第六章 ⑩

文字数 3,079文字

昔のように、真子には、外で思いっきり
遊んでもらいたい!!

雪子伯母さん。私は、小学生のころも、
中学生の時も級長をしていて、
「真面目女!」と男子たちに呼ばれるほど、
勉強をしていました。
だから、その結果が、どうなるのか、
分かっていました。
なので、真子には、
「遊びなさい。友達をいっぱいつくって、
遊んできなさい」とよく言いました。
そして、真子は「わたしね、遊びに、
いのちをかけるんだ!」と近所のご婦人達に
言って、驚かれるような子になりました。
勉強が好きでも嫌いでもなく、友達とは、
仲が良くて、夕方まで外で元気に遊ぶ、
そんな私の理想通りの子に、ちゃんと
なってくれました。
私の小学生の頃とは違って、楽しそうに、
過ごす娘を見て、私も幸せでした。

でも、あの事件で、娘は、
その幸せを無残にも奪われました。

そして、私も苦しみの上に苦しみです!
悪魔とクソ平戸のことで追われて
きましたが、真子が私の助けでした。
でも、その真子からも光が消え去り、
逆に、そんな真子を見ていることで、
今辛くてしょうがないのです!!

今、私は、タイムスリップできるならば、
居酒屋に向かう学生時代の私のところに
戻ろうとは思いません。
そうではなくて、どんな代償を
支払ってでも、あの事件に遭う前の、
真子のところに戻りたい!!
そして、真子が学校でおもらしを
してしまわないように、何でもしたい、
本当に、できるものなら!

雪子伯母さん。
本当に分からないことばかりです。
何で、私が、こんなに苦しまないと
いけないんですか?
何で、私の娘が、あんな事件に
巻き込まれないといけないんですか?
父親がいない寂しさを抱え、
贅沢な暮らしも出来ずに、しかも、
全校生徒の前であんな屈辱を味わされた、
真子。
逆に、真子を追いかけまわした悪ガキは、
裕福な家の子で、両親もいて、
何不自由なく暮らしている。
何で、あのアホガキの一家は幸せで、
私の娘と私は、こんなに苦しむのでしょう。
この社会は、ヤリ得、悪さをした方が、
楽なんではないですか?
そんな自問自答の日々です、私は。

雪子伯母さん。
本当に分かりません!
雪子伯母さんなら、分かりますか?
なぜ、私と私の娘が、こんなに、
苦しまないといけないのですか?

ねぇ、雪子伯母さん。
雪子伯母さんは、神様を信じているよう
ですけど、本当に神様はいるんですか?
もし、神様がいるとしたら、何で、
こんな不公平なことが起こるんですか?

雪子伯母さん。
私は真剣に、最近考えています。
神と言う存在は信じられないけど、
呪いと言うものは、信じざる得ません。
もしかして、私たちの家、奥中家や
三田家は呪われているのでは
ないでしょうか?
みんな良い人間です。
でも、学校の同級生達の前で屈辱を
味わされたり、レイプされたり、
交通事故で突然死んだり、
幼い二人の女の子を残して
両親が自殺とかって。
絶対呪われているはずです!!
奥中家か三田家の先祖の誰かが、
人殺しでもしたのではないかと、
考えています。

とにかく、雪子伯母さん、私は、
苦しいのです。
私は嘘にまみれた女ですけど、
ここに書いていることは事実、
真実だけです。
確かに、あいつに犯された後、
ずっと雪子伯母さんには、
本当のことを言えませんでした。
また、真子にも嘘をついてしまいました。

そうです。真子には、本当に申し訳ない
嘘をついてしまいました。
小学1年の頃、真子が学校から
帰ってくるなり
「ねぇ。学校で赤ちゃんの頃の写真を
使って、アルバム作るんだ。
写真ちょうだい!あと、真子の名前って、
どういう意味なの?」と訊いて来ました。

写真はありましたらから、すぐに、
渡すことができました。
でも、雪子伯母さん。
娘に娘の名前を付けたいきさつを、
説明するなんてできません!!
本当のことを告げたら、どんなに、
娘が傷つくでしょうか?
そんなことは容易に想像できます。
だから、私は嘘をつきました。
本当のことは絶対に言えなかった。
今でも言えません。
私はニコッと笑って、
「真実な子、ウソをつかないで、
正直な子になってほしいと思って、
真子っていうお名前にしたんだよ」と
答えました。
あの時の心の痛み、言いようもない
悲しさ、今でも忘れられません!!
「ウソをつかない」とか言いながらも、
その自分自身が、嘘を現に言っている。
やるせない気持ちでした。

雪子伯母さん。
でも、この噓だけはつき通します。
だって、
「産まれてきたら殺すつもりだったので、
名前なんか考えていなかったの。
たまたま、名前について訊かれた時、
目の前の看護師さんの身分証に、
真子って書いていたから、咄嗟に、
『真子です』って言っちゃったのよ」
なんて言えません!
言ってはいけませんよね?

あの時、真子に嘘をつきながら、
悲しくて、涙が流れてきました。
それを見られないために、咄嗟に、
真子を抱きしめました。
抱きしめる行為を愛からでなく、嘘を
隠すためにしてしまった!
そして、私は、娘を愛しているのに、
娘に真実を語れない、一生!!

娘に父親のことでも嘘を言い続けて
いますし、名前のことでも嘘を
つき通します。
正直になれない、いいえ、正直に語れない、
そう正直に語ってはいけない負の歴史を
背負っていることが、私の苦悩なのです!

雪子伯母さん。ここだから書きますが、
真子には『お父さん』について、
こう言っています。
「あなたのお父さんは、あなたが、
生れる前に死んじゃったけど、
カッコいい人だったのよ」と。
間違っても、
「あなたのお父さんは、
女の人を突然襲って、裸にして、暴力を
ふるう本当に悪い人だったの。私もね、
あなたのお父さんにつかまって、
変なこと、スゴイ嫌なこと、
いっぱいされたのよ」とは言えません。

支えのはずだった真子のことで、
こんなに苦しみ、苦悩するなら、
「やっぱり中絶すべきだったのでは?
または、産んだ後すぐに捨てておけば!」と
時に考えている自分がいます!!!
ハッと気づくのです、そんな恐ろしい感情を
抱く自分に。
私は、狂いかかっているのかもしれません。

でも完全に狂う前に、真子の母親として、
雪子伯母さんにお願いしたいのです。
私は、私の娘真子に幸せになって
もらいたい。
だから、雪子伯母さん。
何か真子が明るくなる、また、学校に戻れる
良い方法があったら教えてください。

私もいろいろしてみました。
不登校になっている真子のために、
出来る限りのことをしてきましたし、
これからもします。
でも、どれも効果がないように思えます。
それほど、真子の受けた傷は、
大きいのでしょう。
だから、雪子伯母さんに、
お願いしたいのです。
何か、この状況の真子を救う方法が
あれば教えてください!

雪子伯母さんが、教会に熱心に、
通っていることは知っています。
でも、私は、神と言う存在を全く、
信じられません。
ごめんなさい。
でも、正直に書きます。
神がいるとは思えないのです!
いるならば、なんで私たち親子が、
こんなに苦しむのか説明がつきません!!
だから、私は、神はいないと、
信じています。

だから、雪子伯母さん。
こんなこと言うのは申し訳なくも
思うのですが、神とか言う非科学的な
ものに頼る方法や教会に、とか言う、
方法でなく、心理学的または医学的な
答えをいただけないでしょうか。
本当に、わがままで、失礼な内容だとは、
分かっています。
でも、これが姪からの最後のお願いと
なっても良いと、私は思っています。
それほど、私は、もう一度娘に、
笑顔が戻る日を待ち望んでいます!

いろいろ書きました。
ごめんなさい。
ショックを受けるかと思います。
でも、本当に、お願いです!
真子のこと、何か、良策ありましたら
教えてください。
         奥中 峯子  】




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登場人物紹介


奥中(おくなか) 真子(まこ)のちに(養子縁組により)(やぎ)(ぬま) 真子のちに(結婚により)栄真子




 本書の主人公。小学校3年生のあの日 、学校のクラスメートや上級生、下級生の見ている前で、屈辱的な体験をしてしまう。その後不登校に。その記憶に苛まれながら過ごすことになる。青春時代は、母の想像を絶する黒歴史、苦悩を引継いでしまうことなる、悲しみ多き女性である。





(あし)() みどり



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメートであり、大親友。



しかし、小学校3年生のあの日 、学校の廊下を走る真子の足止めをし、真子が屈辱的な体験を味わうきっかけをつくってしまう。



その後、真子との関係は断絶する。










(よし)(とき)



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメート。葦田みどりの幼馴染。



小学校3年生のあの日 、学校の廊下で真子に屈辱的な体験をさせる張本人。











奥中(おくなか) 峯子(みねこ)



本書の主人公、真子の母。スーパーや郵便局で働きながら、女手ひとつで真子を育てる。誰にも言えない悲しみと痛みの歴史がある。








雪子(ゆきこ)



本書の主人公、真子の大伯母であり、真子の母奥中峯子の伯母。


愛媛県松山市在住。







銀髪で左目に眼帯をした男



本書の主人公、真子が学校の廊下で屈辱的な体験をするあの日 、真子たちの



住む町で交通事故死した身元不明の謎の男性。



所持品は腕時計、小銭、数枚の写真。










定美(さだみ)(通称『サダミン』)



本書の主人公、真子が初めて就職したスーパーの先輩。



優しく、世話好き。



だが、真子は「ウザ」と言うあだ名をつける。









不動刑事



本書の主人公、真子が身の危険を感じ、警察署に駆け込んだ際に、対応してくれた女刑事。



正義感に溢れ、真面目で、これと決めたら周囲を気にせず駆け抜けるタイプである。



あだ名は、『不動産』。警視庁阿佐ヶ谷中央警察署生活安全課巡査部長。
















平戸



本書の主人公、真子につきまとう男。



また、真子の母の人生にも大きく関わっていた。






愛川のり子



子役モデル出身の国民的大女優。



〔あいのん〕の愛称で、幅広い世代から人気。



映画、テレビ、雑誌などで大活躍中。







石出(いしで) 生男(いくお)



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメートであり、幼馴染。小学校3年生のあの日 、真子を裏切る。




(やぎ)(ぬま) 真子のちに(結婚により)(さかえ) 真子



 本書の主人公。旧姓は、奥中。



小学校3年生の時、学校中の見ている前で屈辱的体験をし、不登校に。



その後は、まさに人生は転落、夜の世界へと流れていく。



だが、22歳の時小学時代の同級生二人と再会し、和解。回復への一歩を歩みだす。

(さかえ)(よし)(とき)



本書の主人公、真子が小学校3年生の時、屈辱的体験をさせた張本人。



そして、真子が22歳の時、男に追われているところを助けた人物でもある。



その後、真子の人生に大きく関わり、味方、何より人生の伴侶となる。

柳沼雪子



本書の主人公、真子の大伯母。養子縁組により、真子の母となる。



夫は眼科医であったが、すでに他界。愛媛県松山市で一人暮らしをする愛の女性である。

定美(さだみ)(通称・『サダミン』)



本書の主人公、真子が大事にしているキーホルダーをプレゼントしてくれた女性。



真子が川崎市を飛び出して来てから長いこと音信不通だったが、思いもしないきっかけで、真子と再会することになる。

不動みどり



本書の主人公、真子が小学校3年生の時、屈辱的体験をするきっかけを作ってしまう。



そして、真子が22歳の時、再会。つきまとい行為を続ける男から真子を助ける。



旧姓は、葦田。警視庁阿佐ヶ谷中央警察署生活安全課・巡査部長。

都和(とわ)



明慈大学理工学部で学んでいた女性。DVによる妊娠、恋人の自殺、大学中退……と、真子のように転落人生を歩みかけるが、寸前を真子に助けられる。

愛川のり子



〔あいのん〕の愛称で、幅広い世代から人気。



映画、テレビ、雑誌、海外でのドラマ出演など活躍の場を広げる国民的大女優である一方、息子の『いじめ報道』に心を痛め、また後悔する母親。



本名は、哀川憲子。

()(おり)



結婚した真子の義姉となる女性。



真子との初対面時は、性格上、真子を嫌っていたが、



後には、真子と大の仲良し、何でも言い合える仲になる。



名家の出身。



 

石出(いしで) 生男(いくお)



本書の主人公、真子を裏切った人物。



真子が小学時代の同級生二人と再会し、和解した夜に自殺。



第二巻では、彼の娘の名前が明かされる。

新名 志与


旧姓、長谷島。

第一章では、主人公に、『しーちゃん』と呼ばれている。

夜の世界で働いていた真子にとって、唯一の親友と

呼べる存在、姉的存在だった…。


ある出来事をきっかけに、真子と再会する(第二章)


小羽


 真子の中学生時代(奈良校)の同級生だったが…。


第二章で登場する時には、医療従事者になっている。

居村


 義時と真子が結婚式を挙げるホテルの担当者。

ブライダル事業部所属、入社3年目の若手。

 

真子曰く、未婚、彼氏募集中。

不動刑事


主人公の親友である不動みどりの夫。


石出生男の自殺現場に出動した刑事課員の1人。



最愛の妻、同じ署に勤務する警官のみどりが、

自分に隠れ、長年自宅に『クスリ』を保管、しかも、

所持だけではなく、使用していた事実を知った

彼は……。

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