第十六章 ㉘
文字数 1,343文字
しーちゃんも、私の電話番号とかを
電話帳から消さないままに…、そのままに
してくれていたのです。
だから、あの日のお昼、私から電話が
かかってきた時……。
しーちゃんの携帯電話の画面には、
本当に久しぶりに、そう、何年ぶりかに、
『マコッち』と表示された、そうです。
あの時はねラーメンの器を思わず
落としてしまうほど驚いたよ、と後日
言われました。
そして……。
その電話の日から数日後のことです。
私と、しーちゃんは、都内で会うこと
になりました。
暖かな天気の下……とは言っても、まだ
冬ですから、風が寒く、手は悴みます。
私は、新市ヶ谷駅の改札前で、
しーちゃんを待っていました。
「10時30分に、改札前集合ね」と
姉貴的存在に言われていたのもので。
あ、そうだ。
「朝ごはん抜きにして、お腹空かせて
来てね。ちょっと早い、そして、超ウマい
ランチになるから!」とも言われて
いました。
そして……。
約束の時間きっかりに。
懐かしい、しーちゃんが、こっちに駆けて
きます。
すぐに、しーちゃんだって分かりました。
昔より、ちょっと、ふっくらした感じで、
そして、髪も黒でしたけど、分かりました、
すぐに…‥。
で、私も、改札前から駆け出して。
私としーちゃんは、歩道上で、
お互い、飛びつき合い、そして、ガシッと、
いや、ギューッと抱きしめ合いました。
周りの目なんか、どうでも良い……、
まさに、そんな心境!
どれくらい、そうしていたかな?
横を通り過ぎるビジネスマン達や、
近くの大学の学生達の視線は気に
なりませんでした。
そして、最初に顔を上げて、声を発した
のは、しーちゃんの方でした。
私の身体を両腕で力強く抱きしめたまま、
じっと私を見つめて、「マコッち!!
本当に、会いたかったよぉ!
元気だったぁ?」と……。
目が、潤んでいます。
私も、涙を我慢することできなくなり
ながら、必死に言葉を振り絞りました。
そして、都内の路上で、私は、彼女に、
言ったのです。
「しーちゃん。……ごめんね」と。
それだけでした。
って言うか、もっと言いたかったのですが、
それが、あの時の限界でした…。
そんな私を、しーちゃんは、ただ無言で、
ギュッとさらに抱きしめてくれたもの
です。
それから……。
私達は、手をつないで、都内の歩道を
歩いていました。
意を決して、歩きながら訊いたのです。
「しーちゃん。
何で会ってくれたの?何で、電話出て
くれたの?
突然、いなくなって、ずっと無視とか
してたのに……」と。
しーちゃんの答えを、私は、一生忘れ
ません!
「えっ?だって、私たち本当の姉妹
みたいなもんじゃん?
姉妹って……、家族って、どんなに連絡
取らなくても、どんなに顔を合わせてなく
ても、ずっとさ、家族であるってことには
変わりないでしょ。
だからさ、会えなくても、連絡とれなく
なっても、私さ、マコッちのこと心配
だったし、ずっと会いたかった。
それで、あの日、突然、電話来てさ……。
久しぶりに妹が戻って来る、会いたいって
言うのに、会わないわけないじゃん!!」。
彼女は、姉は、ずっと待ってくれて
いたのです。
勝手に飛び出していき、また、向きを
変え戻ってくるような妹を……。
そして、見つけ、走って来て、抱きしめ、
受け入れてくれたのです。
ずっと待っていてくれた、姉は…。
(著作権は、篠原元にあります)