回顧録第4話 遅れてきた反抗期(その2)
文字数 1,306文字
(2)神童のライバルは神童
ダニエルは小学生から中学1年生の中間試験まで、ほとんど勉強しなくても学年1位をキープしていたようだ。ルイーズから聞いたのだが、「僕は頭がいいから、勉強しなくてもいいんだよねー」とダニエルが自慢していたそうだ。
―― こんな奴に負けるわけにはいかない!
私は強く心に誓った。
神童と言われたうちのルイーズを打ち負かした他所(よそ)の神童。
ダニエルはジャービス王国の第4王子だから王族だ。
実際に賢いのだから「アホ王子」ではないが、私からしたら「クソ王子」でしかない。
確かに、王族だから身分は私の家よりも遥かに上だ。
でも、うちの神童(ルイーズ)は生意気なクソ王子(ダニエル)に負けるはずがないと私は信じていた。
だから、私とサラは、ルイーズがダニエルに勝てるように全力でサポートした。
そしたら、
―― クソ王子に勝った!
うちのルイーズがダニエルを期末試験で倒したのだ。私は妻のサラと「ざまあみろ! ダニエル!」と抱き合って喜んだものだ。
しかし、これで戦いは終わらなかった。
ルイーズの努力と私たちの全力サポートが、ダニエルをやる気にさせてしまったのだ。
ダニエルは今まで勉強しなくてもずっと1位だった。だから、ルイーズに負けたのが人生で初めての敗北だ。本当に悔しかったのだろう。
期末試験が終わってから、ダニエルはルイーズが通っていた学習塾に来るようになった。
不覚にも私たちは、うちの神童(ルイーズ)のライバルである他所の神童(ダニエル)を勉強する気にさせてしまったわけだ。
そして、2学期の中間試験の結果が出ると、今度はダニエルが学年1位に返り咲いた。
ルイーズが泣いて悔しがったのを覚えている。正直、あの時はダニエルを後ろから殴ってやろうかと考えた。王族を殴ったら逮捕されるかもしれないから、さすがに私はダニエルを殴らなかったが、それくらい悔しかったという意味だ。
―― 次こそクソ王子に勝つ!
次はダニエルに勝てるように、私とサラはルイーズを応援した。
私は、可愛くて賢いルイーズが大好きだった。『目に入れても痛くない』という諺(ことわざ)があるが、まさにその諺通りだ。
それに、年の近い娘を持つ同僚から聞く『思春期特有の反抗期』もルイーズにはなかった。だから、私たちの親子関係は何の問題もなかった。
今になって思い返せば、ルイーズはダニエルを倒すことに夢中になっていて、私や妻のサラに反抗しようと思わなかったのかもしれないのだが。
その後もルイーズとダニエルのトップ争いは続いた。
勝率から言うと、ルイーズが勝つのが3回に1回。ダニエルが3回に2回だ。
ルイーズは「次は(も)勝つから、期待しておいて!」と試験が終わるたびに私たちに宣言していた。実際には勝ったり負けたりだったが、あの頃の我が家はダニエルを倒すことに一丸となっていた。
ライバル2人の戦いは高校に入っても続いた。
そんなルイーズとダニエルの関係性が微妙に変わってきたのが、高校生のときだったと思う。
いや、二人の関係はそのままで、私が二人を見る目が変わったのかもしれない。
その辺りは、次に話そう。
<続く>
ダニエルは小学生から中学1年生の中間試験まで、ほとんど勉強しなくても学年1位をキープしていたようだ。ルイーズから聞いたのだが、「僕は頭がいいから、勉強しなくてもいいんだよねー」とダニエルが自慢していたそうだ。
―― こんな奴に負けるわけにはいかない!
私は強く心に誓った。
神童と言われたうちのルイーズを打ち負かした他所(よそ)の神童。
ダニエルはジャービス王国の第4王子だから王族だ。
実際に賢いのだから「アホ王子」ではないが、私からしたら「クソ王子」でしかない。
確かに、王族だから身分は私の家よりも遥かに上だ。
でも、うちの神童(ルイーズ)は生意気なクソ王子(ダニエル)に負けるはずがないと私は信じていた。
だから、私とサラは、ルイーズがダニエルに勝てるように全力でサポートした。
そしたら、
―― クソ王子に勝った!
うちのルイーズがダニエルを期末試験で倒したのだ。私は妻のサラと「ざまあみろ! ダニエル!」と抱き合って喜んだものだ。
しかし、これで戦いは終わらなかった。
ルイーズの努力と私たちの全力サポートが、ダニエルをやる気にさせてしまったのだ。
ダニエルは今まで勉強しなくてもずっと1位だった。だから、ルイーズに負けたのが人生で初めての敗北だ。本当に悔しかったのだろう。
期末試験が終わってから、ダニエルはルイーズが通っていた学習塾に来るようになった。
不覚にも私たちは、うちの神童(ルイーズ)のライバルである他所の神童(ダニエル)を勉強する気にさせてしまったわけだ。
そして、2学期の中間試験の結果が出ると、今度はダニエルが学年1位に返り咲いた。
ルイーズが泣いて悔しがったのを覚えている。正直、あの時はダニエルを後ろから殴ってやろうかと考えた。王族を殴ったら逮捕されるかもしれないから、さすがに私はダニエルを殴らなかったが、それくらい悔しかったという意味だ。
―― 次こそクソ王子に勝つ!
次はダニエルに勝てるように、私とサラはルイーズを応援した。
私は、可愛くて賢いルイーズが大好きだった。『目に入れても痛くない』という諺(ことわざ)があるが、まさにその諺通りだ。
それに、年の近い娘を持つ同僚から聞く『思春期特有の反抗期』もルイーズにはなかった。だから、私たちの親子関係は何の問題もなかった。
今になって思い返せば、ルイーズはダニエルを倒すことに夢中になっていて、私や妻のサラに反抗しようと思わなかったのかもしれないのだが。
その後もルイーズとダニエルのトップ争いは続いた。
勝率から言うと、ルイーズが勝つのが3回に1回。ダニエルが3回に2回だ。
ルイーズは「次は(も)勝つから、期待しておいて!」と試験が終わるたびに私たちに宣言していた。実際には勝ったり負けたりだったが、あの頃の我が家はダニエルを倒すことに一丸となっていた。
ライバル2人の戦いは高校に入っても続いた。
そんなルイーズとダニエルの関係性が微妙に変わってきたのが、高校生のときだったと思う。
いや、二人の関係はそのままで、私が二人を見る目が変わったのかもしれない。
その辺りは、次に話そう。
<続く>