん。乗ってきたら
すぐ離すよ」と言って、なんとか…。
了承してくれて。
恋人握り、初めて、できた。
昨夜から『初めて尽くし』だな……と
旦那は感慨深かった。
そんな新郎に、妻は、顔を真っ赤に
しながら言った。
「本当に、止まって、誰か入って
来たら、終わりだからね!」
ハイハイと、応じる義時。
絶対に誰も乗って来るな……と
心の中で何度も復唱した。
で……目的階まで、暖かな妻の手を
握り続けていることができた!
不思議なことに、握っているだけで、
幸福感が溢れて来て、そして、身体
全身も熱くなってきて、下半身も変な
感じになって……。それは、それで、
焦って、必死に、それはそれは、必死に、
自分の『分身』を抑えた、エレベーター
内で……。
エレベーターから降りる前。
つまり、目的階について、チンと鳴って、
扉が開く前に。
妻は、すぐに、『恋人握り』を
解いた。
ドキドキしている。
自分には、音が聞こえる。
必死に、冷静を……。
すぐに、義父母たちと朝の挨拶を交わす
ことになるのだから。
新婚夫婦は、新たな家族となった面々と
一緒に、『大家族』で、朝食を楽しんだ
……。
まぁ、楽しんだのは、新婚夫婦以外の
面々だけど。
義時は、妻の大伯母に。
新妻は、夫の家族、特に、父親に。
気を遣い……、正直、『美味しい朝食』
どころじゃない!
両方、思っていた。
「昼、二人だけで、牛丼でも食おう」
「お昼、二人だけで、どっか美味しい
フレンチ、行きたいな」
やや、微妙なズレがあるものの、まぁ、
それは大したことではない…はず。
それから。
『大家族』は、一斉に、チェックアウト
した。
その大家族を、総支配人や居村、また
フロント課長たちが勢ぞろいで、見送った。
ホテルからは、大家族のそれぞれが、
3台の車に分乗し、東京都内の
とあるところを目指す。
……そこで、素敵な時間を過ごして。
それから、3台の車は、いすみ市へ向い、
高速を走っていく。
1台の車には、新婚夫婦が。
その車は、幸せと愛の溢れる『新居』へ
進んでいくのだった……。
ちなみに、勿論、その途中、牛丼屋では
……なくて、妻の意見が優先され、
フレンチのレストランに寄ることには
なるのだが。
(・著作権は、篠原元にあります
・3月も明日で終わりですね!
新学期、新しいシーズンも、お体に
気をつけて……。また、素晴らしい
出会いがあると良いですね♡
・『追う者』を4月も引きつづき応援して
やってください! )