第1話 来期予算を巡る攻防(その1)
文字数 1,348文字
俺の名前はダニエル。ジャービス王国という小さな国の第4王子だ。
第4王子という中途半端な立ち位置なので、俺はジャービス王国で起こった経済事件を解決する探偵をしている。
本当は内部調査部の部長なのだが、モチベーションを保つために、勝手に探偵という設定にしている。
ちなみに、俺の今までの戦歴は2勝0敗1分だ。
推理はなかなか当たらないのだが、事件はほぼ解決している。
だから、『探偵として実績は上げている』と言っても問題ないだろう。
それに俺は探偵としての目標を毛利小五郎先生にすることにした。
毛利先生は凡人なのに名探偵の地位と名声を持っている。
俺が推測するに、毛利先生が持っているのは名探偵の能力ではなく、自分を名探偵と周囲に認識させる能力だと思う。
つまり、『名探偵か否か』は周りが『名探偵だと感じるか否か』だ。
だから俺自身は探偵ではあるものの本当の名探偵を目指さないことにした。
これで少しはプレッシャーから解放されるはずだ。
(1)来期予算を巡る攻防
劣後社債の買取りを開始してから3カ月が経過したころ、国王が俺たち兄弟を召集した。毎年恒例の国家予算の決定会議だ。
ジャービス王国の国家予算は、来期の歳入と歳出を予想して、来期予算を決定する。
国家予算の作成は内務省の担当だ。会議がスタートすると第2王子のチャールズ(内務大臣)が説明を始めた。
「来年度の歳入に関しては、総額が1,040億JDで、前年度比4%の増額を見込んでいます。内訳としては、税収が700億JD、国有地などの賃貸収入が300億JDです。この2つは前年度と同じ金額を見込んでいます。40億JDは投資利益によるもので、この部分が昨年度と比較した来年度の増加要因です」
※本書では、1JD(ジャービス・ドル)=1円に設定しています。
俺はぼーっとチャールズの話を聞いていた。来期予算には投資利益という新しい歳入項目が追加されているらしい。
『投資利益って何だろう?』と俺が思っていると、他の出席者も同じように思っていたようだ。
「投資利益とは具体的に、どういう内容なのか?」と国王がチャールズに質問した。
「投資利益ですね。ダニエルの内部調査部で銅や劣後社債の取引をしているのは、国王もご存じだと思います」とチャールズは国王に言った。
「もちろん、知っておる。銅を海外から輸入する時も、劣後社債を買取る時も、ダニーが相談に来た」
「まさにそれです。内務省で計算したところ、内部調査部の年間収益は、銅取引が約12億JD、劣後社債が22億JDなので合計34億JDのようです」
「おー、そんなに儲かっているのか!」国王は嬉しそうに言った。
「だから、来期には年間収益40億JDは達成できると考えています」とチャールズは言った。
「そうか。ダニエルのところは来期40億JDも稼いでくるのかー」と国王は呑気に言った。
おいおい、ちょっと待て!
俺は何も聞いていない。
チャールズは俺に相談なしに、勝手に予算に組み込みやがった。
それに内部調査部は基本的にコストセンターだ。
収益予算を背負わされる謂(いわ)れはない。
それに、俺はやっと毛利先生から名探偵のコツを学んだところだ。
このまま押し切られると『探偵ごっこ』ができなくなる。
<続く>
第4王子という中途半端な立ち位置なので、俺はジャービス王国で起こった経済事件を解決する探偵をしている。
本当は内部調査部の部長なのだが、モチベーションを保つために、勝手に探偵という設定にしている。
ちなみに、俺の今までの戦歴は2勝0敗1分だ。
推理はなかなか当たらないのだが、事件はほぼ解決している。
だから、『探偵として実績は上げている』と言っても問題ないだろう。
それに俺は探偵としての目標を毛利小五郎先生にすることにした。
毛利先生は凡人なのに名探偵の地位と名声を持っている。
俺が推測するに、毛利先生が持っているのは名探偵の能力ではなく、自分を名探偵と周囲に認識させる能力だと思う。
つまり、『名探偵か否か』は周りが『名探偵だと感じるか否か』だ。
だから俺自身は探偵ではあるものの本当の名探偵を目指さないことにした。
これで少しはプレッシャーから解放されるはずだ。
(1)来期予算を巡る攻防
劣後社債の買取りを開始してから3カ月が経過したころ、国王が俺たち兄弟を召集した。毎年恒例の国家予算の決定会議だ。
ジャービス王国の国家予算は、来期の歳入と歳出を予想して、来期予算を決定する。
国家予算の作成は内務省の担当だ。会議がスタートすると第2王子のチャールズ(内務大臣)が説明を始めた。
「来年度の歳入に関しては、総額が1,040億JDで、前年度比4%の増額を見込んでいます。内訳としては、税収が700億JD、国有地などの賃貸収入が300億JDです。この2つは前年度と同じ金額を見込んでいます。40億JDは投資利益によるもので、この部分が昨年度と比較した来年度の増加要因です」
※本書では、1JD(ジャービス・ドル)=1円に設定しています。
俺はぼーっとチャールズの話を聞いていた。来期予算には投資利益という新しい歳入項目が追加されているらしい。
『投資利益って何だろう?』と俺が思っていると、他の出席者も同じように思っていたようだ。
「投資利益とは具体的に、どういう内容なのか?」と国王がチャールズに質問した。
「投資利益ですね。ダニエルの内部調査部で銅や劣後社債の取引をしているのは、国王もご存じだと思います」とチャールズは国王に言った。
「もちろん、知っておる。銅を海外から輸入する時も、劣後社債を買取る時も、ダニーが相談に来た」
「まさにそれです。内務省で計算したところ、内部調査部の年間収益は、銅取引が約12億JD、劣後社債が22億JDなので合計34億JDのようです」
「おー、そんなに儲かっているのか!」国王は嬉しそうに言った。
「だから、来期には年間収益40億JDは達成できると考えています」とチャールズは言った。
「そうか。ダニエルのところは来期40億JDも稼いでくるのかー」と国王は呑気に言った。
おいおい、ちょっと待て!
俺は何も聞いていない。
チャールズは俺に相談なしに、勝手に予算に組み込みやがった。
それに内部調査部は基本的にコストセンターだ。
収益予算を背負わされる謂(いわ)れはない。
それに、俺はやっと毛利先生から名探偵のコツを学んだところだ。
このまま押し切られると『探偵ごっこ』ができなくなる。
<続く>