第2話 ALM(Asset Liability Management)(その2)
文字数 2,025文字
※本話に登場する金融機関は実際のものとは一切関係ありません。
(2)ALM(Asset Liability Management) <続き>
俺とミゲルの話は脱線してなかなか進まない。その俺たちの雑談を妨害するため、ルイーズの咳払いが聞こえた。
俺は、ルイーズがこの状況にイライラしていることを感じ取った。
「話を進めようか・・・。それで、内部調査部はこれからセレナ銀行の調査をすることになった」と俺は改めて言った。
ミゲルが絡むと話が進まないと勘づいたスミス。
本題に戻すためにスミスは俺に質問した。
「セレナ銀行の経営が悪化した理由はなんですか?」とスミスが俺に質問した。
「セレナ銀行は金融緩和のときに預金を大量に集めたんだけど、その運用に失敗したんだ」
「銀行のメイン業務は貸出です。セレナ銀行の不良債権が急に増加したのですか?」
「貸出関連資産は調べないと分からないけど、今回の経営悪化の直接の原因ではなさそうだ。チャールズから聞いたのは、金融緩和の時に大量に購入した外国債券と国内債券の含み損が原因らしい」
「あー、債券投資でしたか」
「金融緩和の時は政策金利を極端に低くしたから、急激なジャービス・ドル安(為替レートが高くなる)になったよね。その時に買った外債が、政策金利の上昇でジャービス・ドル高(為替レートが低くなる)になって、多額の為替差損が出たんだ」
※詳しくは『第7回活動報告:通貨危機を回避しろ』をご覧下さい。
「1米ドル=190JDから一気に1米ドル=110JDまで落ちましたからね。約40%の含み損ですか・・・」
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。
「ああ、悲惨だろ?」
「悲惨ですね。それに、国内債券も低金利の時に投資していたら、利上げで評価損が出ますね」とスミスが言った。
「そうなんだ。金余りの時にALMを考えずに債券投資をしまくったから、巨額の含み損が出ている」
※ALM(Asset Liability Management)とは、銀行等における資産と負債の管理方法です。市場金利に対する資産・負債の価値変動リスクなどを管理します。
「内務省は政策金利を変更するのを知っていたのに、銀行に通知しなかったんですか?」
「長期の債券投資を避けるように通知したらしいよ。でも、セレナ銀行は従わなかったからこういう事態になっている」
「それは何とも・・・」スミスは何とも言えない表情で言った。
「まあ、忠告を無視した銀行を救済するかどうかは、内務省の内部で議論になってるらしい」
「そうですか・・・。為替対応で政策金利が1%と4%を行ったり来たりしましたからね。そう言えば、米国のサンフランシスコの銀行もALMに問題があって経営破綻していましたね」
「そうそう。あれと同じだよ」
俺がそう言うと、ミゲルが思い出したように言った。
「あ、そういえば・・・・。セレナ銀行は、サンフランシスコの銀行を手本にしてベンチャー企業向けの融資をスタートしたと聞いたことがあります」
「じゃあ、経営破綻の原因も一緒なんだ」と俺は言った。
ミゲルが絡むと話が進まない。
だから、スミスが俺を本題に戻した。
「具体的には何を調査するんでしょうか?」
「チャールズが言うには、ジャービス政府として救済できる銀行と救済できない銀行を分けたいらしい。全ての銀行を救済できないからね。だから、俺たちの調査はセレナ銀行の財務内容の調査だね」
「セレナ銀行の財務内容の調査ですか・・・。壮大ですね」
「確かに、一から調査すると壮大だ。時間的にも間に合いそうにない。だから、ジャービス中央銀行の考査の結果を利用して、問題ある部分だけを調査しようと思う」
「考査の結果ですか?」
「ジャービス中央銀行は銀行に対して数年に一度の頻度で考査を実施している。前回の考査が1年前だから、今回の調査の参考にできると思うんだ」と俺は説明した。
「1年前であればジャービス中央銀行の考査結果を使えそうですね」
「だから、セレナ銀行の実地調査を行う前に、まずはジャービス中央銀行の考査の資料を開示してもらおうと思う。誰かアドルフに連絡を取って、訪問の調整をしてくれないか?」
「それであれば、私が連絡しておきます」とスミスが言った。
念のために説明すると、ジャービス王国ではジャービス中央銀行が取引金融機関に考査(取引先金融機関等の業務・財産の状況を把握することを目的として、取引先との契約に基づいて行う立入調査)を行っている。
セレナ銀行についてもジャービス中央銀行が考査を行っているから、俺たちはその結果を利用しようとしている。
ちなみに、日本でも、中央銀行である日本銀行が取引金融機関に対して考査を行っていて『日銀考査』と言われている。また、他にも金融庁が金融機関に対して実施する『金融庁検査』がある。
日本で行われている政府系機関の金融機関に対する調査はこの2つだ。
<続く>
(2)ALM(Asset Liability Management) <続き>
俺とミゲルの話は脱線してなかなか進まない。その俺たちの雑談を妨害するため、ルイーズの咳払いが聞こえた。
俺は、ルイーズがこの状況にイライラしていることを感じ取った。
「話を進めようか・・・。それで、内部調査部はこれからセレナ銀行の調査をすることになった」と俺は改めて言った。
ミゲルが絡むと話が進まないと勘づいたスミス。
本題に戻すためにスミスは俺に質問した。
「セレナ銀行の経営が悪化した理由はなんですか?」とスミスが俺に質問した。
「セレナ銀行は金融緩和のときに預金を大量に集めたんだけど、その運用に失敗したんだ」
「銀行のメイン業務は貸出です。セレナ銀行の不良債権が急に増加したのですか?」
「貸出関連資産は調べないと分からないけど、今回の経営悪化の直接の原因ではなさそうだ。チャールズから聞いたのは、金融緩和の時に大量に購入した外国債券と国内債券の含み損が原因らしい」
「あー、債券投資でしたか」
「金融緩和の時は政策金利を極端に低くしたから、急激なジャービス・ドル安(為替レートが高くなる)になったよね。その時に買った外債が、政策金利の上昇でジャービス・ドル高(為替レートが低くなる)になって、多額の為替差損が出たんだ」
※詳しくは『第7回活動報告:通貨危機を回避しろ』をご覧下さい。
「1米ドル=190JDから一気に1米ドル=110JDまで落ちましたからね。約40%の含み損ですか・・・」
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。
「ああ、悲惨だろ?」
「悲惨ですね。それに、国内債券も低金利の時に投資していたら、利上げで評価損が出ますね」とスミスが言った。
「そうなんだ。金余りの時にALMを考えずに債券投資をしまくったから、巨額の含み損が出ている」
※ALM(Asset Liability Management)とは、銀行等における資産と負債の管理方法です。市場金利に対する資産・負債の価値変動リスクなどを管理します。
「内務省は政策金利を変更するのを知っていたのに、銀行に通知しなかったんですか?」
「長期の債券投資を避けるように通知したらしいよ。でも、セレナ銀行は従わなかったからこういう事態になっている」
「それは何とも・・・」スミスは何とも言えない表情で言った。
「まあ、忠告を無視した銀行を救済するかどうかは、内務省の内部で議論になってるらしい」
「そうですか・・・。為替対応で政策金利が1%と4%を行ったり来たりしましたからね。そう言えば、米国のサンフランシスコの銀行もALMに問題があって経営破綻していましたね」
「そうそう。あれと同じだよ」
俺がそう言うと、ミゲルが思い出したように言った。
「あ、そういえば・・・・。セレナ銀行は、サンフランシスコの銀行を手本にしてベンチャー企業向けの融資をスタートしたと聞いたことがあります」
「じゃあ、経営破綻の原因も一緒なんだ」と俺は言った。
ミゲルが絡むと話が進まない。
だから、スミスが俺を本題に戻した。
「具体的には何を調査するんでしょうか?」
「チャールズが言うには、ジャービス政府として救済できる銀行と救済できない銀行を分けたいらしい。全ての銀行を救済できないからね。だから、俺たちの調査はセレナ銀行の財務内容の調査だね」
「セレナ銀行の財務内容の調査ですか・・・。壮大ですね」
「確かに、一から調査すると壮大だ。時間的にも間に合いそうにない。だから、ジャービス中央銀行の考査の結果を利用して、問題ある部分だけを調査しようと思う」
「考査の結果ですか?」
「ジャービス中央銀行は銀行に対して数年に一度の頻度で考査を実施している。前回の考査が1年前だから、今回の調査の参考にできると思うんだ」と俺は説明した。
「1年前であればジャービス中央銀行の考査結果を使えそうですね」
「だから、セレナ銀行の実地調査を行う前に、まずはジャービス中央銀行の考査の資料を開示してもらおうと思う。誰かアドルフに連絡を取って、訪問の調整をしてくれないか?」
「それであれば、私が連絡しておきます」とスミスが言った。
念のために説明すると、ジャービス王国ではジャービス中央銀行が取引金融機関に考査(取引先金融機関等の業務・財産の状況を把握することを目的として、取引先との契約に基づいて行う立入調査)を行っている。
セレナ銀行についてもジャービス中央銀行が考査を行っているから、俺たちはその結果を利用しようとしている。
ちなみに、日本でも、中央銀行である日本銀行が取引金融機関に対して考査を行っていて『日銀考査』と言われている。また、他にも金融庁が金融機関に対して実施する『金融庁検査』がある。
日本で行われている政府系機関の金融機関に対する調査はこの2つだ。
<続く>