第六章 ⑬

文字数 2,094文字

私は、静かに、立ち上がりました。
どこでどう生きているのか全く知らない、
もしかしたら、事故とかで既に死んでいる
可能性もある、世界の敵・平戸に、
生きてるなら復讐をすると、心に、
誓いました。
優しい母、呪われた父と呪われた平戸への
復讐を私のために断念した母は、
おそらくこれを望まないだろうと
思いました。
でも、私に残された道は、復讐でした、
女の敵平戸への。


すぐに、紙とペンを引っ張り出して来て、
書きなぐりました。

平戸に復讐する!!

そう書きました。
私は、ハッとしました。
明らかに今までの私の字体と、違うのです。
怒りが込められた字体。
「そうよ。怒りなさい。もっと怒り、怒って
怒り続けなさい!!」と唱えながら、
さらに書きました。

毒殺、または、自殺に見せかけて殺す、
刺殺……、とにかく、どんどん復讐の
方法を書き出しました。
電車を待っている平戸を後ろから
突き落とすとか、いろいろ考えました。
結果、刺殺だと判断しました。
ナイフでも包丁でも、とにかく購入して
おいて、平戸を見つけ出し、見つけ次第、
夜道に平戸を襲って、一気に刺す!
あとは、捕まろうが、逃げ切れようが
どうでも良い、そう思いました、本当に。


スーと静かに息を吐きます。
何か新しいエネルギーが内から、グツグツ
生まれてくるのを感じました。
マグマのように燃え盛る怒りなどの
強いエネルギーが!!!

私は、フッと思いましたね。
「私が男だったなら!!
そして、平戸が女だったら!!!
夜、平戸を後ろから襲って、レイプして、
散々辱めてやれたのに!!!
そうしたら、平戸は一生、母と同じ
苦しみを味わって生きていくことになる
のに!!
刺し殺すより、レイプの方が断然、
復讐としては最適だったのに……」と。

そう考えている自分が、自分で恐ろしく
なりました。
今まで、こんなこと一ミリも考えたことも
なかった、人を殺すなんて、
考えもしなかった、ただただ、
グランドスタッフを目指して、
一心不乱に勉強に励み、真面目に生きて
きた自分はもういなんだと、分かりました。

「それで良いの。それで良いんだっ!」と
自分に、奥中真子に、言い聞かせました。


私の生きる道は、決まりました。
私は、グランドスタッフの夢を破り捨て
去りました。

「年齢から言えば、普通なら、平戸のクソは
生きている。絶対に、生きていて頂戴!」と
考えながら、英語の教材をかき集めます。
捨てるために!
たとえ、平戸が死んでいたとしても、
自分はもうグランドスタッフになっては
いけないと、自分に言い聞かせました。
母は、父ゆえに、看護師への道を
奪われました!
ならば、私だけが、『自分の夢』を
追ってはいけない、強姦犯の娘として、
自分も『自分の夢』を諦めて、
復讐に生きる。
決めたのです。仮に、平戸がもう死んで
いたとしても、グランドスタッフへの道は
絶つと……。
私は、こう決めて、英語の教材や
将来のために揃えた資料を整理しました。


教材や資料を梱包し、いつでも捨てること
のできるようにした上で、私は記憶力を
全力で働かせて、あの母の手紙の内容を
思い出しました。
そして、計算して、平戸についての情報を
書き出しました。

母が犯されたのは、15、6年前の夏という
計算。
当時、平戸は高校生だった。
仮に、16歳から18歳の何歳だったと
しても、今は30代前半か30代半ば。


「普通なら、生きているわね。
社会人か何かやってるはず……」と
思いました。

続けて書きました。

名前、平戸
性別、男
15、6年前に川崎市にいた

私は、「少なっ!!」と声に出しました。
ペンを投げ出しました!
あまりにも、平戸の情報が少なすぎました。
見つけるのは、至難の業だと思いました。
見つけ出すのに一体何年かかるのか、
と思いました。

でも、母が犯されたあの頃とは、違います。
今は、電話もコンピューターもあります。

「真子!へこたれるな!!諦めるな!!
これは、私が命をかけて、絶対に、
成し遂げなければならない、
弔い合戦なのよ!」と、私は、自分を
奮い立たせました。

私は、コンピューターの電源を
入れました。
起動するまでの間、静かに、画面を眺め、
考えました。

クソ平戸を見つけ出して、後ろから
刺して、母が断念した、復讐を果たそう。
そして、その後は……。

「どうしよう?」と思いました。
平戸を殺した後、どのように、生きるべき
なのか、答えが出ませんでした。
自首するか……。
逃げて、どっかで暮らすか……。
それとも、強姦犯の娘としての苦悩から
楽になるため、自分も死ぬか……。

「それは、それで、平戸を殺してから
考えることにしよう」と、最後に決めました。

私は、打ち込みました。
【 川崎市  平戸 】と。
そして、検索しました。
ダメでした。
思った通りの検索結果でした。
しかし、「賽は投げられたのよ!」と、
私は心の中で叫び、奮い立ちました。


「とりあえず、今日は寝よう。
これから、長期戦になるんだから!」と、
私は自分の部屋に向かうことにしました。
でも、部屋に入る前に、母の遺影の前に
座りました。
母の遺影を見ながら、さらに強く復讐を
自分の心に、誓いました。
つめたい涙が、ツーと頬を流れて
いきました。
復讐鬼・奥中真子が、生れたのです。



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登場人物紹介


奥中(おくなか) 真子(まこ)のちに(養子縁組により)(やぎ)(ぬま) 真子のちに(結婚により)栄真子




 本書の主人公。小学校3年生のあの日 、学校のクラスメートや上級生、下級生の見ている前で、屈辱的な体験をしてしまう。その後不登校に。その記憶に苛まれながら過ごすことになる。青春時代は、母の想像を絶する黒歴史、苦悩を引継いでしまうことなる、悲しみ多き女性である。





(あし)() みどり



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメートであり、大親友。



しかし、小学校3年生のあの日 、学校の廊下を走る真子の足止めをし、真子が屈辱的な体験を味わうきっかけをつくってしまう。



その後、真子との関係は断絶する。










(よし)(とき)



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメート。葦田みどりの幼馴染。



小学校3年生のあの日 、学校の廊下で真子に屈辱的な体験をさせる張本人。











奥中(おくなか) 峯子(みねこ)



本書の主人公、真子の母。スーパーや郵便局で働きながら、女手ひとつで真子を育てる。誰にも言えない悲しみと痛みの歴史がある。








雪子(ゆきこ)



本書の主人公、真子の大伯母であり、真子の母奥中峯子の伯母。


愛媛県松山市在住。







銀髪で左目に眼帯をした男



本書の主人公、真子が学校の廊下で屈辱的な体験をするあの日 、真子たちの



住む町で交通事故死した身元不明の謎の男性。



所持品は腕時計、小銭、数枚の写真。










定美(さだみ)(通称『サダミン』)



本書の主人公、真子が初めて就職したスーパーの先輩。



優しく、世話好き。



だが、真子は「ウザ」と言うあだ名をつける。









不動刑事



本書の主人公、真子が身の危険を感じ、警察署に駆け込んだ際に、対応してくれた女刑事。



正義感に溢れ、真面目で、これと決めたら周囲を気にせず駆け抜けるタイプである。



あだ名は、『不動産』。警視庁阿佐ヶ谷中央警察署生活安全課巡査部長。
















平戸



本書の主人公、真子につきまとう男。



また、真子の母の人生にも大きく関わっていた。






愛川のり子



子役モデル出身の国民的大女優。



〔あいのん〕の愛称で、幅広い世代から人気。



映画、テレビ、雑誌などで大活躍中。







石出(いしで) 生男(いくお)



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメートであり、幼馴染。小学校3年生のあの日 、真子を裏切る。




(やぎ)(ぬま) 真子のちに(結婚により)(さかえ) 真子



 本書の主人公。旧姓は、奥中。



小学校3年生の時、学校中の見ている前で屈辱的体験をし、不登校に。



その後は、まさに人生は転落、夜の世界へと流れていく。



だが、22歳の時小学時代の同級生二人と再会し、和解。回復への一歩を歩みだす。

(さかえ)(よし)(とき)



本書の主人公、真子が小学校3年生の時、屈辱的体験をさせた張本人。



そして、真子が22歳の時、男に追われているところを助けた人物でもある。



その後、真子の人生に大きく関わり、味方、何より人生の伴侶となる。

柳沼雪子



本書の主人公、真子の大伯母。養子縁組により、真子の母となる。



夫は眼科医であったが、すでに他界。愛媛県松山市で一人暮らしをする愛の女性である。

定美(さだみ)(通称・『サダミン』)



本書の主人公、真子が大事にしているキーホルダーをプレゼントしてくれた女性。



真子が川崎市を飛び出して来てから長いこと音信不通だったが、思いもしないきっかけで、真子と再会することになる。

不動みどり



本書の主人公、真子が小学校3年生の時、屈辱的体験をするきっかけを作ってしまう。



そして、真子が22歳の時、再会。つきまとい行為を続ける男から真子を助ける。



旧姓は、葦田。警視庁阿佐ヶ谷中央警察署生活安全課・巡査部長。

都和(とわ)



明慈大学理工学部で学んでいた女性。DVによる妊娠、恋人の自殺、大学中退……と、真子のように転落人生を歩みかけるが、寸前を真子に助けられる。

愛川のり子



〔あいのん〕の愛称で、幅広い世代から人気。



映画、テレビ、雑誌、海外でのドラマ出演など活躍の場を広げる国民的大女優である一方、息子の『いじめ報道』に心を痛め、また後悔する母親。



本名は、哀川憲子。

()(おり)



結婚した真子の義姉となる女性。



真子との初対面時は、性格上、真子を嫌っていたが、



後には、真子と大の仲良し、何でも言い合える仲になる。



名家の出身。



 

石出(いしで) 生男(いくお)



本書の主人公、真子を裏切った人物。



真子が小学時代の同級生二人と再会し、和解した夜に自殺。



第二巻では、彼の娘の名前が明かされる。

新名 志与


旧姓、長谷島。

第一章では、主人公に、『しーちゃん』と呼ばれている。

夜の世界で働いていた真子にとって、唯一の親友と

呼べる存在、姉的存在だった…。


ある出来事をきっかけに、真子と再会する(第二章)


小羽


 真子の中学生時代(奈良校)の同級生だったが…。


第二章で登場する時には、医療従事者になっている。

居村


 義時と真子が結婚式を挙げるホテルの担当者。

ブライダル事業部所属、入社3年目の若手。

 

真子曰く、未婚、彼氏募集中。

不動刑事


主人公の親友である不動みどりの夫。


石出生男の自殺現場に出動した刑事課員の1人。



最愛の妻、同じ署に勤務する警官のみどりが、

自分に隠れ、長年自宅に『クスリ』を保管、しかも、

所持だけではなく、使用していた事実を知った

彼は……。

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