第九章 ⑦

文字数 3,349文字

そんな孤立、孤軍奮闘の日々。
お店で、強く振舞い、悪口も妬みの視線も
無視するのが彼女の戦い方だったのです。
ですから、彼女の『素の顔』は、お店の
誰も知りませんでした。
私だけが知っている、『大事な秘密』
でした。


あの、しーちゃんとの休日に、もう一度
帰りたいと今でも思います。
楽しかった。
よく、食べた。
まだ、20代の私が言うのもなんですが、
やっぱり、あの頃は、若かったです!
一日に2杯ラーメンを食べても、
全然平気でした。




お店では見れない、しーちゃんの私服姿の
可愛さ!!
その彼女を独占できる、なんて幸せ……!
いつもと違い、化粧もうすくて、
ほんのりと香るシャンプーの匂い。
そんな彼女の隣にいれて、一緒に歩ける。
とにかく、本当に楽しい時間でした。


今やっているのか分かりませんが、
〔ラーメンくわい〕や〔天上無杯〕、
それから、〔高雄〕が、私たちの
お気に入りでした。
全部都内にあったお店です。
その中でも、特にお気に入りだったのが、
〔高雄〕の三重麺!!
味は味噌で、チャーシューとホルモンが
たっぷり入ってて、しかも背脂系、
それで、スープはどろどろ!!!
お店の床も脂で滑るほどでしたが、
あの頃の若い私たち二人は、脂だらけの
一杯を簡単に完食し、餃子やミニ丼も注文
していたのですから、自分たちの、あの頃の
大食いっぷりに、今さらながら、呆れます。



しーちゃんは……。
あっ、すみません。
しーちゃんの話が、長くなりますね。
でも、それ位、しーちゃんの存在は、
大きかったのです、あの頃の私にとって。
いいえ、今の私にとっても、そうです!
だから、まだ、話させてください、
しーちゃんとの想い出を。



姉も妹もなく、父もいない、一人っ子の
私は、小さな頃、「妹が欲しいなぁ」と
よく考えていました。
そして、何にも知らなかったものですから、
母のところに行って、
「ねぇ。妹が欲しいの!だから、今年中に
妹を産んでねっ!」と言って、母を
困らせていたものです。
今思えば、母はどんな心情だったことか…。
親として答えに困ったでしょうね。
そんな時、母が、幼い私に、どう答えて
くれたのかは憶えていないのですが、
きっと、はぐらかされたんでしょうね。

……当然、妹はやって来ませんでした。
そして、あの小学校での事件が起こり、
また、呪われた男・父のことを知って
しまうなどして、深みに深みに堕ちて
行く私……。


光のようなものを見いだせた気がしました。
突然、姉が、できたような気分でした。
だって、時には、叱ってくれましたから。
2人きりの時は、どっちかと言うと、
『甘えん坊さん』でしたが、でも、私には
姉のような、しーちゃんでした。
時に、ラーメンをおごってくれる時も、
ありました。
私が「しーちゃん。ありがと!今度は、
私が払うね」と言うと、決まって、
しーちゃんは、お姉ちゃんらしく、
「いいの、いいの。私の方が年上だし、
姉みたいなもんだから、たまには、
おごらせてよ!
マコッちは、妹みたいなもんなんだから、
気つかわないで良いよ!」と答てくれて
いました。
「あぁ、姉妹って、こんな感じなんだ
なぁ」と、しみじみ思って、幸福感に
浸ったものです、当時の私は。




しーちゃんの家のことを訊いたことが
あります。
彼女は、広島県の庄原と言う所で生まれ
ましたが、5歳の時に両親が離婚して
しまい、千葉県の父方の祖母に
引き取られて育ったそうです。
母に捨てられたと感じます。
忙しいお父さんは、一切関わってくれず、
寂しい幼少期を過ごし、私みたいに
ずっと、妹がほしいと、思っていたそう
です。




そんな、しーちゃんと私の『最高の想い出』
一番親密だった時の想い出……、そう、
『二人の最後の想い出』と言った方が良い
かもしれませんが、それが、二人での
北海道旅行でした。
たしか3日だったか、4日間だったかな。
私としーちゃんは、一緒にお店から
休みをもらって、出かけたのです。
定休日と祝日を入れたプランでしたが、
2人そろって、お休みを、連日です。
彼女は、№1人気嬢でしたから、多少無理を
言ってもオーナーは、大丈夫でした。
でも、それに続いて、私が……。
さすがに、すんなりとはいきません
でしたね。
それでも、しーちゃんが出て来てくれて、
何とかOKが出ました!



私たち2人、最高の関係だったと思います、
あの頃、あの時が。
別に、変な意味ではありませんし、
『女と女』という変な関係も一切ありません
でしたが、しーちゃんは、
「マコッち……。私ね、自分を大好きだけど、
それと同じほど、マコッちのことが、本当に
大好きだよ!」と言ってくれました、
空港で……。
そして、私も内心そう思ってました。
私だって、自分を愛するほどに、
しーちゃんのことが、大好きでした!
まさに、しーちゃんと私は『姉妹同然』で、
しーちゃんは、私を喜ばせてくれる人で、
そして、私はしーちゃんを、『男』共を
愛せない分、本当に愛していました…。


女二人旅は楽しかった、素晴らしかった、
の一言です!
プランは、ほとんど、しーちゃんが、
立ててくれました。
ラーメン大好きな二人の『女子旅』です!
そして、文学女子しーちゃんのプランの
旅行です!
札幌ラーメン、旭川ラーメンの名店巡り&
三浦綾子ゆかりの地巡りでした。



有名な潮狩峠にも行きましたし、
三浦綾子記念センターにも行きました。




あの時ほど、「免許持ってれば……!」と
思ったことはありません。
私もしーちゃんも車の免許を持って
いなかったのです!
しーちゃんは、「えぇ!マコッちは、
免許持ってると思ってたぁ!
そんな雰囲気してたのに……」と言って
いましたが、私も、「しーちゃんが、
車運転できて、レンタカーを借りて、
廻るんだろうなぁ」と考えていたのです。
でも、二人とも車は運転できない……。
なので、専らバスやタクシーで動きました。
そして、タクシー代は、決まって、
しーちゃんが毎回払ってくれました。
「毎回、しーちゃんじゃ悪いよ!
せめて、半額は出させてよ」と言う私に、
「いいの、いいの。年上だし、今回は、
こっちが誘って、マコッちに、ついて来て
もらってる感じだしさ……」と答えて
くれます。


3日目の朝です。
ホテルのバイキング会場で、しーちゃんに
「今日はね、スゴク良いところに、連れて
ってあげる」と言われました。
しーちゃんは、詳しくは教えてくれません
でしたが、「あのね、三浦綾子が、実際に
行ってた場所だよ」とだけ、教えてくれ
ました。
私は、どこだろうと考えながら、部屋に
戻り、しーちゃんと一緒に支度をして、
泊まっていたホテルを出ました。


そして、しーちゃんと私は、
バスを乗り継いで、ある素敵な建物に着き
ました。
そこは、教会でした。
しーちゃん曰く、「三浦綾子と旦那さんが、
通ってた教会だよ」。
私は、その教会の前で、雪子おばさんの
ことを思い出していました。
それから、何度か行ったことのある、
松山の教会のことも……。

私は尋ねました。
「それで、ここに来てどうすんの?
今日は、平日だから教会は、開いてない
でしょ」と。
すると、しーちゃんは、
「大丈夫!今日はね、平日の集会が
あるんだって。
私、一人じゃ教会なんて入りづらいし、
入ったこともないからさ、だから、
マコッちと一緒に来たの!
さ、入ってみようよ。
良い話しが聞けるかもしれないからさ!」
と言います。


まさか、キリスト教会の集会に、
北海道に来てまで参加するなんて考えても
いなかった私は、しーちゃんに押される
感じで、無理矢理その教会に入らされた
のです!

そして、集会に参加しました。
讃美歌を数曲歌い、牧師さんのお話が、
始まりました。
松山の教会の牧師さんを思い出しました。
「あぁ。あの先生のお話は、面白かった
なぁ。おやじギャグがいっぱいで」と。
北海道の牧師さんのお話は、私には、
難しく、眠たくてしょうがありませんで
したが、隣のしーちゃんをチラッと見て
みると、真剣な表情で話に聞き入って
いました。

教会から出たしーちゃんは、
「何か、心が洗われるねぇ!
こういう所に来て、神父さんの話を
聞くって良いね!」と、清々しい顔を
向けて言ってきましたが、私は、
「私は、眠かった」、「ここは、
カトリックじゃないから、牧師だよ」
と思いながらも、あえて何も言わず、
ただウンと頷きました。

ここで、結論を言いますね。
しーちゃんとの二人旅は、最高でした。
その日の夜までは……。



(著作権は、篠原元にあります)

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介


奥中(おくなか) 真子(まこ)のちに(養子縁組により)(やぎ)(ぬま) 真子のちに(結婚により)栄真子




 本書の主人公。小学校3年生のあの日 、学校のクラスメートや上級生、下級生の見ている前で、屈辱的な体験をしてしまう。その後不登校に。その記憶に苛まれながら過ごすことになる。青春時代は、母の想像を絶する黒歴史、苦悩を引継いでしまうことなる、悲しみ多き女性である。





(あし)() みどり



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメートであり、大親友。



しかし、小学校3年生のあの日 、学校の廊下を走る真子の足止めをし、真子が屈辱的な体験を味わうきっかけをつくってしまう。



その後、真子との関係は断絶する。










(よし)(とき)



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメート。葦田みどりの幼馴染。



小学校3年生のあの日 、学校の廊下で真子に屈辱的な体験をさせる張本人。











奥中(おくなか) 峯子(みねこ)



本書の主人公、真子の母。スーパーや郵便局で働きながら、女手ひとつで真子を育てる。誰にも言えない悲しみと痛みの歴史がある。








雪子(ゆきこ)



本書の主人公、真子の大伯母であり、真子の母奥中峯子の伯母。


愛媛県松山市在住。







銀髪で左目に眼帯をした男



本書の主人公、真子が学校の廊下で屈辱的な体験をするあの日 、真子たちの



住む町で交通事故死した身元不明の謎の男性。



所持品は腕時計、小銭、数枚の写真。










定美(さだみ)(通称『サダミン』)



本書の主人公、真子が初めて就職したスーパーの先輩。



優しく、世話好き。



だが、真子は「ウザ」と言うあだ名をつける。









不動刑事



本書の主人公、真子が身の危険を感じ、警察署に駆け込んだ際に、対応してくれた女刑事。



正義感に溢れ、真面目で、これと決めたら周囲を気にせず駆け抜けるタイプである。



あだ名は、『不動産』。警視庁阿佐ヶ谷中央警察署生活安全課巡査部長。
















平戸



本書の主人公、真子につきまとう男。



また、真子の母の人生にも大きく関わっていた。






愛川のり子



子役モデル出身の国民的大女優。



〔あいのん〕の愛称で、幅広い世代から人気。



映画、テレビ、雑誌などで大活躍中。







石出(いしで) 生男(いくお)



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメートであり、幼馴染。小学校3年生のあの日 、真子を裏切る。




(やぎ)(ぬま) 真子のちに(結婚により)(さかえ) 真子



 本書の主人公。旧姓は、奥中。



小学校3年生の時、学校中の見ている前で屈辱的体験をし、不登校に。



その後は、まさに人生は転落、夜の世界へと流れていく。



だが、22歳の時小学時代の同級生二人と再会し、和解。回復への一歩を歩みだす。

(さかえ)(よし)(とき)



本書の主人公、真子が小学校3年生の時、屈辱的体験をさせた張本人。



そして、真子が22歳の時、男に追われているところを助けた人物でもある。



その後、真子の人生に大きく関わり、味方、何より人生の伴侶となる。

柳沼雪子



本書の主人公、真子の大伯母。養子縁組により、真子の母となる。



夫は眼科医であったが、すでに他界。愛媛県松山市で一人暮らしをする愛の女性である。

定美(さだみ)(通称・『サダミン』)



本書の主人公、真子が大事にしているキーホルダーをプレゼントしてくれた女性。



真子が川崎市を飛び出して来てから長いこと音信不通だったが、思いもしないきっかけで、真子と再会することになる。

不動みどり



本書の主人公、真子が小学校3年生の時、屈辱的体験をするきっかけを作ってしまう。



そして、真子が22歳の時、再会。つきまとい行為を続ける男から真子を助ける。



旧姓は、葦田。警視庁阿佐ヶ谷中央警察署生活安全課・巡査部長。

都和(とわ)



明慈大学理工学部で学んでいた女性。DVによる妊娠、恋人の自殺、大学中退……と、真子のように転落人生を歩みかけるが、寸前を真子に助けられる。

愛川のり子



〔あいのん〕の愛称で、幅広い世代から人気。



映画、テレビ、雑誌、海外でのドラマ出演など活躍の場を広げる国民的大女優である一方、息子の『いじめ報道』に心を痛め、また後悔する母親。



本名は、哀川憲子。

()(おり)



結婚した真子の義姉となる女性。



真子との初対面時は、性格上、真子を嫌っていたが、



後には、真子と大の仲良し、何でも言い合える仲になる。



名家の出身。



 

石出(いしで) 生男(いくお)



本書の主人公、真子を裏切った人物。



真子が小学時代の同級生二人と再会し、和解した夜に自殺。



第二巻では、彼の娘の名前が明かされる。

新名 志与


旧姓、長谷島。

第一章では、主人公に、『しーちゃん』と呼ばれている。

夜の世界で働いていた真子にとって、唯一の親友と

呼べる存在、姉的存在だった…。


ある出来事をきっかけに、真子と再会する(第二章)


小羽


 真子の中学生時代(奈良校)の同級生だったが…。


第二章で登場する時には、医療従事者になっている。

居村


 義時と真子が結婚式を挙げるホテルの担当者。

ブライダル事業部所属、入社3年目の若手。

 

真子曰く、未婚、彼氏募集中。

不動刑事


主人公の親友である不動みどりの夫。


石出生男の自殺現場に出動した刑事課員の1人。



最愛の妻、同じ署に勤務する警官のみどりが、

自分に隠れ、長年自宅に『クスリ』を保管、しかも、

所持だけではなく、使用していた事実を知った

彼は……。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み