第十七章 ④
文字数 2,626文字
感情を見抜いたのか……。
おそらくは、見抜かれたのだと思う。
察しが良い彼女だから。
そうだとすれば……、そうなのだけれど、
おそらく。
彼女に、かなりの『決断』をさせたことに
なる。
そうだ。
彼女は、結婚式前の婚約者の身で、
普通なら告白しない、普通の女性なら
告白したくない『こと』を俺のために、
話てくれた……。
今思えば、酷なことをさせてしまったし、
あの時の自分は、ハッキリ言えば、
話を聞いた後も、半信半疑で、完全に
彼女を信じてやることができなかった。
多分、それも、彼女の事だから、
察していただろう。
でも…、真子は、黙って、その『事実』を
受け留めてくれた。
俺は、彼女の告白してくれた『真実』を
素直に、信じてあげられなかったのに
……。
だから、彼女には、一生をかけて
報いて行かないといけないと、思う。
義時は、思い出していた。
それは、結婚式の日程も正式に決まって、
ブライダル事業部の居村と、詳しい
打ち合わせも始まり……、そう、
その日は、2人で、ホテルで待ち合わせ、
居村の立ち合いのもと、
ウェディングドレスを選ぶ、そんな日
だった。
迷いに迷う彼女。
正直、義時は、「どれ着ても素敵だし、
似合うんだからさ。迷わないで、良い
んじゃない?」と思っていた。
が、言わなかった。
婚約者の真剣な表情と、それに付き添う
居村の姿を見ていると、言えない。
で、なんとか、ドレスが決まった。
真子は、本当に、満足していたが、
義時は、「こんなに時間かかるのか!?」
と内心思っていた。
そんな義時に「スゴイ良いお店が近くに
あるの見つけたの!」と言って、真子が
ホテル近くのカフェに連れて行った。
絶対に、男1人なら入らないと言うより、
入れない……そんな店。
何より、『こんな類の店』に義時は
入ったことがなかった。
真子に手を引かれ、店の中に入った。
想像した通り、半数以上の客は、女性。
店員も美人の女性ばかり。
男の客がいるとしたら、自分と同じく
『彼女』に連れて来られた感じのヤツら
ばっか……。
目が飛び出る程の『金額』のコーヒーや
紅茶……。
メニューを見て、義時は、目を疑った。
で、しばし、固まる。
そんな義時に、婚約者は言った。
「あ…。今日、ここは、私が持つからね」
真子は、いつも通り、コーヒー。
義時は、コーヒーや茶類が嫌いなので、
100%のアップルジュース。
注文後、つい、「高すぎだな……。
ジュース1杯で、牛丼3杯が食べれるわ」
と言ってしまったら、婚約者から睨まれた
……義時。
2人が、ある程度、飲んだ頃。
「あのさ……」と真子の方が話し出す。
「うん」
「こんなこと話すのも、あれなんだけど
……」
真子は、正直に、話した。
恥ずかしかった。
こんなこと話したくなかった。
でも、婚約者の態度、外での言動等から
総合的に推理、判断して、話しておいた
方が良いかな、と思った。
「でも……。思い過ごしで、私の間違い
だったら、スゴイ恥ずかしいな、これ……」
とも考えた。
だけど、もう、彼には、ほとんどのことを、
父と母のことも、『夜の仕事』のことも、
全部打ち明けている。
ここで、恥ずかしがる理由はない、そう、
判断して……。
真子は、話した。
自分が、『夜の世界』にいたことを知って
いる彼に。
「そうだけれど、私、男性の人と交際
するのは、あなたが初めてなの」と。
婚約者は驚いた表情をしていた。
真子は、話しながら、推測した。
この驚きは、①「何で、こんな話を
してくんの!?」というものなのか、
それとも、②「えッ!?マジか……」
なのか……。
ちょっと、そこまでは、さすがの真子でも
分からなかった。
そして……。葛藤しているはずの彼を、
『解放』してあげれる内容を…。
つまり、「私、『夜の仕事』をたしかに
していたけれど。そういうコトは、一回も
してないからね。って言うより、今まで
1度も男の人と関係持ったことないから」
と……。
そういう趣旨のことを、かなり勇気が
必要だったが、婚約者に、なんとか、
話し切った。
真子は、そして……。
「正解だった」と思った。
手ごたえを感じた。
驚いて、困惑しているような婚約者。
でも、明らかに、顔つきが変わっている。
それに、「話してくれて、ありがとう」
と言ってくれた。
駅で、彼と別れ、電車に揺られながら
真子は思った。
「やっぱり、モヤモヤしてたんだぁ。
話せて、本当に、良かった」
こっちも肩の荷が下りた感じだった。
義時は……。
帰り道、歩きながら、ドキドキしていた。
思いがけず、婚約者が、とんでもない、
スゴイ『告白』してきたから。
まぁ、日本人離れ……って言うか、
普通の人とは全く違う彼女は、
どう考えても普通なら『言わない』、
『隠す』、『黙っている』ようなことを
自分に、打ち明けてくれてきた。
その度に、正直なところ、驚愕だし、
胸が死ぬほど痛んだし、こっちも、
葛藤した、本当に……。
でも、それが、「彼女なりの愛の
表現。誠実な人格の現れなんだ」と、
ある時、分かった。
だから、ある程度、彼女の事を知り、
何を話されても動揺しない、受け留めて
あげれる……と思っていたのだけど。
さすがに、今日の『告白』は……。
度肝を抜かれた、良い意味で。
全く、予想もしなかった内容、そして、
タイミングだった。
だが、あれは……。
『未体験告白』で良いんだよな?
つまり、
「彼女は、まだ、男を知らない」…。
正直に言えば、嬉しい。
本当に、ホッとする。
ウリはしていないと分かっていたが、
まさか、交際相手もいなかったとは……!
素直に受け取れば、ガッツポーズものだ。
だが、どこかで、「本当か?」と
考えてしまう、自分もいた。
彼女がウソをついているはずないと
分かっているのに、そう、そんな人間
じゃないと分かっているのに、なぜか、
ちょっと疑ってしまう……。
そんな自分がイヤだ…。
でも、その日の夜には、男の1人暮らしの
部屋で、歓喜している、義時がいた。
今までの婚約者のことを考えれば……。
「わざわざ、あんなウソつく理由がない」
ストンと、きた。
「彼女は、純潔な身で嫁いできて
くれるんだ!!」
この上なく嬉しかった。
この上なく幸せだった。
一日も早く、彼女と一つになりたい。
一秒でも早く、彼女を思い切り、
抱きしめたい!!!
で、絶対、他のヤツらには、指一本も
彼女に触れさせまい、一生!!
(・著作権は、篠原元にあります
・今日も、読んでいただき、ありがとう
ございます!
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