第十六章 ㉓

文字数 3,319文字

(ここでは、第九章⑭と第一章①と
第四章⑨と
時間枠が一致するので、
交互に読まれることをすすめる)








で、『その時』は、突然訪れました。

『新郎入場』直後、『新婦入場』直前の
ギリギリのタイミングで……。


急に、みどりちゃんが、どこに隠して
いたのか、白い紙袋を、「これ……」と
言って、私の方に?

とりあえず、「ありがとう」と言って、
私は受け取りますが、内心は、戸惑い
です。
なぜ、このタイミングで……??
しかも、これから、まさに『新婦入場』
なので、この紙袋どうしたら良いの……
???
と言うより、中身は何……????


このようなことを考え、戸惑う、新婦。
そして、何故か、みどりちゃんも、
いつもなら説明するなり、笑顔で色々
話してくれるはずなのに、紙袋を手に
困惑する私を、黙ってジッと見つめるだけ
……。


違和感に気づいたのか、すぐに、居村さん
が駆け寄って来てくれました。
「ご荷物をお預かり致します。
後程、新婦様の控室にお運びしておきます。
もう、そろそろ、ご入場ですので……」
と、すかさず言ってくれる居村さん。


で、私は、みどりちゃんに言ったのです。
「みどりちゃん、ありがとう。
これ、後で開けさてもらうね。
もう、そろそろ、私達の出番だから……」。
そして、居村さんに、紙袋ごと渡そうと
したのですが…。
「ちょっとさ、待って、真子ちゃん!」と
みどりちゃんが強めに……。


?????
困惑、戸惑い。
「先輩花嫁である、みどりちゃんなら
分かるはずなのに……。
この時間がどんなに大事で、そして、
切羽詰まっているか……。
なのに、何!?」。
正直、イライラしかける、元来短気な
私。

話がそれますけど、その元来的短気な
性格のせいで、ピーナのクズ女と大喧嘩
をして、それをきっかけに、オーナーや
店長に睨まれ、疎ましく思われ出し、
で……、結局、店を…と言うか『夜の
仕事』を辞めることになったのです。
いや、辞めれることができたと言う
べきか……。
で、そのおかげで、刑事になっていた
みどりちゃんと再会、また、夫とも
再会でき、今こんなに幸せなんです
から、まさに、すべてのことが働いて
益となっているわけですが……。


で、話を戻して。
居村さんも、困惑気に、みどりちゃん
を見つめています。


そんな居村さんと、正直それどころじゃ
ない、心を騒がされたくない状況である
新婦の私。あと、数人のホテルの人が
黙って、注目する中、みどりちゃんは
言うのです。
「真子ちゃんさ……。今、開けてさ、
今、見てもらいたいんだ」。
「ちょっと見てもらえば良いからさ」
と続ける、みどりちゃん。


「あの……」と、さすがに、居村さんが
止めに入ろうとしていくれましたが…。
私は、「すみません。ちょっと、待って
ください」と頼んで、みどりちゃんを
しっかり見つめながら答えました。
「分かった。今、見るね」と。

親友が、ここまで、言うからには、
何かあるな……って思ったんです。
それに、みどりちゃんには感謝しても
感謝しきれないのですから。



で、大急ぎで、紙袋から取り出します。
まずは、茶色のダンボール。
両手で簡単に持てるサイズの。

「開けてみて」と、みどりちゃんに
言われるがままに、そのダンボールを
開けます。

で、入っていたのが……!!
ピンク色の運動靴でした。
星、太陽、月の模様が綺麗な。



一瞬で、タイムスリップしました……。
時は、十何年も前。
そして、そこは、いすみ市。
小学生の私と同じく小学生のみどり
ちゃんは、約束したのです。
「おそろいの、この靴を履き続けよう
ね!」と…………。



そうです。私の両手の上にある
ダンボールの中に納まっている
運動靴は…、ピンクの運動靴は、
まさに、『約束の靴』なのでした!


全て、分かりました。
みどりちゃんの、言わんとすることが
全部、理解できました。
記憶からすっかり消し去られていた
『あの頃の約束』をしっかりと思い出せ
たのです。


ハッとして、みどりちゃんの足元を
見てみました。
やっぱり……!!
そうでした。
彼女も、結婚式には全くそぐわない
運動靴を履いています。
そう、私の両手の上にあるのと同じ
ピンク色の運動靴。

顔を上げて、みどりちゃんを見ます。
みどりちゃんもジッと、こっちを
見つめ返してきます。
その目に光るものが……。


もう言葉は一切いりません。
うんと大きく頷きました。
みどりちゃんも、大きく頷き返して
くれました。


私は、バッと、居村さんの方を
振り返り、叫んでいました。
「居村さんッ!!!」と。
自分でもビックリするほど大きな
声で……。

「ヒャイっ!?」と驚きのあまりの
変な叫び声が、居村さんから返って
きました。


でも、もう気にしてる余裕はない
のです、居村さんには悪いけれど…。
なので、私は、謝罪とかは後にして、
単刀直入に言いました!
「これ、靴です!!
この靴に履き替えますね!」と。


それまで、ホテルのブライダル事業部の
担当者として完璧な態度、言動、表情、
笑顔を保っていた居村さんからとは、
考えられないような、叫びが返って
きました。
「ハァぁぁぁ??!!」。


………… 一瞬、その場を、つまり、
チャペルの外を支配する静寂…………



で、次の瞬間、私もみどりちゃんも、
居村さんの方を見やります。


すると……。
私の両手の上にあるダンボールの中に
納まった、その靴……、つまるところ、
結婚式にはそぐわなすぎるピンクの
運動靴を見て、それから、私の顔も見て、
つまり、交互に、見ながら……、
居村さんが、「信じられない!」と
言う……、いや、違うな、「こいつら、
何言っちゃってんのぉぉぉ!!」と言う
顔をしています。


分かります。
その気持ち……!
私だって、私やみどりちゃんの立場で
ないなら、つまり、居村さんの立場なら
そうなるでしょう!!


でも……。
もう、構ってる余裕はないのです、
本当に、居村さんには悪いけれど…。
それに、時間も、もうギリでしょう。
そして、私の心は決まっているのです。


居村さんの答え、許可を待たずに、
私は、しゃがみました!
で、ウエディングドレスを捲り上げ……、
まぁ、周りに、ちょうど良く、男性が
一人もいなかったので、気にする必要は
ありませんでしたから……。

そして、大急ぎで、大金をはたいて折角
購入した、新品の、まさに、
『今日この日のための』ブライダル
シューズを脱ぎにかかります。
みどりちゃんも、しゃがんで、フォロー
してくれました。

で、2人で……、大急ぎでやっていたの
ですが、紐を結ぶとかに、かなり悪戦苦闘
しました……、そう、かなり。
焦りましたね。
そして、周りを囲み、無言の……、
まぁ、声が出せなかったのでしょうね、
新婦とその親友の『蛮行』を目の前に
して……。
そう。その、みんなの無言の視線も
痛かった……。


でも、私達2人は、それに負けず、
とにかく、大急ぎで、頑張りました。


と……。
その時!!
まさに、突然でした……!!!
すっと、私の横に、誰かが、しゃがんだ
んです。
「…!!誰……?」。

横を向くと、それは、居村さんでした。
プロのブライダル事業部の担当さんの
表情に戻っている居村さんは、私達の
『靴交換』のため手を、すでに、動かし
てくれていました。

そして、『4足の靴』に目をやったまま
言うのです。
「理由は、後程、お聞かせ願います。
とにかく、今は、急ぎましょう!
もう、残り30秒あるかないかですから!」。


思わず、私とみどりちゃんは一斉に、
「ありがとうございますッ!」って
叫んでいました。


それで……。
居村さんとみどりちゃんのフォローの
おかげで、本当に、ギリギリセーフで、
新婦の『靴交換』作業は、完了しました。

で、私は、あのダンボール箱に、
本来履くはずだった、って言うか、新婦が
履くべき、ブライダルシューズを納め、
居村さんに渡しました。
「本当に、ありがとうございます。
あと、すみません!バタバタさせて。
それで、これ……。
控室にお願いします」。
居村さんは、いつものプロの顔で、
「かしこまりました」と一言だけ言って、
受けとってくれました。
内心、思いました。
本当にカッコいいなぁ……と。




そして、私達は、無事に、
『新婦入場』の、ギリギリ15秒前の
タイミングにチャペルの扉の前に
立ったのです……。
新婦の私と、エスコート役のみどりちゃん
は。
そして……。
2人とも、下は、ピンクの運動靴で……。










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登場人物紹介


奥中(おくなか) 真子(まこ)のちに(養子縁組により)(やぎ)(ぬま) 真子のちに(結婚により)栄真子




 本書の主人公。小学校3年生のあの日 、学校のクラスメートや上級生、下級生の見ている前で、屈辱的な体験をしてしまう。その後不登校に。その記憶に苛まれながら過ごすことになる。青春時代は、母の想像を絶する黒歴史、苦悩を引継いでしまうことなる、悲しみ多き女性である。





(あし)() みどり



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメートであり、大親友。



しかし、小学校3年生のあの日 、学校の廊下を走る真子の足止めをし、真子が屈辱的な体験を味わうきっかけをつくってしまう。



その後、真子との関係は断絶する。










(よし)(とき)



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメート。葦田みどりの幼馴染。



小学校3年生のあの日 、学校の廊下で真子に屈辱的な体験をさせる張本人。











奥中(おくなか) 峯子(みねこ)



本書の主人公、真子の母。スーパーや郵便局で働きながら、女手ひとつで真子を育てる。誰にも言えない悲しみと痛みの歴史がある。








雪子(ゆきこ)



本書の主人公、真子の大伯母であり、真子の母奥中峯子の伯母。


愛媛県松山市在住。







銀髪で左目に眼帯をした男



本書の主人公、真子が学校の廊下で屈辱的な体験をするあの日 、真子たちの



住む町で交通事故死した身元不明の謎の男性。



所持品は腕時計、小銭、数枚の写真。










定美(さだみ)(通称『サダミン』)



本書の主人公、真子が初めて就職したスーパーの先輩。



優しく、世話好き。



だが、真子は「ウザ」と言うあだ名をつける。









不動刑事



本書の主人公、真子が身の危険を感じ、警察署に駆け込んだ際に、対応してくれた女刑事。



正義感に溢れ、真面目で、これと決めたら周囲を気にせず駆け抜けるタイプである。



あだ名は、『不動産』。警視庁阿佐ヶ谷中央警察署生活安全課巡査部長。
















平戸



本書の主人公、真子につきまとう男。



また、真子の母の人生にも大きく関わっていた。






愛川のり子



子役モデル出身の国民的大女優。



〔あいのん〕の愛称で、幅広い世代から人気。



映画、テレビ、雑誌などで大活躍中。







石出(いしで) 生男(いくお)



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメートであり、幼馴染。小学校3年生のあの日 、真子を裏切る。




(やぎ)(ぬま) 真子のちに(結婚により)(さかえ) 真子



 本書の主人公。旧姓は、奥中。



小学校3年生の時、学校中の見ている前で屈辱的体験をし、不登校に。



その後は、まさに人生は転落、夜の世界へと流れていく。



だが、22歳の時小学時代の同級生二人と再会し、和解。回復への一歩を歩みだす。

(さかえ)(よし)(とき)



本書の主人公、真子が小学校3年生の時、屈辱的体験をさせた張本人。



そして、真子が22歳の時、男に追われているところを助けた人物でもある。



その後、真子の人生に大きく関わり、味方、何より人生の伴侶となる。

柳沼雪子



本書の主人公、真子の大伯母。養子縁組により、真子の母となる。



夫は眼科医であったが、すでに他界。愛媛県松山市で一人暮らしをする愛の女性である。

定美(さだみ)(通称・『サダミン』)



本書の主人公、真子が大事にしているキーホルダーをプレゼントしてくれた女性。



真子が川崎市を飛び出して来てから長いこと音信不通だったが、思いもしないきっかけで、真子と再会することになる。

不動みどり



本書の主人公、真子が小学校3年生の時、屈辱的体験をするきっかけを作ってしまう。



そして、真子が22歳の時、再会。つきまとい行為を続ける男から真子を助ける。



旧姓は、葦田。警視庁阿佐ヶ谷中央警察署生活安全課・巡査部長。

都和(とわ)



明慈大学理工学部で学んでいた女性。DVによる妊娠、恋人の自殺、大学中退……と、真子のように転落人生を歩みかけるが、寸前を真子に助けられる。

愛川のり子



〔あいのん〕の愛称で、幅広い世代から人気。



映画、テレビ、雑誌、海外でのドラマ出演など活躍の場を広げる国民的大女優である一方、息子の『いじめ報道』に心を痛め、また後悔する母親。



本名は、哀川憲子。

()(おり)



結婚した真子の義姉となる女性。



真子との初対面時は、性格上、真子を嫌っていたが、



後には、真子と大の仲良し、何でも言い合える仲になる。



名家の出身。



 

石出(いしで) 生男(いくお)



本書の主人公、真子を裏切った人物。



真子が小学時代の同級生二人と再会し、和解した夜に自殺。



第二巻では、彼の娘の名前が明かされる。

新名 志与


旧姓、長谷島。

第一章では、主人公に、『しーちゃん』と呼ばれている。

夜の世界で働いていた真子にとって、唯一の親友と

呼べる存在、姉的存在だった…。


ある出来事をきっかけに、真子と再会する(第二章)


小羽


 真子の中学生時代(奈良校)の同級生だったが…。


第二章で登場する時には、医療従事者になっている。

居村


 義時と真子が結婚式を挙げるホテルの担当者。

ブライダル事業部所属、入社3年目の若手。

 

真子曰く、未婚、彼氏募集中。

不動刑事


主人公の親友である不動みどりの夫。


石出生男の自殺現場に出動した刑事課員の1人。



最愛の妻、同じ署に勤務する警官のみどりが、

自分に隠れ、長年自宅に『クスリ』を保管、しかも、

所持だけではなく、使用していた事実を知った

彼は……。

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