第8話 国内世論との戦い(その4)

文字数 1,614文字

(8)国内世論との戦い <続き>


 国王は俺の『国民向けコンドミニアム建設』に興味を持ったようだ。

 国民は「マイホームが高くて買えない!」と騒いでいるのだから、買えるマイホームを用意してやればいい。単純な発想だ。

 ファミリー向けのコンドミニアムを大量に建設するには、膨大な予算が必要だ。今回は幸いにも米ドルの売買で国家予算3.5年分の利益を稼いだから、資金面で心配する必要がない。
 それに、建設費はジャービス政府が一時的に支出するものの、国民がマイホームを購入する時に回収できる。
 だから、この住宅政策は理にかなっている、と俺は考えている。


 国王はしばらく考えてから呟いた。

「マイホーム取得に掛かるコストが不動産バブルの前と同じであれば、国民の不満は反らせるか・・・」

「そういうことです。ジャービス政府が供給するコンドミニアムは利益を乗せずに販売します。他の建設業者が販売するコンドミニアムよりも割安に買えます。マイホームを今までと同じように買えれば、ジャービス国民にとって『マイホームが買えない問題』は解消されます」俺は国王に説明した。

「そうだな、マイホーム問題が解決すれば、金融緩和政策に対する世論の反発はなくなるな」
 国王は対応方針が見つかって安心したようだ。

「あと、住宅開発をしたらジャービス国内の建設関係の雇用も創出できますよ」と俺は補足した。

「なるほどなー。補助金に使わなかった金を、住宅供給にばら撒くのかー」とチャールズが言った。

 棘のある言い方だ。
 チャールズは俺の案に嫉妬しているのだろう。
 俺は大人の余裕を見せつつチャールズに言った。

「言い方に棘がありますけど・・・まあ、そういうことです。世論はこの政策を喜ぶと思いますよ」

「ところでさー、マイホーム以外の不動産はどうするんだ?」とチャールズが俺に質問した。

 実際の金融政策を実行するのはチャールズだから、投資用不動産の価格高騰も気になるのだろう。
 でも、俺はマイホーム以外の不動産は対応するつもりはない。
 投機目的で不動産投資をしている奴らを、ジャービス政府がわざわざ救う必要がない、と俺は思っているからだ。

 俺はチャールズの質問に答えた。

「投資用不動産については対応する必要はないでしょう。投資用不動産の価格をジャービス政府が動いて引下げる必要はありません。どうせ、利上げすれば不動産価格は下がりますから。それに、投機目的で不動産投資をしている人たちを、政府が助ける必要はないでしょう?」

「まあ、そうだな」
 チャールズも納得したようだ。

 出席者の顔を見渡してみたが、特に反対している様子はない。
 今後の方針が決まったから、国王はチャールズに指示した。

「チャールズ、早速この住宅供給政策を発表してくれ。そうすれば、マイホームを買えない国民の不満を解消できるだろう」


 後日、『マイホームが高くて買えない問題』を解決するために、内務省から住宅供給政策が発表された。

 ***

 ジャービス政府が住宅供給政策を発表したことによって、マイホームを買えなかった国民の不満は払拭できた。
 ただ予想外だったのは、政府が販売するコンドミニアムの人気が爆発したことだ。

 政府が販売するコンドミニアムは利益を乗せないから、市場に出回っている不動産よりも明らかに安い。
 ジャービス政府が販売するコンドミニアムの人気はすごかった。
 購入するためには数十倍の抽選に勝たないといけないのだ。

 この状況を見たマスコミは、面白おかしく報道した。

“今日も抽選にチャレンジする○○家”

“抽選に受かるため必勝法!”

”抽選に当たる御利益神社ランキング!”

 当選して喜ぶ家族、落選して落ち込む家族。一つの家族が当選するまでの過程を描いたドキュメンタリーも放送された。
 放送されたドキュメンタリーを俺も見たが、なかなかシュールな内容で面白かった。

―― マイホームにはドラマがある!

 俺はそう思った。

<続く>
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登場人物紹介

ダニエル:ジャービス王国の第4王子。総務大臣。

ルイーズ:総務省 内部調査部 課長代理

ジェームス:ジャービス王国第1王子。軍本部 総司令

チャールズ:ジャービス王国の第2王子。内務大臣。

アンドリュー:ジャービス王国の第3王子。外務大臣。

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