第十五章 ㉟
文字数 2,028文字
葦田こしま、丸瀬やよい……、そして、
明慈大学チアリーディング部部員たちが
協力して、性犯罪被害者・都和を助け出した
後の話・・・・・・。~
どん底に堕ちる寸前の都和を助けようと
真子が決心し、それに、みどり、こしま、
やよいも賛同した。
そして、真子が口座から引き出した大金
-世間一般で言う『大金』という額-は、
明慈大学チアリーディング部の部員たちが
都和のためにと、各々、学生なりに
必死に出し合った『カンパ』に混ぜられ、
こしまとやよいの手から、都和に渡った
のである。
・・・・・・
都和の住むボロアパートを訪ねた、
2人。
久しぶりに会う、都和は、本当に、
やつれていた。
2人とも、息をのんだ。
必死に、表情を変えまいと踏ん張る。
とても、自分たちと同じ年齢の女子
には見えなくなってしまった…、
元同級生の風貌、表情、身なり……。
胸が熱くなる。
かける言葉が見つからないとは、
こういうことを言うんだ、と2人は
同じことを思っていた……。
元同級生の葦田こしまと丸瀬やよい
から「これはね、都和のために、部長以下
部員全員も……、協力してくれてね、
集まったお金だよ。都和のこれからの為、
あと赤ちゃんのために使ってね」と
渡された分厚い茶封筒……。
そっと、中を覗き見て、驚く。
ハッとした。
「いくらあるの、これ……!?」。
思わず言ってしまう。
「ダメ!!こんなに、受け取れないよ!
みんなだって、勉強、部の活動、それと
バイトで大変な……」。
それを遮る、やよいの強い口調。
「都和ッ!!
何、言ってんのッ!!
みんなね、本当に、本当に、都和と
赤ちゃんのこと心配してて、必死に、
出し合ったんだよ!
部長も、先輩達もね、それに、1年や
2年の子たちも……、中には、『少ない
ですけど…』って泣きながらね。
その心を無駄にしちゃダメなんだよ」。
封筒を手に、泣き崩れる都和。
元同級生、元下級生、元上級生、
そして、厳しくも優しかった部長の笑顔
が胸に迫って……!
こしまとやよいは、寒すぎる部屋、
質素すぎる部屋、とても、同年代の女子の
部屋とは思えない空間……で、
床に蹲って泣き続ける、親友・都和の背中
をさすり続けた。
交互に……。
一方が、さすっている時、もう1人は、
部屋を見渡してみる。
胸が痛む。
つい最近まで、自分たちと一緒の学び舎
で学んでいた元同級生の、あまりにも
倹約過剰な暮しぶり、が分かる…。
ボロく汚い座卓の上には、風俗系の
仕事の求人誌が……。
そして、多くのページが折られている…。
この次の日、都和は完全に征服され、
堕ちるはずだった、夜の世界、夜の勢力に
……。
だが、それが一変して、都和を愛する
者達によって、都和に久しぶりの平安と
休息がやってきたのである。
・・・・・・・
それから、しばらくした、ある日。
真子とみどりは、羽田空港にいた…。
初の『女子二人旅』に出かけるために。
行先は、愛媛県松山市だ。
四月になったばかり。
桜が美しい季節。
真子は、あえて、この時期を選んだ。
いや、どうしても、この時期でないとだめ
なのだ。
この季節に、松山市に、みどりと一緒に
行くことに大きな意味がある……。
だが、みどりは、警視庁の警察署に勤務
する刑事。
そして、真子もバイトがあるし、式の準備で
多忙。
それでも、後のばしにする理由にはならない
と思った。
「どうしても、結婚前に、それに、春のこの
季節に、行きたい!」。
真子の熱心が、日帰り旅行という形では
あるにしても、『女子二人旅』を
実現させた。
保安検査場を通過して、搭乗口へと
向かう2人。
真子は、「やっぱりなぁ」と思っていた。
大阪の伊丹空港とかに行く便なら、
保安検査場を入ってすぐに搭乗口がある。
でも、松山行きの飛行機に乗る時は、
かなり歩くことになる。
もう慣れたけど……。
「でも……。こうやって、空港の中を、
みどりちゃんと一緒に歩けるんだから。
逆に、遠くて、良かったかな」と、
思い直した。
30分後……。
真子とみどりは、羽田空港発松山空港
行の朝一の便の乗客となっていた。
ちなみに、みどりのリュックの中には、
帰りの分の搭乗券2枚が入っている。
松山空港発羽田空港行の最終便の
チケットだ。
東京から、はるばる四国の松山まで
行って、その日のうちに帰ってくると
いう『弾丸スケジュール』……。
だが、二人とも、「問題なし」と考え
ていた。
ただ、興奮と期待、だ。
真子にとっては、久しぶりの松山だ。
そして、何よりも、雪子に会える!
みどりにとっても、特別な旅なのだ。
初四国!!
しかも、親友の真子が案内してくれる
と言う……。
事前に、ガイドブックを買って調べた。
坊ちゃん団子、タルト、ミカンジュース、
鯛めし……、美味しいモノだらけらしい。
それと……。
やっぱり、松山まで行くなら、絶対…。
みどりは、もう一度、真子に念を押す
ことにした。
「真子ちゃんっ!!
絶対にさ、道後温泉には行きたい!
これはさ、外せないよ!
お願いねッ」。
窓側に座っている親友は、優しい
笑みを見せて、頷いてくれた……。
(著作権は、篠原元にあります)