第9話 デューデリジェンス(その5)
文字数 2,020文字
(9) デューデリジェンス <続き>
翌日、私たちはジャービット・エクスチェンジが入っているビルの前でデトロイト監査法人のメンバーと待ち合わせした。
ビルは築古の雑居ビルで、他の暗号資産交換業者の豪華なオフィスビルとは大違いだ。顧客が会社に訪問してくることもないだろうから、見た目が悪くても関係ないのかもしれない。
私たちがビルの前に着くと、トーマスとその部下が先に来ていた。私はトーマスたちに挨拶をした後、揃ってジャービット・エクスチェンジを訪問した。
会議室に案内されて中に入ると、昨日面談した弁護士のビルと初老の男性3人が座っていた。この3人が、ダニエルが言っていた話好きな役員だろう。
コミュ障の私に3人の相手が務まるのだろうか?
私は不安を感じながらも、簡単な挨拶をしてから役員にインタビューをすることにした。
デューデリの過程でインタビューは必要だし、先にしても後でしても同じだ。
私は先に民事再生手続に至った経緯を聞いておいた方が効率的だと判断した。
「はじめまして、i5の社長のルイーズです。同席しているのは、ロイとポールです」
私が初老の男性3人に自己紹介をすると、真ん中に座っている男性が発言した。
「社長のホセです。この度は宜しくお願いします」
「当社がスポンサーとして御社を支援できるかについて、デューデリの結果をもとに判断します。財務書類は後ほどデータルームで確認する予定です。もしお時間があれば、先に今回の資金繰り悪化の原因と、この窮地を脱するための対策をどのように考えているかを教えてもらえますか?」と私はホセに聞いた。
「ご質問には私がお答えします。まず、資金繰り悪化の原因は、顧客からジャービット・コインを買取る際に、高い価格でオファーしてしまったことです」
「高い価格でオファーですか?」
「顧客に損失を出してほしくなかったので、出来るだけ高い価格で買取ろうと頑張りましたが、今思えばもう少し安くても良かったと思っています」
「はあ・・・」
「それと、ジャービット・コインの発行で受け取った資金の一部を、非上場株式で運用していたため、直ぐに現金化できませんでした」
「非上場株式ですか?」
「具体的には、ジャービット・コインの発行によってジャービットに80億JDが入ってきて、そのうち10億JDを非上場株式に投資しました。10億JDがシステムの維持管理コスト、残り60億JDを現預金として保管していました」
ジャービット・コインを高く買いすぎたのは、失敗だっただろう。
それにしても、非上場株式への投資10億JDは大きい。
― 現預金はいくら残っているんだろうか?
私は不安を感じながらも、現在の預金残高を聞いておこうと考えた。
「前月末の月次試算表では、ジャービットの預金座高は50億JDです。今月のジャービット・コインの買取りで預金残高は減少したようですが、現在の現預金残高はいくらですか?」と私はホセに聞いた。
「昨日時点で10億JDです。前月末残高が50億JDだから、今月のジャービット・コインの買取りで40億JD支出したことになります」ホセは答えた。
想定していたよりも現預金が減っているようだ。
調子に乗ってジャービット・コインを高値で買ってしまったのだろう。
とりあえず、今後不足する金額を先に聞いておこうと私は考えた。
「それで、投資家が保有しているジャービット・コインはいくらですか?」と私はホセに質問した。
「顧客が保有しているのは昨日時点で10万ジャービット・コインです」
「10万ジャービット・コインですか。とすると、1ジャービット・コインを1万JDで買えば、10億JDです。手許資金だけで足りますよね?」
私はそうホセに聞いたものの、疑問が生まれた。
― 手許の10億JDで買取ればいいだけじゃないか?
― 民事再生の適用申請は必要だったのか?
ジャービット・エクスチェンジは既に民事再生の適用申請してしまっているのだが、民事再生の適用申請は必要なかったような気がする。
「ごもっとも。理屈はそうなのですが、さすがに1ジャービット・コインを1万JDだと投資家が納得してくれないと思います」とホセは言った。
「そうですか。それなら、具体的な価格目線はありますか?」と私は聞いた。
「難しいですね・・・。少なくとも1ジャービット・コインを2万JD、と個人的には思っています」
「2万JDは何か根拠があるのですか?」と私はホセに聞いた。
「顧客の平均取得単価が約2万JDです。1ジャービット・コインを2万JDで買取りできれば、顧客が購入した金額が返ってくるので、大きな問題にはならないと思います」とホセは言った。
― 民事再生の適用を申請しておいて、いまさら何を言っているんだろう?
ホセはいい人だと思う。
でも、民事再生の適用申請した会社は、顧客への返済額を気にする必要はない。
私は少しイライラしているようだ。
<続く>
翌日、私たちはジャービット・エクスチェンジが入っているビルの前でデトロイト監査法人のメンバーと待ち合わせした。
ビルは築古の雑居ビルで、他の暗号資産交換業者の豪華なオフィスビルとは大違いだ。顧客が会社に訪問してくることもないだろうから、見た目が悪くても関係ないのかもしれない。
私たちがビルの前に着くと、トーマスとその部下が先に来ていた。私はトーマスたちに挨拶をした後、揃ってジャービット・エクスチェンジを訪問した。
会議室に案内されて中に入ると、昨日面談した弁護士のビルと初老の男性3人が座っていた。この3人が、ダニエルが言っていた話好きな役員だろう。
コミュ障の私に3人の相手が務まるのだろうか?
私は不安を感じながらも、簡単な挨拶をしてから役員にインタビューをすることにした。
デューデリの過程でインタビューは必要だし、先にしても後でしても同じだ。
私は先に民事再生手続に至った経緯を聞いておいた方が効率的だと判断した。
「はじめまして、i5の社長のルイーズです。同席しているのは、ロイとポールです」
私が初老の男性3人に自己紹介をすると、真ん中に座っている男性が発言した。
「社長のホセです。この度は宜しくお願いします」
「当社がスポンサーとして御社を支援できるかについて、デューデリの結果をもとに判断します。財務書類は後ほどデータルームで確認する予定です。もしお時間があれば、先に今回の資金繰り悪化の原因と、この窮地を脱するための対策をどのように考えているかを教えてもらえますか?」と私はホセに聞いた。
「ご質問には私がお答えします。まず、資金繰り悪化の原因は、顧客からジャービット・コインを買取る際に、高い価格でオファーしてしまったことです」
「高い価格でオファーですか?」
「顧客に損失を出してほしくなかったので、出来るだけ高い価格で買取ろうと頑張りましたが、今思えばもう少し安くても良かったと思っています」
「はあ・・・」
「それと、ジャービット・コインの発行で受け取った資金の一部を、非上場株式で運用していたため、直ぐに現金化できませんでした」
「非上場株式ですか?」
「具体的には、ジャービット・コインの発行によってジャービットに80億JDが入ってきて、そのうち10億JDを非上場株式に投資しました。10億JDがシステムの維持管理コスト、残り60億JDを現預金として保管していました」
ジャービット・コインを高く買いすぎたのは、失敗だっただろう。
それにしても、非上場株式への投資10億JDは大きい。
― 現預金はいくら残っているんだろうか?
私は不安を感じながらも、現在の預金残高を聞いておこうと考えた。
「前月末の月次試算表では、ジャービットの預金座高は50億JDです。今月のジャービット・コインの買取りで預金残高は減少したようですが、現在の現預金残高はいくらですか?」と私はホセに聞いた。
「昨日時点で10億JDです。前月末残高が50億JDだから、今月のジャービット・コインの買取りで40億JD支出したことになります」ホセは答えた。
想定していたよりも現預金が減っているようだ。
調子に乗ってジャービット・コインを高値で買ってしまったのだろう。
とりあえず、今後不足する金額を先に聞いておこうと私は考えた。
「それで、投資家が保有しているジャービット・コインはいくらですか?」と私はホセに質問した。
「顧客が保有しているのは昨日時点で10万ジャービット・コインです」
「10万ジャービット・コインですか。とすると、1ジャービット・コインを1万JDで買えば、10億JDです。手許資金だけで足りますよね?」
私はそうホセに聞いたものの、疑問が生まれた。
― 手許の10億JDで買取ればいいだけじゃないか?
― 民事再生の適用申請は必要だったのか?
ジャービット・エクスチェンジは既に民事再生の適用申請してしまっているのだが、民事再生の適用申請は必要なかったような気がする。
「ごもっとも。理屈はそうなのですが、さすがに1ジャービット・コインを1万JDだと投資家が納得してくれないと思います」とホセは言った。
「そうですか。それなら、具体的な価格目線はありますか?」と私は聞いた。
「難しいですね・・・。少なくとも1ジャービット・コインを2万JD、と個人的には思っています」
「2万JDは何か根拠があるのですか?」と私はホセに聞いた。
「顧客の平均取得単価が約2万JDです。1ジャービット・コインを2万JDで買取りできれば、顧客が購入した金額が返ってくるので、大きな問題にはならないと思います」とホセは言った。
― 民事再生の適用を申請しておいて、いまさら何を言っているんだろう?
ホセはいい人だと思う。
でも、民事再生の適用申請した会社は、顧客への返済額を気にする必要はない。
私は少しイライラしているようだ。
<続く>