第3話 情報提供者に会ってみよう(その2)

文字数 1,624文字

(3) 情報提供者に会ってみよう <続き>

 エミリーは話を続けた。

「暗号資産で安定的なパフォーマンスをキープするのはとても難しいことです。当社(フォーレンダム証券)は、数種類の暗号資産に投資する投資信託を販売していますが、パフォーマンスは全く安定しません。ジャービット・コインのような安定したパーセントで運用するのは不可能です」

 俺はエミリーが言いたいことを理解している。
 ジャービット・コインは価格を操作していると言いたいのだ。

「そうすると『会社が意図的に価格を操作している』とエミリーは思っている訳ですね?」と俺はエミリーに聞いた。

「そう考えるのが自然です。同業者からすると、『ジャービット・コインは何かおかしい!』と思っています。ちなみに、ジャービット・コインは、ジャービット・エクスチェンジという暗号資産交換業者が取り扱っています。親会社はK諸島にあるジャービットという会社です」

「K諸島はタックヘイブン(租税回避地)として有名なところですね」

「そうです。ファンドがよく使っているところです」とエミリーは言った。

「我々もジャービット・コインのことを分かる範囲で調べました。ただ、大した情報が得られていません」

「そうでしょうね」

「子会社のジャービット・エクスチェンジは、純粋な暗号資産交換業者として当局に登録されています。提出された決算書を確認しましたが、ジャービット・エクスチェンジには目立った資産・負債はありませんでした」

「私も決算書を見ました。何もありませんね」

「親会社ジャービットの方は、要約した財務データのみが記載されていました。詳細は分かりません。ただ、ここ数年で資産規模が増加していることは分かりました。私の予想では、発行しているジャービット・コインの評価額を反映したものだと、推測しています。フォーレンダム証券で何か会社の情報を把握していますか?」

「私も調べてみましたがほとんど情報を入手できませんでした。当社の顧客から会社情報を入手したので、それをお渡しします。ただ、既に入手している情報と同じかも知れません」とエミリーは言った。

 それはそうだろう。
 非上場企業だから情報を積極的に公開する必要はないし、国外の親会社の詳細な財務情報を、外部が入手できるとは思えない。
 少し行き詰まってきたので、俺はエミリーに別の質問をした。

「ありがとうございます。ちなみに、他に気になっている暗号資産はありますか? ジャービット・コイン以外で、我々が調査対象にした方が良い暗号資産、という意味です」

「新しく出てきている暗号資産は幾つかありますが、ジャービット・コインほど怪しくはありません」

「そうですか。それでは、我々はジャービット・コインについての調査を開始するとします」

 俺が話を終わろうとすると、「最後に一つよろしいですか?」とエミリーが聞いてきた。

「何でしょう?」

「ジャービット・コインについての調査はいつから開始する予定ですか?」

「ジャービット・コインの情報をもう少し集めてから開始する予定なので、もう少し先です。でも、来週にはスタートすると思います」と俺は答えた。

「そうですか。暗号資産は、今のところインサイダー取引には該当しないので、当社の顧客には知らせておこうと思います。早めに売却してもらった方がいいかも知れませんし」とエミリーは言った。

 暗号資産は、問題が発生すると価格が急落する。エミリーは、内部調査部の動きを顧客に伝えて、恩を売ろうという考えなのだろう。
 まあ、法律違反でもないし、何の調査も進んでない現時点では、内部調査部の動きがインサイダー情報には該当しないだろう。俺が気にすることじゃない。

 それに、エミリーはジャービット・コインのせいで自社商品が売れないから、邪魔でしかたないのだろう。女性の思考回路は、男性と少し違う。

 俺たちはエミリーに礼を言って分かれた。

 まずは、ジャービット・コインを詳しく調べよう。

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登場人物紹介

ダニエル:ジャービス王国の第4王子。総務大臣。

ルイーズ:総務省 内部調査部 課長代理

ジェームス:ジャービス王国第1王子。軍本部 総司令

チャールズ:ジャービス王国の第2王子。内務大臣。

アンドリュー:ジャービス王国の第3王子。外務大臣。

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