第十五章 ㉙
文字数 2,576文字
布団の上で、グダグダ言っていました。
「酷い、酷すぎる、お姉ちゃん!
これで、刑事なんて、信じらんない!
『暴力刑事』だ!
嫁入り前の女子大生の体を本気で蹴る
なんて、鬼だ、鬼刑事、鬼女、鬼嫁!!
今度、義兄さんに、『うちの姉、鬼嫁で、
ゴメンナサイ』って、葦田家を代表して
言っておくから」と。
「勝手にすれば?
でも、本当に、言ったらさ、タダじゃ
おかないからさ……」。
で、みどりちゃん、私たちの方を
振り向いて、笑顔で言います。
「じゃ、真子ちゃんに、やよいちゃん。
もう、コレはほっといてさ、朝ご飯に
しよ!出来立てホヤホヤだからさ」。
スゴイ、笑顔でした……。
こしまちゃんに向ける冷酷な顔から
180度変換した笑顔……。
女って表情をコロコロ変えるよな……と、
私も女ですが、思いましたね、あの時は。
部屋を出て行くみどりちゃんに、
追従する家主の私と、女子大生の片割れ
やよいちゃん。
こしまちゃんの方は、ボーっと
しています。朝に弱いのですね。
そんなこしまちゃんに、みどりちゃんが
最後の一言を宣告……。
「こしま!今すぐ、来い!
でないと、アンタの分はさ、ウチらで、
全部もらうからさ!」。
無言で、素晴らしい勢いで、立ち上がる
こしまちゃん。
まさに、社長が突然部屋に入って来た
ので、急いで立ち上がり、直立不動に
なる社員の様……。
「ご飯の力って、偉大だなぁ」と思い
ました…。
まさに、音速レベルで、こしまちゃんが
起き上がったので。
さて、その日の朝ご飯は、初めての
みどりちゃんの手料理!!
そして、その美味しかったこと!
何か、私との差がありありでした。
ちょっと、愕然としちゃいましたね、
正直。
それほど、美味しかったし、バランスを
考えてるなって思ったし、見た目もキレイ
でした。
玉ねぎとキノコのお味噌汁。
一口飲んで、「えッ!?」と目を見張り
ます、思わず。
美味しすぎる……。
うちにあった味噌を使ってんだよね!?
他のおかずも、そして、いつも私が
使ってる炊飯器で炊いたはずの白米まで
もが、超美味しかったです。
しばらくは、ひたすら、食べました。
こしまちゃんも、やよいちゃんも
同じく。
「どうかな?」と訊いてくるみどり
ちゃん。
勿論、答えは、「スゴク、美味しい!」
しかありえません、私もやよいちゃんも。
そして、こしまちゃんは……。
「お姉ちゃんってさ、素直に、スゴイと
思うんだよね。
この料理のレベルは……。
女子力高めだよね、料理部門だけはさ」と。
で、みどりちゃんから、メインの皿を
取り上げられていました…。
デザートのヨーグルトも、私だけなら、
いつも、そのまま、スプーンで食べる
だけですが…。
みどりちゃんは、ちゃんと、カップに
入れて、しかも、カットした苺まで…。
感動しました。
『THE・モーニング』って感じです。
スゴイなぁと思いながら、みどりちゃんを
見ます。
背筋をピンと伸ばして、上品に食べる
みどりちゃん。
自分も食べながら、家主ではないのに、
甲斐甲斐しく私たちのためにも動いて
くれます。
「良い奥さんになれるなぁ」と、
「いや!もう、立派な奥さんじゃん。
やっぱり、既婚者、人妻は違うなぁ」
と、思いました、食べながら。
で、家で、旦那さんとあんなことや
こんなことをしている、みどりちゃんを
想像してしまっていました。
みんなには、秘密ですけど、ちょっと、
顔が赤くなっていたはずです。
そして、完食。
勿論、こしまちゃんもやよいちゃんも
完食。
それで、女子大生たちはお替りもして
いましたね。
こしまちゃんは、お腹をポンと叩いて、
「あぁ、美味しかったぁ!
さすが、お姉ちゃん!
昔から料理だけは上手いもんネ。
そうだ!
今度、お姉ちゃん家に、朝ご飯を
食べに行っても良い?」と言っていました
けど、お姉ちゃんから瞬殺されて……、
つまり、即断られていましたっけ(笑)。
そうですね。お姉ちゃんは、妹に、
「はっ?来たらさ、コロス。
何でさ、ウルサイあんたなんかを朝から、
家に入れてさ、ご飯で、もてなさないと
いけないのよ!それってさ、最大最悪の
罰ゲームじゃない。
ってかさ、あんたもさ、今のうちに、
料理出来るようになりなさい!
でないとさ、結婚って時に、大変なんだ
からね!」とバシッ!!
刑事が、そんなこと言って良いのかな
と思いましたが、黙っていることに
します。姉妹間のことですから……。
それで、言い返そうとする妹に、
さらに、現役刑事の姉が追撃。
「あッ!でもさ、そうか……。
こしま、ゴメン。前言撤回するわ。
あんたみたいな女子力低めな子に、
惹かれる男の子なんてさ、いないよね?
じゃあ、結婚の心配する必要もさ、
なかったなかった……」。
「さすがに、酷い。言い過ぎだよ」と、
言われた本人ではない私が思いました。
ここは、親友として、注意だけでも
してあげなくては……。
と、口を開こうとしましたが、さすが、
こしまちゃん。
言われ放題で、負けるような子じゃ
ありません!
「コワッ!
ってか、やよいと真子さん!
聞きましたよね?!
警視庁の現職の刑事さんが、今、
『殺す』なんて、言ってましたよね?」。
私たちに話をふる、こしまちゃん。
そして、お姉ちゃんに言い放ちます。
「あのぉ、地方公務員、警察官の不動
みどりさん……。良いんですかぁぁ?
私、善良な一般市民で、納税者ですよ。
そんな私に、『殺す』なんて脅迫みたい
なこと言って……」。
で、ここで口調を変えます。
「ってかさ、真面目な話……。
行くわけないじゃん!!
こっちだって、朝っぱらからさ、
姉と義理の兄の【愛の巣】なんか行って、
アツアツ、ラブラブな姿見せつけられる
なんて不快な体験、したくないわ!」と。
「こしまぁ!あんたさ、本当、マジで
腹立つ!もう、黙ってな!」と怒る、
みどりちゃん。
でも、顔が真っ赤になっているのは、
誰から見ても、明らかです。
完全に勝負あり……。
妹の方が、ちょっと上手でした。
でも、この妹が、本当は、大の大の
大の『お姉ちゃん好き』であることも
確定済みです!
それで……。
私は、みんなで、もっと、おしゃべり
していたかったのですが。
何か、みどりちゃんが、ソワソワ
しだしたのです。
携帯を操作したり、時間を気にしたり。
何かメールを見てる……。
気づきました。
「あッ!早く帰って、旦那さんに、
会いたいんだなぁ」って……。
言い方は悪いけれど、こしまちゃんの
言葉を借りるなら、【二人の愛の巣】
に……。
(著作権は、篠原元にあります)