第4話 底地ファンドを調査しろ(その2)

文字数 1,592文字

(4)底地ファンドを調査しろ <続き>

 俺はミアから受け取ったMJの社債の発行要項を見ている。

 社債の発行要項には、社債発行会社(MJ)が借地権者から受取る地代、借地権者への土地売却収入から固定資産税を控除した物件純収益が表示されている。MJはこの物件純収益をもとにして社債利息、元本償還を行うようだ(図表10-11)。


【図表10-11:底地ファンドのキャッシュ・フロー(単位:百万JD)】

 

※パススルー(構成員課税)を採用しているため法人税等は発生しないものとします。
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。

 年間の受取地代6,000万JD、固定資産税2,000万JDであるから、経常的に年間4,000万JDの純収益がある。社債元本3億JDに関しては、償還原資を底地の売却代金から賄うことを予定している。

 キャッシュ・フローには余裕がありそうだから、社債を購入した投資家への利払いは問題なさそうだ。社債元本の支払いは底地が売却できるかどうかによるが、更地価格10億JDの土地を底地価格3億JDで購入しているのだから、何とかなりそうだ。もっと言うと、MJは底地を法外な金額で借地権者に売却しなくても、社債元本分を回収できるはずだ。

 社債の発行要項を見る限り、MJは無茶苦茶な資金調達をしているわけではなさそうだ。個人投資家に被害が出る可能性はそれほど高くない、と俺は考えた。

―― 底地の売却価格以外は普通だな・・・

 ジョーダンとマイケルのスキームは基本的に違法性がない。
 前回の太陽光発電施設のオペレーティング・リースはリース料が相場の数倍高かっただけだ。今回の底地についても、売却価格が相場の数倍高いだけだ。

 俺はジョーダンとマイケルの『カモれるところから金を取ろう!戦略』を理解した。


***

 総務省に戻った俺は、今回の件をどう進めるべきかについて考えている。

 相続税対策で不動産会社の節税スキームに引っかかったロバートたち元地主、地主であるMJと揉めたエドガーたち借地権者。

 まず、ジャービス王国としては、相続税対策で失敗した富裕層(地主または元地主)については考慮しなくてもいいだろう。言い方は悪いのだが、不動産会社の節税スキームに引っかかったのだから自業自得だ。
 次に、MJが法外な金額で底地を借地権者に売却しようとしている。この問題は極論すれば売買価格の交渉、つまり当事者間の問題だ。ジャービス王国として対応する必要があるのだろうか?

 俺はそれぞれの立場で考えてみた。

・借地権者は地主が譲渡承諾しないリスクを抱えている
・地主は借地権者に対して土地を返すか、底地を買取ってほしいと考えている

 まず、借地権付区分所有建物の方が完全所有権の区分所有建物よりも安い。だから、エドガーのような借地権者がコンドミニアムの購入を検討する際には、『相場より安いのだから何か理由があるのでは?』と考えるのが自然だ。つまり、借地権者はコンドミニアムを購入する時に『地主が譲渡承諾しないリスク』を検討したはず。
『地主が譲渡承諾しないリスク』を理解した上でコンドミニアムを購入したのであれば、コンドミニアムの売却時に地主が譲渡承諾しないことを許容できるのではないか?

 また、地主が譲渡承諾をしない場合でも、借地権者が地主に対して底地を買取る交渉は可能だ。コンドミニアムの売却時に底地の譲渡価格が適正であれば、借地権者は底地を買ってもいいと思うだろう。底地の購入代金はコンドミニアムの売却代金から支払えばいいから、金銭的な負担は必ずしも重くないはずだ。
 借地権者の誤算は、MJが法外な金額で底地を売却しようとしていることだ。ただ、この問題も当事者間で価格交渉すれば何とかなりそうな気がする。

―― 民事不介入でいいんじゃないか?

 俺はそう思った。


<続く>
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登場人物紹介

ダニエル:ジャービス王国の第4王子。総務大臣。

ルイーズ:総務省 内部調査部 課長代理

ジェームス:ジャービス王国第1王子。軍本部 総司令

チャールズ:ジャービス王国の第2王子。内務大臣。

アンドリュー:ジャービス王国の第3王子。外務大臣。

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