第2話 名探偵を探せ!(その3)
文字数 1,524文字
(2)名探偵を探せ! <続き>
ジョルジュが言うには、警察の捜査においては犯人が分かっても事件は解決しないらしい。俺の予想に反した回答だ。
「犯人を推理したら終わりじゃないの?」と俺はジョルジュに聞いた。
「犯人が分かっても事件は終わりませんね。もし名探偵の推理が間違っていたらどうします?」
「誤認逮捕ということ?」
「そうです。冤罪(えんざい)です。誤認逮捕した後に真犯人が見つかったら大変です。警察の威信に係ります。だから、冤罪の可能性を下げるために捜査は慎重にしないといけないんです」
「じゃあ、捜査に名探偵は必要ないってこと?」
「そこまでは言いません。私が言いたいのは、名探偵がいても事件が解決する訳ではないということです」
「事件を解決するスペシャリストを目指せってことかな?」
「そうです。事件を解決するためにはスペシャリストでないといけないのです。ちなみに、今まで内部調査部で調査した事件は解決したと仰いましたが、どういう調査の流れだったのでしょうか?」とジョルジュは俺に質問した。
「言うのは恥ずかしいんだけど・・・」
「大丈夫ですよ。笑いませんから」
そう言いながらも、ジョルジュの目は笑っていない。
俺は少し迷ったものの、ジョルジュに内部調査部の調査内容を説明することにした。
「例えば、3つ目の案件は劣後社債を使った高齢者向けの投資詐欺事件だと思っていた。そして怪しいと思っていた証券会社を調べたんだけど、証券会社は犯人じゃなかった。次に怪しいと思った運用会社を調べたんだけど、運用会社も犯人じゃなかった。最後に疑ったのはIFA(Independent Financial Advisor)だ。IFAも調べたけど犯人じゃなかった」
「犯人はいたんですか?」
「結論として、この事件を起こした直接の犯人はいなかった。偶然にも投資家の社債売却時期が重なって、他の投資家の狼狽売りが発生したんだ。それで、金融市場がクラッシュしそうになった・・・」
「犯人はいなかった。つまり、容疑者を全部潰していって、最終的に事件の結論に到着した。そういうことですか?」
「事件の結論が『犯人がいなかった』であればそうだね」
「いいと思いますよ。捜査の進め方として間違っていません」とジョルジュは言った。
「いいって、どういうこと?」
「捜査に必要な手続きを全て網羅(もうら)しているわけですから、あるべき捜査をしています。例えば、警察の捜査においては効率性よりも網羅性を重視します」
「網羅性?」
「つまり、容疑者への聴取を全て行ったか、証拠は全て集めたか、犯行の動機を全て検討したか、といった捜査手続きの網羅性です。先ほど説明したように、警察は誤認逮捕を避けるために捜査手続を全て網羅しないといけません。効率が悪くても、網羅性が重視されます」
「へー。網羅性かー」
「いま聞いた捜査状況から言えることは、内部調査部は名探偵ではなさそうです。だけど、スペシャリストと言えるでしょう」とジョルジュは俺に言った。
「俺たちがスペシャリスト?」俺はジョルジュに聞いた。
「ええ、スペシャリストです」
俺は『名探偵』を目指していたはずだ。
でも、『スペシャリスト』と言われると悪い気はしない。
これからはスペシャリストと名乗ればいいのではないか?
調査のスペシャリスト・・・、カッコイイかもしれない。
”俺は名探偵ではない。スペシャリストだ”
”俺は名探偵ではない。スペシャリストだ”
”俺は名探偵ではない。スペシャリストだ”
3回唱えてみた。
何となく俺はスペシャリストな気がしてきた。
***
こうして俺は名探偵を目指すことを止めた。
名探偵の採用も中止だ。
なぜなら、俺たちはスペシャリストだから!
ジョルジュが言うには、警察の捜査においては犯人が分かっても事件は解決しないらしい。俺の予想に反した回答だ。
「犯人を推理したら終わりじゃないの?」と俺はジョルジュに聞いた。
「犯人が分かっても事件は終わりませんね。もし名探偵の推理が間違っていたらどうします?」
「誤認逮捕ということ?」
「そうです。冤罪(えんざい)です。誤認逮捕した後に真犯人が見つかったら大変です。警察の威信に係ります。だから、冤罪の可能性を下げるために捜査は慎重にしないといけないんです」
「じゃあ、捜査に名探偵は必要ないってこと?」
「そこまでは言いません。私が言いたいのは、名探偵がいても事件が解決する訳ではないということです」
「事件を解決するスペシャリストを目指せってことかな?」
「そうです。事件を解決するためにはスペシャリストでないといけないのです。ちなみに、今まで内部調査部で調査した事件は解決したと仰いましたが、どういう調査の流れだったのでしょうか?」とジョルジュは俺に質問した。
「言うのは恥ずかしいんだけど・・・」
「大丈夫ですよ。笑いませんから」
そう言いながらも、ジョルジュの目は笑っていない。
俺は少し迷ったものの、ジョルジュに内部調査部の調査内容を説明することにした。
「例えば、3つ目の案件は劣後社債を使った高齢者向けの投資詐欺事件だと思っていた。そして怪しいと思っていた証券会社を調べたんだけど、証券会社は犯人じゃなかった。次に怪しいと思った運用会社を調べたんだけど、運用会社も犯人じゃなかった。最後に疑ったのはIFA(Independent Financial Advisor)だ。IFAも調べたけど犯人じゃなかった」
「犯人はいたんですか?」
「結論として、この事件を起こした直接の犯人はいなかった。偶然にも投資家の社債売却時期が重なって、他の投資家の狼狽売りが発生したんだ。それで、金融市場がクラッシュしそうになった・・・」
「犯人はいなかった。つまり、容疑者を全部潰していって、最終的に事件の結論に到着した。そういうことですか?」
「事件の結論が『犯人がいなかった』であればそうだね」
「いいと思いますよ。捜査の進め方として間違っていません」とジョルジュは言った。
「いいって、どういうこと?」
「捜査に必要な手続きを全て網羅(もうら)しているわけですから、あるべき捜査をしています。例えば、警察の捜査においては効率性よりも網羅性を重視します」
「網羅性?」
「つまり、容疑者への聴取を全て行ったか、証拠は全て集めたか、犯行の動機を全て検討したか、といった捜査手続きの網羅性です。先ほど説明したように、警察は誤認逮捕を避けるために捜査手続を全て網羅しないといけません。効率が悪くても、網羅性が重視されます」
「へー。網羅性かー」
「いま聞いた捜査状況から言えることは、内部調査部は名探偵ではなさそうです。だけど、スペシャリストと言えるでしょう」とジョルジュは俺に言った。
「俺たちがスペシャリスト?」俺はジョルジュに聞いた。
「ええ、スペシャリストです」
俺は『名探偵』を目指していたはずだ。
でも、『スペシャリスト』と言われると悪い気はしない。
これからはスペシャリストと名乗ればいいのではないか?
調査のスペシャリスト・・・、カッコイイかもしれない。
”俺は名探偵ではない。スペシャリストだ”
”俺は名探偵ではない。スペシャリストだ”
”俺は名探偵ではない。スペシャリストだ”
3回唱えてみた。
何となく俺はスペシャリストな気がしてきた。
***
こうして俺は名探偵を目指すことを止めた。
名探偵の採用も中止だ。
なぜなら、俺たちはスペシャリストだから!