第十七章 ㉟

文字数 2,338文字

実は、真子は。
義時本人からではないけれど、ある人から、
『九州の魅力』を伝えられて……。
その人に、九州に行くことを勧められて、
考え(意見)が変わっていたのだった。

絶対に北海道……でなくても、意地でも、
彼氏に対抗し、九州だけはあり得ないと
思っていたのだけれど。

その人の話を聞いて、結局、真子の中で、
北海道→九州に、考えが変わった。


その人というのは……。
義時の母、栄定美だった。
彼女は。
つまり、婚約者の母は、交際している2人の
喧嘩状態を知らずに、息子の婚約者である
真子に電話をかけてきたのだった。
だから、もちろん、別件で…。
で、話の流れで、
「ねぇ、新婚旅行の行き先は決まったの
かしら?」と訊いてきて。

真子は、正直に、「2人とも、意見が合わない
んです。私は、北海道が良いかなぁと思って
いるんですが、義時さんは、九州が良いって
言っていまして……」と伝えた。
まぁ、色々思うところ考えるところがある
のだけれど、それらすべてを、婚約者の母に
言うわけにはいかない……。


で、真子から、息子が九州に行きたがってる
と聞いた、定美は、嬉しかった。
あと、察しがついた。
なんで、次男が、九州に行きたがるのか、
母は、よく分かった。

と言うより、定美自身、配偶者や結婚した
もう1人の息子―長男―から止められている
から、言いはしなかったけれど、義時たちに
九州に行ってほしいと考えていた。
 なぜって、自分も、そして、義母たちも
九州に新婚旅行に行ったから。
それに、二代連続で新婚旅行で泊まって
くれたということで、大分の別府にある
老舗旅館の大旦那と大女将とは、かなり
仲良くなっている。
頻繁にやり取りをしているほど…。
あと、大女将の娘の女将が、家族旅行で、
【絵傘の庄】に来てくれたこともある。
 そんなこともあって、定美は思っていた。
「義時たち、新婚旅行、九州にしてくれない
かしら?」
 だけど、家族から止められていたので、
我慢して、言わなかった。
そう、これは、結婚する当人たちの自由なの
だし、こんなことで一々口をはさんでたら
真子ちゃんから「うるさい人ね!」と
思われて、式後の嫁姑関係にも響くだろうし
……。
で、我慢していたのだ。
それに、長男たちの件もある。
長男たちも、九州じゃなくて、自分たちで
行きたいところに行ったんだから……。
次男―義時―とその奥さんに、自分の夢を
押しつけるのは……と、自制心が、ちょっと
働いた。


そう、あの子たちは外国だったわね、と
定美は思い出した―真子に電話する
数日前―。

えっと。
なんとかランド……。
グリーンランド?
アイスランド?
アイルランド?
あぁ、フィランド!!
「そうよ、あの子たちは、式の後すぐに、
さっさと成田からフィンランドに行ったん
だったわ!」
懐かし気に、思い出す。
まだ、自分も若かった。
それに、配偶者から止められても
なかったし。
だから、長男とその婚約者―栄家の親戚に
あたる女の子―に、九州をすすめようと、
本気で、した。
2人とお茶をしながら……。
でも、その時、何か察したのか、まぁ、
女の勘というヤツかもしれないけど、
彼女―美織さん―の方から言ってきたん
だった。
「私たち、新婚旅行、フィンランドに
行こうって、話してるんです!
実は、私の両親が、両方、フィンランドに
縁があって……。
2人とも若いころ、別々にですけど、
あっちに行って、オーロラを見たって、
話してました、ずっと。
それで、私も、いつか本場フィンランドの
オーロラを見たいなぁって、ずっと思って
いて……。
そのことを、義治さんに、ある時話したら、
『ぜひ!一緒に行きたいな』って言って
くれたので、2人で、新婚旅行で、
行こうってことになったんです!」
 息子の隣に座り、幸せそうに、あと
本当に楽しみなのだろう、目をキラキラ
させて、そう語る、長男のフィアンセに、
あと、長男に、「でもねぇ、九州も良い
わよぉ!温泉も、山も、海もあるしねぇ。
ねぇ、九州に行こうとは思わない?」とは
さすがに言えなかった…。
言ったら、あとから、長男に怒られるのが
明白だし、何より、遠縁の娘とは言え、
こっちに嫁いできてくれる子に、今から、
「新婚旅行のことに口出してくる、
面倒くさい姑さん」と思われたくなかった。
だから、吞み込んだ。
『九州』と言う、言葉を。

で、それで良かったぁと、すぐに思った。
彼女―長男の婚約者―が、こう続けたから。
「実は。
フィランドに、まだ1度も会ったことの
ない、父の妹、私の叔母が住んでまして。
あの……現地の人ともう結婚して、子どもも
孫もいるんですけど。
手紙ではやり取りしてるし、私の誕生日には
プレゼントも送ってくれていて……。
まだ、1度も会ったことないけれど、ずっと
会いたかったんです。
それに、叔母は体が弱くて、こちらに、……
結婚式には来れないので。
なら、私たちが、結婚のあいさつと今までの
お礼に、行きたいなぁって思いまして。
それで、義治さんと、一緒に、あっちに
行きたいんです!」

 本当に良い娘だなぁ……と改めて思った。
それと、「九州って言わないで、
良かったぁ」とも。


なので、2人の息子のうち長男が新婚旅行で
九州に行く線はなくなったし、実際、長男と
そのお嫁さんは、フィンランドに行った。
で、残る次男は……。
長男の時は、九州をすすめるのが未遂に
終わったけれど、今回は、次男に言うなと
配偶者と長男から止められているので。
 諦めていた……。
自分が何も言わないのに、次男とそのお嫁
さんが九州に行ってくれる可能性はかなり
低いから。

だけど……!
次男の婚約者から、次男の意向を聞いた
定美は。。
もう、忘れてしまった。
長男や配偶者からの『禁止令』なんて!
で、真子―次男のフィアンセ―に、
九州の魅力を大いに語り、九州の美しさを
事細かに伝えたのだった!!











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登場人物紹介


奥中(おくなか) 真子(まこ)のちに(養子縁組により)(やぎ)(ぬま) 真子のちに(結婚により)栄真子




 本書の主人公。小学校3年生のあの日 、学校のクラスメートや上級生、下級生の見ている前で、屈辱的な体験をしてしまう。その後不登校に。その記憶に苛まれながら過ごすことになる。青春時代は、母の想像を絶する黒歴史、苦悩を引継いでしまうことなる、悲しみ多き女性である。





(あし)() みどり



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメートであり、大親友。



しかし、小学校3年生のあの日 、学校の廊下を走る真子の足止めをし、真子が屈辱的な体験を味わうきっかけをつくってしまう。



その後、真子との関係は断絶する。










(よし)(とき)



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメート。葦田みどりの幼馴染。



小学校3年生のあの日 、学校の廊下で真子に屈辱的な体験をさせる張本人。











奥中(おくなか) 峯子(みねこ)



本書の主人公、真子の母。スーパーや郵便局で働きながら、女手ひとつで真子を育てる。誰にも言えない悲しみと痛みの歴史がある。








雪子(ゆきこ)



本書の主人公、真子の大伯母であり、真子の母奥中峯子の伯母。


愛媛県松山市在住。







銀髪で左目に眼帯をした男



本書の主人公、真子が学校の廊下で屈辱的な体験をするあの日 、真子たちの



住む町で交通事故死した身元不明の謎の男性。



所持品は腕時計、小銭、数枚の写真。










定美(さだみ)(通称『サダミン』)



本書の主人公、真子が初めて就職したスーパーの先輩。



優しく、世話好き。



だが、真子は「ウザ」と言うあだ名をつける。









不動刑事



本書の主人公、真子が身の危険を感じ、警察署に駆け込んだ際に、対応してくれた女刑事。



正義感に溢れ、真面目で、これと決めたら周囲を気にせず駆け抜けるタイプである。



あだ名は、『不動産』。警視庁阿佐ヶ谷中央警察署生活安全課巡査部長。
















平戸



本書の主人公、真子につきまとう男。



また、真子の母の人生にも大きく関わっていた。






愛川のり子



子役モデル出身の国民的大女優。



〔あいのん〕の愛称で、幅広い世代から人気。



映画、テレビ、雑誌などで大活躍中。







石出(いしで) 生男(いくお)



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメートであり、幼馴染。小学校3年生のあの日 、真子を裏切る。




(やぎ)(ぬま) 真子のちに(結婚により)(さかえ) 真子



 本書の主人公。旧姓は、奥中。



小学校3年生の時、学校中の見ている前で屈辱的体験をし、不登校に。



その後は、まさに人生は転落、夜の世界へと流れていく。



だが、22歳の時小学時代の同級生二人と再会し、和解。回復への一歩を歩みだす。

(さかえ)(よし)(とき)



本書の主人公、真子が小学校3年生の時、屈辱的体験をさせた張本人。



そして、真子が22歳の時、男に追われているところを助けた人物でもある。



その後、真子の人生に大きく関わり、味方、何より人生の伴侶となる。

柳沼雪子



本書の主人公、真子の大伯母。養子縁組により、真子の母となる。



夫は眼科医であったが、すでに他界。愛媛県松山市で一人暮らしをする愛の女性である。

定美(さだみ)(通称・『サダミン』)



本書の主人公、真子が大事にしているキーホルダーをプレゼントしてくれた女性。



真子が川崎市を飛び出して来てから長いこと音信不通だったが、思いもしないきっかけで、真子と再会することになる。

不動みどり



本書の主人公、真子が小学校3年生の時、屈辱的体験をするきっかけを作ってしまう。



そして、真子が22歳の時、再会。つきまとい行為を続ける男から真子を助ける。



旧姓は、葦田。警視庁阿佐ヶ谷中央警察署生活安全課・巡査部長。

都和(とわ)



明慈大学理工学部で学んでいた女性。DVによる妊娠、恋人の自殺、大学中退……と、真子のように転落人生を歩みかけるが、寸前を真子に助けられる。

愛川のり子



〔あいのん〕の愛称で、幅広い世代から人気。



映画、テレビ、雑誌、海外でのドラマ出演など活躍の場を広げる国民的大女優である一方、息子の『いじめ報道』に心を痛め、また後悔する母親。



本名は、哀川憲子。

()(おり)



結婚した真子の義姉となる女性。



真子との初対面時は、性格上、真子を嫌っていたが、



後には、真子と大の仲良し、何でも言い合える仲になる。



名家の出身。



 

石出(いしで) 生男(いくお)



本書の主人公、真子を裏切った人物。



真子が小学時代の同級生二人と再会し、和解した夜に自殺。



第二巻では、彼の娘の名前が明かされる。

新名 志与


旧姓、長谷島。

第一章では、主人公に、『しーちゃん』と呼ばれている。

夜の世界で働いていた真子にとって、唯一の親友と

呼べる存在、姉的存在だった…。


ある出来事をきっかけに、真子と再会する(第二章)


小羽


 真子の中学生時代(奈良校)の同級生だったが…。


第二章で登場する時には、医療従事者になっている。

居村


 義時と真子が結婚式を挙げるホテルの担当者。

ブライダル事業部所属、入社3年目の若手。

 

真子曰く、未婚、彼氏募集中。

不動刑事


主人公の親友である不動みどりの夫。


石出生男の自殺現場に出動した刑事課員の1人。



最愛の妻、同じ署に勤務する警官のみどりが、

自分に隠れ、長年自宅に『クスリ』を保管、しかも、

所持だけではなく、使用していた事実を知った

彼は……。

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