第1話 持ち込み企画(その1)
文字数 2,004文字
俺の名前はダニエル。ジャービス王国という小さな国の第4王子だ。
俺はジャービス王国で起こった事件を解決する探偵だ。
本当は内部調査部の部長なのだが、探偵の方がやる気が出る。
だから、そういう設定(探偵)にしている。
(1)持ち込み企画
その日は朝から内部調査部で会議があったので、俺は総務省に出勤するとそのまま内部調査部に直行した。
俺が内部調査部の部屋に入ると、ポールが「少しお時間ありますか?」と話しかけてきた。
この言い方をするポールを見て、俺は嫌な予感しかしなかった。
― ひょっとして転職を考えているのだろうか?
内部調査部の業務もやっと軌道に乗ってきたところなのに・・・。
もしポールが転職を希望していたら、俺は引き留めるべきだろうか?
それとも、本人の意志を尊重すべきだろうか?
俺がドキドキしながら内部調査部の小さな打合せスペースに座った。
まるで女子からの告白を校舎裏で待つ男子のように。
俺が座ると、ポールは姿勢を正して言った。
「部長はルイーズと付き合っているんですか?」
「は?」
転職の話だと思っていた俺はポールが何を言ったのか聞き取れなかった。
「だから、部長とルイーズは恋人なんですか?」
どうやら退職の話ではなさそうだ。
俺が周りを見渡したら内部調査部のメンバーが息を潜めて聞いている。
部屋の中を見渡すとルイーズがまだ来ていない。
だから、このタイミングでポールが聞いてきたのだろう。
俺は頭を整理して考えた。
冷静に考えると、退職の話をみんなが聞いているようなオープンスペースでするわけがない。
賭け事に負けて『2人が付き合っているのか聞いてこい!』ということだろう。
いわゆる罰ゲームだ。きっと。
「別に付き合ってないよ。どうして?」と俺はポールに聞いた。
「いえ。聞いてほしいと頼まれたんです。ちなみに、誰か付き合っている人はいますか?」
「今はいないけど、なんで?」
強がって『今は』と言ってしまったが、正確には『ここ10年くらいずっと』だ。
嘘を付いたわけじゃない。
これくらいの強がりは許されるはずだ。
「聞いてくれと頼まれたんです。じゃあ、どういう人が好きですか?」
なんだ? この中2のような質問は?
この展開は避けたいところだ。
ポールから延々と質問され続けて、俺が答え続けるとしよう。
すると、最終的に俺の性癖まで晒すことになりかねない。
どこかで終わらせなければ・・・
「難しいな・・・。価値観が合う、バランスが取れた普通の人がいい。ポールは?」
俺はポールが追加質問をしてくる可能性を考慮し、逆質問作戦に切り替えた。
「僕ですか? うーん、この年になって聞かれると答えるのが難しいですね」
「そうだろ? 答えるのが難しいだろ。中学生には即答できても、大人には難しい質問だ。そういえば、今日は内部調査部の案件持ち込み会議だったよね。みんな考えてきた?」
俺は強引に話題を変えた。
「もちろんです」とミゲルが反応した。
うまくミゲルを引き入れることができた。
この話題はこれで終了だ。
「どんな案件?」と俺がミゲルに聞いていたら、「もう始まった?」と言ってルイーズが部屋に入ってきた。
ルイーズが部屋にやってきたから、俺への質問は完全に終了した。
「まだだよ。ミゲルから提案があるみたいだから、聞こうとしていたところだ」と俺は軽快に答えた。
「そう。じゃあ、ミゲルから始めてもらうとして・・・。案件持ち込み会議を始める前に、これを1つずつ持ってほしい」
ルイーズはそう言って、プレートを内部調査部のメンバー全員に手渡した。
○と×が書いてある、クイズ番組に出てくるあれだ。
いつも通り親切心の欠片も無いルイーズから使い方の説明はない。
でも、提案に賛成の場合は○、反対の場合は×を上げろということなのは分かる。
念のために、内部調査部で持ち込み企画を開催することになった経緯を説明しておこう。
ジャービス国内企業で『企業内での不正はその企業で発見して処理しよう』という動きが出てきたからだ。
俺たちが不正融資の件を調査したときに、銀行内部で『なぜ先に発見できなかったのだ?』という意見が出た。部外者である内部調査部に不正を発見されるなんて、銀行の恥以外の何でもない。
この懸念(内部調査部に先に不正を発見されてしまうこと)は他の業界にも広がっていき、『内部調査部に不正を発見される前に、社内で不正を発見しよう!』という動きが活発化した。中には、内部告発ホットラインの賞金10万JDよりも高い賞金を出す会社も現れた。
このジャービス国内企業の動きが加速すると、内部告発ホットラインへの相談案件が減るかもしれない。
だから、自分たちで調査対象を持ち寄ろうということになった。
メンバー全員に〇×プレートが行き渡った。
俺は声高々に宣言した。
「第1回案件持ち込み会議を開催する!」
<続く>
俺はジャービス王国で起こった事件を解決する探偵だ。
本当は内部調査部の部長なのだが、探偵の方がやる気が出る。
だから、そういう設定(探偵)にしている。
(1)持ち込み企画
その日は朝から内部調査部で会議があったので、俺は総務省に出勤するとそのまま内部調査部に直行した。
俺が内部調査部の部屋に入ると、ポールが「少しお時間ありますか?」と話しかけてきた。
この言い方をするポールを見て、俺は嫌な予感しかしなかった。
― ひょっとして転職を考えているのだろうか?
内部調査部の業務もやっと軌道に乗ってきたところなのに・・・。
もしポールが転職を希望していたら、俺は引き留めるべきだろうか?
それとも、本人の意志を尊重すべきだろうか?
俺がドキドキしながら内部調査部の小さな打合せスペースに座った。
まるで女子からの告白を校舎裏で待つ男子のように。
俺が座ると、ポールは姿勢を正して言った。
「部長はルイーズと付き合っているんですか?」
「は?」
転職の話だと思っていた俺はポールが何を言ったのか聞き取れなかった。
「だから、部長とルイーズは恋人なんですか?」
どうやら退職の話ではなさそうだ。
俺が周りを見渡したら内部調査部のメンバーが息を潜めて聞いている。
部屋の中を見渡すとルイーズがまだ来ていない。
だから、このタイミングでポールが聞いてきたのだろう。
俺は頭を整理して考えた。
冷静に考えると、退職の話をみんなが聞いているようなオープンスペースでするわけがない。
賭け事に負けて『2人が付き合っているのか聞いてこい!』ということだろう。
いわゆる罰ゲームだ。きっと。
「別に付き合ってないよ。どうして?」と俺はポールに聞いた。
「いえ。聞いてほしいと頼まれたんです。ちなみに、誰か付き合っている人はいますか?」
「今はいないけど、なんで?」
強がって『今は』と言ってしまったが、正確には『ここ10年くらいずっと』だ。
嘘を付いたわけじゃない。
これくらいの強がりは許されるはずだ。
「聞いてくれと頼まれたんです。じゃあ、どういう人が好きですか?」
なんだ? この中2のような質問は?
この展開は避けたいところだ。
ポールから延々と質問され続けて、俺が答え続けるとしよう。
すると、最終的に俺の性癖まで晒すことになりかねない。
どこかで終わらせなければ・・・
「難しいな・・・。価値観が合う、バランスが取れた普通の人がいい。ポールは?」
俺はポールが追加質問をしてくる可能性を考慮し、逆質問作戦に切り替えた。
「僕ですか? うーん、この年になって聞かれると答えるのが難しいですね」
「そうだろ? 答えるのが難しいだろ。中学生には即答できても、大人には難しい質問だ。そういえば、今日は内部調査部の案件持ち込み会議だったよね。みんな考えてきた?」
俺は強引に話題を変えた。
「もちろんです」とミゲルが反応した。
うまくミゲルを引き入れることができた。
この話題はこれで終了だ。
「どんな案件?」と俺がミゲルに聞いていたら、「もう始まった?」と言ってルイーズが部屋に入ってきた。
ルイーズが部屋にやってきたから、俺への質問は完全に終了した。
「まだだよ。ミゲルから提案があるみたいだから、聞こうとしていたところだ」と俺は軽快に答えた。
「そう。じゃあ、ミゲルから始めてもらうとして・・・。案件持ち込み会議を始める前に、これを1つずつ持ってほしい」
ルイーズはそう言って、プレートを内部調査部のメンバー全員に手渡した。
○と×が書いてある、クイズ番組に出てくるあれだ。
いつも通り親切心の欠片も無いルイーズから使い方の説明はない。
でも、提案に賛成の場合は○、反対の場合は×を上げろということなのは分かる。
念のために、内部調査部で持ち込み企画を開催することになった経緯を説明しておこう。
ジャービス国内企業で『企業内での不正はその企業で発見して処理しよう』という動きが出てきたからだ。
俺たちが不正融資の件を調査したときに、銀行内部で『なぜ先に発見できなかったのだ?』という意見が出た。部外者である内部調査部に不正を発見されるなんて、銀行の恥以外の何でもない。
この懸念(内部調査部に先に不正を発見されてしまうこと)は他の業界にも広がっていき、『内部調査部に不正を発見される前に、社内で不正を発見しよう!』という動きが活発化した。中には、内部告発ホットラインの賞金10万JDよりも高い賞金を出す会社も現れた。
このジャービス国内企業の動きが加速すると、内部告発ホットラインへの相談案件が減るかもしれない。
だから、自分たちで調査対象を持ち寄ろうということになった。
メンバー全員に〇×プレートが行き渡った。
俺は声高々に宣言した。
「第1回案件持ち込み会議を開催する!」
<続く>