第2話 乗っ取りの手口(その3)

文字数 1,635文字

(2)乗っ取りの手口 <続き>

 俺のミゲルへの説明が長かったのだろう。ホセはウトウトしている。
 ホセには申し訳ないことをした。老人はすることがないと寝てしまう。
 ミゲルへの説明が終わったので、俺は改めてホセに具体的な案件について聞くことにした。

「具体的な買収提案を受けている会社はあるの?」

「先ほどお話ししたネール・マテリアルが買収提案を受けています。ネール・マテリアルはモーターの部品製造をしている上場会社で、国内シェアは100%、世界シェアは60%あります。上場20年目で、PBRは0.2です」

「そうか。買収されて海外に技術移転されるとジャービス王国としては損失だね。買収提案しているのは、どこの会社か知ってる?」

「ネール・マテリアルの株式を買い集めているのはダウラファンドというK諸島籍のファンドです。そのファンドを運用している会社はダウラアセットマネジメントです。ダウラアセットマネジメントはアクティビストとして有名だからご存じだと思います。理由は分かりませんが、最近になって割安の上場会社を買収するようになりました」とホセは説明した。

 ※アクティビストとは、ある会社の株式を一定以上保有し、自己の利益ために投資した会社の経営陣へ積極的に提言を行う投資家です。

「タックスヘイブンのファンドか。情報を取得するのが難しそうだな」

「そうですね。ジャービットもK諸島籍の会社なので、ほとんど情報を開示していません。代表者も契約している弁護士ですし」

「ところで、アクティビストは買収しないよね? 会社に提案して、株価が上がったところで売り抜けて終了、だと思うんだけど。どうして方針転換したんだろう?」

「うーん。あくまで私の想像ですが・・・、ファンドの出資者(投資家)の意向じゃないでしょうか。ダウラファンドに出資する外国企業か外国籍ファンドが、ネール・マテリアルの事業を取得したいと考えていているのかと・・・」

 俺が困った質問をしたから、ホセは返答に困っている。

 それにしても、アクティビストが会社を買収する理由が分からない。
 なぜだろう?

 俺が考えていると隣に座っていたルイーズが口を開いた。

「上場会社がダウラファンドに買収された後、ダウラファンドがどこに売却したかは分かるんじゃないの?」

「それが難しいんです。買収された直後であれば、適時開示情報を見れば分かります。
 でも、非公開化して一定期間経過した後は適時開示の義務はないので、ダウラファンドが会社または事業をどこに売却したか分かりません。ダウラファンドは売却先を知られないように、適時開示が不要になるのを待ってから会社または事業を売却しているのではないでしょうか」

「買収された会社が保有していた不動産の登記簿謄本を見れば分かるのかな?」とルイーズが言った。

「買収した会社の資産を切り売りしていたら、登記簿謄本に取得者が出てくるかもしれませんね。ダウラファンドが不動産の取得者を隠している可能性はあるものの、調べてみる価値はあるでしょう」とホセは言った。

 ホセの話を聞いて調査対象は絞れてきたようだ。

 まず、ダウラファンドは本当に海外に技術流出しているのだろうか?
 海外に技術流出していないのであれば、買収を阻止する必要はない。

 ダウラファンドが海外に技術流出している場合、ネール・マテリアルの買収を阻止する正当な理由があるのか?
 ジャービス王国の資金を使って買収を阻止する場合には、少なくとも国王とチャールズ(第2王子、内務大臣)を説得できるだけの理由が必要だ。

 調べてみないと分からないから、俺は内部調査部のメンバーに今後の方針を伝えた。

「じゃあ、今回の調査方針だけど、買収の危機に瀕しているネール・マテリアルに事情を聞くのと並行して、ダウラファンドが過去に買収した会社がその後どうなったのかを調べることにしよう」

 こうして俺たちはネール・マテリアルへのヒアリングとダウラファンドの調査を開始することになった。
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登場人物紹介

ダニエル:ジャービス王国の第4王子。総務大臣。

ルイーズ:総務省 内部調査部 課長代理

ジェームス:ジャービス王国第1王子。軍本部 総司令

チャールズ:ジャービス王国の第2王子。内務大臣。

アンドリュー:ジャービス王国の第3王子。外務大臣。

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