第十五章 ㉕
文字数 1,742文字
包み込みます。
警察官のみどりちゃんなら……と
一瞬考えました。
でも、です。法に疎い私だって、すぐに、
思い当たります。
警察は、民事不介入ですし、都和ちゃん
の今の状況では、警察が動ける訳がない
のです。
仮に、死んだクソのことで、今から
訴え出たところで、被疑者死亡で、
全てが終わってしまいます。
何の解決にもならないわけです。
今の、都和ちゃんに、必要なのは、
警察ではない……、というより、警察は、
今の都和ちゃんを助けることはできない
のです。
だから、みどりちゃんに声をかける
ことは、やめました。
だって、私人であるみどりちゃんにで
なくて、刑事であるみどりちゃんに、
声をかけるなら、彼女を苦しめること
になってしまう、からです。
さらに、重苦しい雰囲気が部屋の中を
満たします。
みんな、考えてしまうことは同じだった
のでしょう。
だからこそ、1秒1秒、時が過ぎるごとに、
何とも言えない雰囲気に……。
私は、胸が締め付けられるような
感じでした。
だって、妊娠中の身です、彼女は。
でも……、いえ、だからこそ、お金が、
本当に必要……。
崖っぷちの若い女性である彼女が、
最終的に、どんなことを考え、決断する
のかは、簡単に想像できます。
しかも世の中には、愛も情けもない鬼畜
のような男が多いのです。
妊娠中の女性に興奮し襲い掛かるような
クソは少なくない……、いえ、かなり
いるのです。
【夜の仕事】をしていた頃、
「妊娠中の女と、今までに何度もな……。
もう、デキるって恐れがないからナマで
ヤりたい放題よ!」と自慢気に話してた
下衆野郎なんて、十指に余りますね。
それに、中にはいました。
2人か、3人ですけど。
「今、逆に、儲け時かな?
この身体に興奮する客も多いし、
今さら、避妊とか気にしないで良いから、
何でもアリで、いっぱい貰えるし……」
と言うようなことを平気で言う子も。
思い出したくもない記憶を思い出して
しまいます!
こんな【世の中の穢れた裏側】、
【男と女の醜悪な世界】、絶対に、
こしまちゃんとやよいちゃん……
女子大生達には、話せません。
刑事のみどりちゃんだけなら、打ち明けて、
ちょっとは楽になりたかったですけど、
まだ学生の2人がいましたから…。
でも……。
どれ位、沈黙が続いた後だったか。
みどりちゃんが、口を開いたのです、
突然。
「こしま……。
残念だけどさ、警察官のと今までの
経験値で言うとさ、その子……都和
ちゃんだっけ?
まず、間違いなくさ、このまま行ったら
夜の店とかでさ、働き出すね。
まぁ、私がさ、こんなん言ったらマズイ
けどさ、手っ取り早く大金になるからさ。
大体、今どきの子はさ、そういう感じ
になるんだよねぇ。
体を売り出してさ……。
こっちも取締ろうとしても限りがある
しさ、正直、イタチごっこなんだよね。
だからさ、その都和ちゃんて子もさ、
可哀そうだけど、もしかしたらさ、
もう今頃、ソープとかで、男の相手
してるかもしれないね……」。
正直、驚きました。
その可能性は大です、確かに。
でも、それを、都和ちゃんの親友、
しかも、二十歳とはいえ、まだ、子ども
の女子大生に言っちゃう……?!
絶対に、口が裂けても言えません、
私には……!!
で、案の定ですが、即、こしまちゃんが、
声を上げました。
アレは、いわゆる、金切り声。
「お姉ちゃんッ!!やめてよ!!
まだ何も分かんないし、それに、都和の
こと、お姉ちゃん、全然知らないのに……。
失礼じゃんッ!!!」。
暗闇の中ですが、こしまちゃんが、
バッと立ち上がって叫んでいるのが、
分かりました。
「こしま……」と、やよいちゃん。
「ごめん。一般論として言うつもり
だったんだけどさ」と、みどりちゃん。
でも、客観的に見ても、言い過ぎて
いましたね。
こしまちゃんも、「ごめん、お姉ちゃん。
ちょっと、興奮しすぎた」と。
そして、また、布団に……。
私は……。
何も言えませんでした。
どう、言葉を発したら良いのかが
分からなかったのです。
いろいろ、考えが頭中を駆け巡って。
だけど、確実に、芽生え出し、どんどん
強くなる思いが……!
それは、「何とかしてあげたい!」と言う
思いでした。
その顔も知らない都和ちゃんという女の子
のこと、他人事には思えなかった…。
どうしても、亡き母と重なってしまって
……。
(著作権は、篠原元にあります)