第十六章 ㉛
文字数 5,383文字
第十六章㉘と
時間枠が一致するので、
交互に読まれることをすすめる)
『くるりんぱ』から新市ヶ谷駅の方へ
歩きながら、しーちゃんが話してくれ
ます。
「ここって、見てのとおり、あっちも
こっちもさ、大学とか専門校だらけ
じゃん。
そして、歩こうと思えば、まぁ、若者
なら普通に歩ける距離に、音楽街ある
でしょ。で、その周りにも医科大とか
明慈とか日ノ本とか大きな大学の校舎
あるからさ……。
結構、若い子が、いっぱい来てくれるんだ。
あと、ビジネスマンのお客さんたちもね」。
そうか。明慈の子も来るのか……。
じゃあ、こしまちゃん達も、『くるりんぱ』
知ってんのかな、と考えます。
さらに、しーちゃんは、続けます。
「若い子って、本当に、スゴイよ。
うちの、一番人気って、今日、マコッち
にも食べてもらった、特製味噌ラーメン
なんだけどさ、あれ普通でもかなりの量
あるでしょ?
でもさ、若者はさ、学生割で……、
あっ、学生割って、学生証とか見せて
くれたら、大盛無料にしてあげてるん
だけどさ、今は。
で、大学生はさ、女の子でも普通に大盛+
ランチタイム限定の無料ライスも平気で
平らげるもんねぇ」と。
率直な感想が口を出ます。
「若いって、良いねぇ」。
しーちゃんが、笑いながら言います。
「ってか、うちらもまだまだ若いじゃん!
正直、あと1杯はいけたでしょ?
分かってたけどさ、あえて……ね。
実はさ、このあと、近くに良いお店
あるからさぁ。
別腹で、スイーツ食べ放題の
スゴイ店、いけるでしょ?」。
オォォォと唸っちゃいましたね!
勿論、当然です!!
しばらく歩いて、少しお腹の中を調整
できた感じがしてきた頃、目的のお店に
着きました。
女性グループが3,4組並んでいました。
「大丈夫。うちと違って、店がメッチャ
広くて、すぐに入れるから」と、
しーちゃん。
で、そうですね。20分位待ちましたかね。
その間も、ずっと、思い出話とかして
たので、あっという間でしたけど。
そうだ。
お店に入る前に言ったんです。
「しーちゃん、ここは、私、出すよ。
出させて!」と。
何故って、『くるりんぱ』では、
私のために開店前に貸し切り状態で
開けてくれて、一番人気の特製味噌
ラーメンを無料で……。
そう、新名さんも、しーちゃんも
お金を受けとってくれませんでした
から…。
「良いよ、良いよ!マコッち。
今日は、気にしないで!
ってかさ、マコッちに大満足して
もらえて、嬉しいんだから。
ねッ、あなた?」。
「うん」。
って訳で、私は、新名夫妻のご厚意に
甘えることになったのです。
だから、第二部では、払わせてもらい
たかったのですけど、やっぱり、
しーちゃんは、昔のままでした。
「遠慮するなよ、マコッち!
こっちの方が年上だし、姉みたいな
もんでしょ?
甘えなさいな」と……。
そして、結局、お店を出る時も、
しーちゃんは譲ってはくれませんでした。
いつでも姉後肌なしーちゃんです。
それで……。
そう、そのお店。
スイーツの食べ放題のお店でした。
ケーキ、パイ、アイス……だけじゃなくて
パスタやピザ、サラダも。
店内は、OLさん達でいっぱい。
それと、女子大生グループでしょうか。
しーちゃんが、慣れた感じで、案内を
しながら教えてくれました。
「さっきの、ほら……うちの人の従妹の
さっちゃんに連れて来てもらったんだ。
それで、気に入ってさ……。
どっかの…、憶えてないんだけど、すごく
有名なホテルの系列店みたいで、
ケーキもホテルの味なんだよ!」と。
目をキラキラさせているしーちゃん。
と言うより、あそこで、目を輝かせない
女子なんて、いません!
そんなの女子じゃありません。
若い女子は、甘いものには目があり
ませんからネ!
メチャクチャ美味しいケーキと紅茶を
堪能しながら、私達は想い出話や近状
報告に、没頭。
時間、忘れました。
ありがたいことに、そのお店は、
しーちゃんの言った通り、本当に本当に
広くて、それゆえに、なんと、
『時間無制限』……!!!
時間を気にすることなく、食べて、話して、
食べて、話してを繰り返せるのです。
まさに、女子にとって最高の楽園のような
場所……!
私達と同じような女子達が、いっぱい
いました。
ずっと、食べて、話してる……って言う
感じの。
周りが、みんなそうなので、気兼ねする
必要もありません。
だから、ゆったりと出来るのです。
お店の雰囲気も、店員さんのサービスも
良いし…。
本当に、おススメのお店です!
で……、話の内容ですね。
久しぶりの再会です。
まさか再会できるとは考えてもいなかった
2人です。
話したいことなんて、山ほどあります。
しーちゃんが、お姉さんらしく、
「いろいろと積もる話が、ありすぎ
だから……。
まずは、マコッちが話してよ。
私が聞き役になるから。
で、その後、交換しよう」と言ってくれ
ました。
昔のこと……、北海道のホテルでの夜の
ことを、一瞬思い出します。
私が、最初に、話すことになったので、
まず、謝りました。
「しーちゃん!
本当に、あの時は、突然、いなくなったり、
連絡無視したりして、ゴメンね!」と。
テーブルに頭が、実際、つきました。
そんな私に、しーちゃんは、
「マコっち、顔上げて。さっきも謝って
くれたじゃんさ。」と言って、私の両手に
自分の手をそれぞれ重ねてくれました。
その温もり、そして、そこから安心感…。
私は、本当の姉に優しく見つめられている
ように感じながら、これまでのこと、
そして、どうしても、あの北海道のホテル
では彼女に打ち明けることのできなかった
ことを、何も包み隠さず、話すことができ
ました。
私は、しっかりと、告白できたのです…。
「……だからね、しーちゃん。
あの、第一小で、おもらししたの……、
あれ、私なの……」。
そして……。
気づいたら、私は…。
でなくて、しーちゃんが、目に涙を
たくさん浮かべていました……。
驚きました。
でも、その私の驚きを、さらに超えること
が、すぐに…。
そうです。
しーちゃんが、声を上げて……、まぁ、
そんなに大きな声ではありませんでしたが、
ひくっひくっと泣き出したのです…。
「マコッち……。
辛かったね、苦しかったよね。
気づいてあげれないでごめんね」と、
目を真っ赤にして、鼻をすすりながら、
しーちゃんは、あの日、言ってくれた
のでした……。
それから、そうです。
しーちゃんも、いっぱい、話して
くれました。
私が消えた後のこと、お店を辞めた時の
こと、それから、旦那さんとの出会いの
こととかを…。
しーちゃんは、左手をかざして、満面の笑み
を浮かべながら、ジャーンッと見せつけて
くれました(笑)
もう、目に涙はありません…。
ただ、幸せいっぱいの素敵な笑顔。
「これ……。
結婚指輪。
うちの人が買ってくれたんだけどね……。
まだ店がダメダメな時期で、生活費カツカツ
時代に、無理してさ……」。
それからは、ずっと、ほぼ惚気話に
付き合わされました。
多分、1時間以上……。
今は、旦那さんのお店を手伝いながら、
それ+家事やらで超忙しいと話してくれた
しーちゃん。
勿論、『馴れ初め』もじっくり聞かせて
くれました……。
「マコッちが、いなくなったあと、
私もさ、色々あってさ……。
それで、色々思うとこあったり、考えたり
してね。
まさに、崖の上から飛び降りる決意でね、
お店辞めたの。
それでさ、食べていかないといけないから
とにかく仕事探したの。
心機一転、ちゃんとした会社の事務職とか
を狙ってたんだけどね、やっぱりさ、
学歴もないし、誇れる職歴もないでしょ。
ダメダメダメダメの連チャンでさ。
で、しょうがないから、コンビニのバイト
をやりながら、貯金にも手つけてさ、
食いつないでたわけだけど……」。
で、そこのお店で、しーちゃんに、スゴイ
ことが起こるのです。
なんと、オーナーに気に入られて……、
って言っても、オーナーさんは、70代の
おばあちゃんだったそうですから、変な意味
じゃないですよ。
そうです。そのオーナーが、しーちゃんの
働きぶりに感心してくれて、なんと、息子
さんがやっている小さな部品製造の会社を
紹介してくれたというのです。
どうやら、息子さんが社長をしているその
会社で、長年事務をしていた若い女子社員が
結婚して、寿退社。
数少ない事務員がいなくなり困っている息子
のことを知り、オーナーさんが、しーちゃん
を紹介……。
そして、あれよあれよと言う間に、長谷島
志与は、小さな会社のですが、事務職の
正社員になれた……と言うのですから、
本当にドラマみたいな話ですね。
私が、そう言ったら、しーちゃんも、
「だよネ!?」と言って、笑っていました。
しーちゃんが、続けます。
「それでさ、事務の仕事を始めたの。
まぁ、50代のお局さんと、あとは、私より
ちょっと上の人と、それと私だけの女3人
だけの部署だったんだけどね。
もうさ、他の社員さんは、みんな技術屋
みたいなもので製造一筋、で、営業は、
社長が一手に担うって感じの会社だったの。
だから、うちら、『総務係』が、経理も
事務も掃除も雑用も接客も、とにかく
全部やる感じでさ……。
あと、発注とか、送り作業とかもね。
めっちゃ、忙しかった!
けど、メッチャ楽しかったなぁ!」。
イキイキとした表情で語るしーちゃん。
私も、時間を忘れ、聞き入ってました。
そして……。
『その時』は、突然、訪れます!!
その総務係の先輩……、50代のお局さん
じゃない方、2つ年上の穴倉さんに、
ある日、しーちゃんは、急に誘われた
そうです。
お昼休みの時。
「今日、合コンなんだけどさ、1人が
どうしても来れなくなって……!
長谷島ちゃん、来れない!?」と。
正直、それまでの職歴のこともあり、
異性は、もうウンザリだったそうです、
しーちゃんは…。
だから、「ごめんなさい」と答えた
のですが。
穴倉さんは、なかなか諦めてくれ
なかったそう。
それで、しーちゃん曰く、
「もうさ、後輩だからってことじゃ
なくてさ、あくまで頼み続けてくるもん
だからさ、根負けして、OKしちゃった
んだよね、一度だけってことでさ……」。
しかし、彼女は、先輩に、その夜、
連れていかれた、お洒落な店で、
『最高の出会い』を果たすことになるの
です!!
そこにいたのは……。
男性が4名。
そして、穴倉さんとしーちゃんも含めて
女子も4名。
で、乾杯で、合コン開始ですが、
そもそもやる気がない……、しーちゃん。
一歩引いていたそうです。
それに、やたら騒ぎまくり、声をかけて
くる男子3人に、全く興味なし、好感度ゼロ
!!!
だって、昔、そのような男をイヤと言う程
見て来ましたからね……。
ですが…。
自分の目の前にも……、しーちゃんの言葉を
そのまま借りれば、「同じようなの……、
つまり、イヤイヤ、人数合わせでさ、先輩に
連れて来られた感じのが座ってた」そうです。
しーちゃんは言います。
「メッチャ、大人しくてさ。
全ッ然、話さなくてさ。
話したの、最初の自己紹介の時だけ。
しかも、その自己紹介、マジで、名前と
『よろしくお願いします』だけ、だったの。
でさ、なんかさ、親近感っていうか、
興味って言うかさ、段々湧いてきてね。
うるさい6人はほっといて、彼に話しかけて
みたの……」。
そうしたら…。
どうやら、イヤイヤ連れて来られたから
無口、無言になってるのでなくて、
『本物の無口男』だったそうです。
ちなみに、今のも、しーちゃんの言葉を
パクってますよ。
でもさ……と、しーちゃんは言いました。
「ずっと、私と、目の前の男だけ無言
ってのも気まずいじゃん?
だからさ、何とか、話を引き出そうとした
わけよ。
そういうの、ウチら、結構出来る
じゃん?」。
まぁ、私もしーちゃんも、そういう仕事を
していたわけですから、それはお手のもの
です、確かに…。
で、しーちゃんは、ボソッとしか答えない
彼と、しばらく話していたそうですが……。
しばらくして、2人の共通点が見つかった
と言います。
「それがさ、ラーメンだったの!!
私もラーメンマニアじゃん?
でさ、彼も、うち以上のでさ……。
ラーメンの話題になったら、人が変わった
ように、喚きだしてさぁ!
『アソコも行った』、『アノ店はダメだ!』
とか、『今のおススメは……』とか、もう、
2人で盛り上がちゃってさ、うちら!
周りの6人が、ヒクくらいにね……」。
そう。
それで、2人は、完全に意気投合しちゃって
二次会行く6人とは、即別れ、夜の街に…。
って、変なホテル街に行ったわけじゃない
ですよ!
お分かりでしょうけど、彼が案内してくれた
そうです。
1駅先の行列のできるラーメン屋に…。
それから、しーちゃんは……。
週2,3のペースで彼と合い、愛を育む…
のではなくて、ラーメン屋巡りを。
で、そんな感じで、自然と交際し始めて、
そして、ある日、突然プロポーズされた
そうです。
ラーメン食べ終わって、お店を出て、すぐ。
そのお店の軒先で……。
本当に、幸せそうな、ラーメン大好き
しーちゃん。
幸せいっぱいの顔で語る彼女を見ながら、
「結婚したら、私も、こんな風に話す
『側』、『人妻』になるんだなぁ」って、
思いました。
それから、あと、気になりましたね。
そのラーメンマニア級のカップル2人が、
何がどうなって、自分たちでラーメン屋を
開店することになったのか……。
(著作権は、篠原元にあります
・いつも読んでいただき、ありがとう
ございます。感想や評価等、大歓迎です。
・ノベルデイズさんでは、イラスト付き
登場人物紹介やってます!
・エブリスタさんで、2つ関係作品を
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