第7話 銀行はシロかクロか(その2)

文字数 1,485文字

(7) 銀行はシロかクロか <続き>

「5人の個人投資家に聞いた話を俺になりに考えてみた。レンソイス不動産のリード、偽造業者のジョン、Lファイナンスのジョーは、虚偽のローン申請書類や収入証明の偽造のことを知っていたと思うんだ。一方、銀行に提出されたローン申請書類はかなりの数だ。しかも、実際に偽造されているローン件数は、ロワール銀行の融資の全体から見ればごく一部だ」と俺はメンバーに言った。

「確かにそうね。ディーンの話だと、Lシリーズを何件か買わない限りは書類を偽造しないわね」とルイーズが返答した。

「それで、みんなに聞きたいことがあるんだ。ロワール銀行の担当者は、虚偽の申請書類や収入証明が偽造されていたことを、知っていたと思う?」と俺はメンバーに聞いた。

 俺は『ロワール銀行のスティーブンがシロかクロか?』をメンバーに質問した。

 まず、ミゲルが発言した。

「私はロワール銀行のスティーブンは知らなかったと考えています。まず、Lシリーズは販売件数が多いです。だから、レンソイス不動産の社内でも、全員が書類を偽造していることを知っているわけではないと思います」

「そうだね」

「同じく、銀行の借入申込も件数が多いです。Lシリーズの融資にはロワール銀行の銀行員が多く関わっているでしょう。その中で、書類偽造が行われた時だけロワール銀行の担当者をスティーブンに変更するのは、難しいのではないでしょうか」とミゲルが言った。

 ミゲルは、銀行がシロだと思っているようだ。
 ミゲルの言っていることに違和感はない。

 次に、ガブリエルが発言した。

「僕はロワール銀行のスティーブンは知っていたと思います。レンソイス不動産の営業の全員が書類偽造に関わっていないように、ロワール銀行においても特定の人物の犯行でしょう。目をつけた個人投資家を陥れるためには、給与収入から返せない借入金を銀行から引き出す必要があります」

「そうだね」

「収入証明を偽造すると、前回のローン申請の時と比べて明らかに収入証明の金額が増えます。普通の銀行員であれば、前回の申請書類と比較して収入が大幅に増えていれば、違和感を持つはずです。直ぐに偽造を疑うのではないでしょうか? そう考えると、銀行と不動産会社に協力関係がないと難しいでしょう」とガブリエルは言った。

 ガブリエルは銀行がクロだと思っているようだ。
 理屈もそれなりに通っている。

 俺はその後もメンバーに『ロワール銀行のスティーブンがシロかクロか?』を聞いてみた。
 そうすると、内部調査部の6人のうち、3人がシロ、3人がクロと言った。

 完全に意見が割れた・・・。

 俺はますます自信がなくなった。
 と言うよりも、最初から推理は当たっていないからいつも通りと言えるかもしれない。

 俺は、この状況でロワール銀行のスティーブンについて、シロ・クロどちらか一方に決めつけるのは危険だと判断した。

 ― もう少しヒアリングする人数を増やすべきか?

 俺はルイーズに、ヒアリングの候補者が何人いるのかを質問した。

「いま譲渡担保が設定されている個人投資家は、何人いるかな?」

「うーん。正確な人数は分からないけど、50人くらいかな?」とルイーズが答えた。

「50人か・・・。その中から10人に会いに行って、話を聞いてみるのはどうかな?」と俺は言った。

「え? まだヒアリングするの? 不動産会社か銀行に聞きに行ったら、いいじゃない」ルイーズは不満そうだ。

 ルイーズの不満は当然だ。きっと他のメンバーもそう思っているだろう。
 俺は追加ヒアリングをしたい理由をメンバーに説明することにした。

 <続く>
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登場人物紹介

ダニエル:ジャービス王国の第4王子。総務大臣。

ルイーズ:総務省 内部調査部 課長代理

ジェームス:ジャービス王国第1王子。軍本部 総司令

チャールズ:ジャービス王国の第2王子。内務大臣。

アンドリュー:ジャービス王国の第3王子。外務大臣。

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