第8話 IFAに聞いてみよう(その4)
文字数 1,779文字
(8) IFAに聞いてみよう<続き>
「だから、買って欲しいとお願いされた劣後社債は全部買取りました」とエマは言った。
「それで、劣後社債の買取りを続けたわけですね」
「そうです。買取った劣後社債を運用会社経由で発行会社に買取請求して、借入金を返済して、また買取って。そんなことを繰り返していると、ある時、運用会社から買取請求を少し待ってほしいと言われました」
「それはいつですか?」
「今から2カ月前です。買取った劣後社債が全て発行会社に引き取ってもらえることを前提に銀行から借入していたので、目の前が真っ暗になったのを覚えています」
「私も、気が気じゃなかった。個人で10億JDも払えるわけがない」とミアも言った。
「しばらくすると、劣後社債の利払いが止まって、ますます社債の買取り依頼が増えました。そうすると、社債保有者がパニックになって・・・・。額面の50%でも40%でもいいから買取ってほしい、と言ってくるようになりました」とエマは話を続けた。
「銀行の取り付け騒ぎ、みたいですね」と俺は素直な感想をエマに伝えた。
「そうです。こうなると、パニック売りは止められません。私たちは、少しでもパニック売りを抑えるために、銀行借入を増やして、社債保有者からできる限り買取ろうと頑張りました」
「返せないかもしれない借金が増えますよね?」と俺はエマに聞いた。
「私にはすでに10億JDの借入があったので、数億JDの借金が増えても、誤差みたいなものです」
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円としています。
「パニックは収まったのですか?」と俺はエマに聞いた。
「少しは。私たちが、社債を買取ってくれることが分かったから、安心したのだと思います。でも私たちは、発行会社に買取ってもらえない劣後社債と多額の借入金を抱えてしまいました・・・」
「これからどうするつもりですか?」と俺はエマに聞いた。
「どうすればいいか、教えて欲しいのは私たちです」とエマは言った。
気持ちは分かるが、残念ながら俺には解決策が思い付かない。
俺が黙っていると、エマは話を続けた。
「借入金の返済期日も迫ってきています。昨日も自己破産するかどうかを、IFA仲間と相談していました。良かれと思って劣後社債を買い取ってきましたが、そろそろ潮時でしょう・・・」
エマは言うと、泣きそうな顔になった。これ以上は話ができそうにない。
「これが何かの罪になるのでしょうか?」エマの状況を察したソフィアが代わりに質問した。
劣後社債を買取ってくれと頼まれ、いつの間にか10億JD以上の借金を背負ってしまったIFAの3人。俺はこの3人に同情している。
違法性はなさそうだと俺が思っていると、ルイーズが質問した。
「群衆を扇動して、今回の騒ぎを起こしたのですか?」
人の心が感じられない質問だ・・・。
俺は『このタイミングでよく聞けるな』と思ったものの、調査では同情は禁物だ。
「扇動なんてしていません。人助けだと思って、劣後社債を買取っていただけです」とソフィアは答えた。
「事情は分かりました。こちらでも事実関係を改めて調査したうえで、今回の件を検討します」とルイーズが言うとIFAの3人は会議室を出て行った。
エマたち3人の後ろ姿は、お世辞にも楽しそうには見えなかった。
***
俺たちはIFAの3人から買取請求の状況を聞くことができた。
IFAの話からは、IFAは犯人ではなさそうだし、『IFAの裏にいる誰か』もいなさそうだ。
でも、性悪説に立つと、IFAの3人が嘘をついている可能性を検討する必要がある。
泣き落しで誤魔化せると思ったかもしれないし、とぼければやり過ごせると思ったかもしれない。
心の中ではIFAの3人は不幸な被害者と思いたいのだが、裏を取らないといけない。
俺は会議室から内部調査部に戻る途中、ルイーズに話しかけた。
「あの3人、嘘をついていると思う?」
「そうは見えなかった。だけど、劣後社債を売却した人に何人か面談して、確認しないと分からない。私たちの予想は、だいたい外れるみたいだから」
そうだ。俺たちの推理は当たらない。
俺の探偵としての推理が悪い訳ではなく、真実が推理の斜め上を行くからだ。
「そうだね。悪い人たちではなさそうだったから、何とかしてあげたいね」と俺は言った。
「だから、買って欲しいとお願いされた劣後社債は全部買取りました」とエマは言った。
「それで、劣後社債の買取りを続けたわけですね」
「そうです。買取った劣後社債を運用会社経由で発行会社に買取請求して、借入金を返済して、また買取って。そんなことを繰り返していると、ある時、運用会社から買取請求を少し待ってほしいと言われました」
「それはいつですか?」
「今から2カ月前です。買取った劣後社債が全て発行会社に引き取ってもらえることを前提に銀行から借入していたので、目の前が真っ暗になったのを覚えています」
「私も、気が気じゃなかった。個人で10億JDも払えるわけがない」とミアも言った。
「しばらくすると、劣後社債の利払いが止まって、ますます社債の買取り依頼が増えました。そうすると、社債保有者がパニックになって・・・・。額面の50%でも40%でもいいから買取ってほしい、と言ってくるようになりました」とエマは話を続けた。
「銀行の取り付け騒ぎ、みたいですね」と俺は素直な感想をエマに伝えた。
「そうです。こうなると、パニック売りは止められません。私たちは、少しでもパニック売りを抑えるために、銀行借入を増やして、社債保有者からできる限り買取ろうと頑張りました」
「返せないかもしれない借金が増えますよね?」と俺はエマに聞いた。
「私にはすでに10億JDの借入があったので、数億JDの借金が増えても、誤差みたいなものです」
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円としています。
「パニックは収まったのですか?」と俺はエマに聞いた。
「少しは。私たちが、社債を買取ってくれることが分かったから、安心したのだと思います。でも私たちは、発行会社に買取ってもらえない劣後社債と多額の借入金を抱えてしまいました・・・」
「これからどうするつもりですか?」と俺はエマに聞いた。
「どうすればいいか、教えて欲しいのは私たちです」とエマは言った。
気持ちは分かるが、残念ながら俺には解決策が思い付かない。
俺が黙っていると、エマは話を続けた。
「借入金の返済期日も迫ってきています。昨日も自己破産するかどうかを、IFA仲間と相談していました。良かれと思って劣後社債を買い取ってきましたが、そろそろ潮時でしょう・・・」
エマは言うと、泣きそうな顔になった。これ以上は話ができそうにない。
「これが何かの罪になるのでしょうか?」エマの状況を察したソフィアが代わりに質問した。
劣後社債を買取ってくれと頼まれ、いつの間にか10億JD以上の借金を背負ってしまったIFAの3人。俺はこの3人に同情している。
違法性はなさそうだと俺が思っていると、ルイーズが質問した。
「群衆を扇動して、今回の騒ぎを起こしたのですか?」
人の心が感じられない質問だ・・・。
俺は『このタイミングでよく聞けるな』と思ったものの、調査では同情は禁物だ。
「扇動なんてしていません。人助けだと思って、劣後社債を買取っていただけです」とソフィアは答えた。
「事情は分かりました。こちらでも事実関係を改めて調査したうえで、今回の件を検討します」とルイーズが言うとIFAの3人は会議室を出て行った。
エマたち3人の後ろ姿は、お世辞にも楽しそうには見えなかった。
***
俺たちはIFAの3人から買取請求の状況を聞くことができた。
IFAの話からは、IFAは犯人ではなさそうだし、『IFAの裏にいる誰か』もいなさそうだ。
でも、性悪説に立つと、IFAの3人が嘘をついている可能性を検討する必要がある。
泣き落しで誤魔化せると思ったかもしれないし、とぼければやり過ごせると思ったかもしれない。
心の中ではIFAの3人は不幸な被害者と思いたいのだが、裏を取らないといけない。
俺は会議室から内部調査部に戻る途中、ルイーズに話しかけた。
「あの3人、嘘をついていると思う?」
「そうは見えなかった。だけど、劣後社債を売却した人に何人か面談して、確認しないと分からない。私たちの予想は、だいたい外れるみたいだから」
そうだ。俺たちの推理は当たらない。
俺の探偵としての推理が悪い訳ではなく、真実が推理の斜め上を行くからだ。
「そうだね。悪い人たちではなさそうだったから、何とかしてあげたいね」と俺は言った。