第4話 まずは市場調査をしよう(その2)
文字数 2,321文字
(4)まずは市場調査をしよう <続き>
一方、スミス、ガブリエル、ポールの3人は、ジャービス王国最大の総合商社、ベルグレービア商事を訪問した。総合商社なので金属資源、エネルギー、鉄鋼製品、食品、アパレル、自動車、建設、物流、情報・通信、金融・保険など10以上の部門に分かれている。
ベルグレービア商事は、銅の取引量においてもジャービス王国で一番多い。
スミスたちは、ベルグレービア商事で金属資源取引の責任者のルースから銅価格高騰の理由を聞くことになった。ルースは前のミーティングが長引いているようで、到着に少し時間が掛かると受付に言われた。3人は案内されたミーティングルームでルースを待っている。特にやることがないので、ポールはスミスに話しかけた。
「大手商社って、もっと華やかなところを想像していました。建物も古いし、意外に地味ですね」とポールが言う。
「他の商社も似たようなもんじゃないかな。総務省と変わらないよね」とスミスは言った。
「そうですね。僕たちの職場と似たような感じですね。就職ランキングでも毎年上位だし、チャラい人たちが集まっているものだと、てっきり・・・」
「どういうのを想像してたの?昔はそうだったかも知れないけど、今は飲み会の参加に制限のある会社もあるらしい。営業しないといけないのに、大変だね」
「へー。イメージと違ってそうですね。ちなみに、商社の人は年中海外出張しているイメージがあるんですけど、海外出張はありますよね?」
「それは部署と人によるかな。確かに年中海外出張している人もいると思うけど、大半はそうじゃないと思うよ。大手商社は国内も海外も自社だけで取引が網羅できないから、その取引に関係する会社に出資しているんだ。実際の取引は、出資した子会社や関連会社が行う場合が多いから、商社自体が動くケースはそんなに多くない」
「じゃあ、商社の人は何をしているんですか?」
「子会社と関連会社の管理かな」
「海外出張、なさそうですね」
「ないよ。専門商社だとあると思うけど」
「じゃあ、海外出張に行きたかったら、専門商社に就職しないといけないんですね」
「そうだね」
スミスとポールが話していると、ルースが「遅くなり申し訳ありません」と言ってミーティングルームにやってきた。
***
「いえいえ、お忙しいところ恐縮です」とスミスは言った。
「それで、銅取引について事情を聞きたいとのことですが、具体的にはどういうことですか?」とルイーズが言った。
「いま、総務省で銅価格が高騰している原因を調べていて、御社以外にも伺って情報を聞いているところです。別のところから聞いた情報では、銅価格の高騰は現物の大量購入が原因ではないかと言っていたそうです。今年に入ってから銅価格が上昇していますが、何か原因と思われることはありませんか?」スミスはルースに尋ねた。
ルースは少し考えてから、スミスの質問に答えた。
「そうですね。銅の価格が上がった原因は幾つかあると思います。
例えば、今年に入ってから、電力会社が送電線の補強工事を全国で実施しています。この工事では古くなった電線を新しい電線に交換しないといけないため、電線に使う銅が大量に買われています。他にも電化製品、特に空気清浄機と冷蔵庫の売れ行きが好調で、例年よりも銅の使用量は増えています。
一方、供給量は例年と同じで、前年度から増えていません。
つまり、銅の需要が増えているものの、供給量が増えていないため、需給バランスが崩れました。当社では、需給バランスが銅価格の高騰につながっていると考えています」とルースは言った。
「つまり、銅の高騰は純粋に需要が増えたのが原因であって、投機的な取引が原因ではないということでしょうか?」とスミスはルースに確認した。
「そういうことです。銅市場で実需による買いは増えていますが、投機的な買いが増えたという情報は入ってきていません。なので、投機的な買い占めが原因ではないはずです。
一方、銅は大半を輸入に頼っているため供給量を直ぐに増やせません。需給バランスが崩れた状況は当面続くと思われるため、しばらくは銅価格の高止まりが続くかもしれません」とルースは答えた。
「銅価格を調べていて気になったのですが、もう1点よろしいでしょうか?」
「何でしょうか?」
「銅の国際価格の推移を調べていると、国際価格は800JD/kgのままで、ジャービス王国のように高騰しているわけではありません。ジャービス王国の銅価格だけが高騰している状況です。
需給バランスが崩れているのであれば、例えば、海外から国内需要に見合った数量を輸入できれば、銅価格は下がるのでしょうか?」とスミスは再び聞いた。
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。
「もちろん、下がります。銅価格は1,500JD/kgから800JD/kgに戻るでしょう。ただ、供給量をすぐに増やすのは難しいと思います。
と言うのは、商社はどこも銅を長期契約で産出国から購入しているため、実務上、輸入量を急に増やせないのです。この結果、ジャービス王国で局所的に価格高騰が起きています」とルースは言った。
その後、幾つか追加で質問したが、有用な情報は得られなかった。
このため、「状況は分かりました。ありがとうございました」とスミスは言って、3人はベルグレービア商事を後にした。
ルースの言っていることは、間違ってはいないだろう。
素人目には『銅の輸入量を増やせばいいだけじゃないか』と思ってしまうが、商社の契約では難しいようだ。
本当だろうか?
スミスは疑問に思いながら、内部調査部に戻った。
一方、スミス、ガブリエル、ポールの3人は、ジャービス王国最大の総合商社、ベルグレービア商事を訪問した。総合商社なので金属資源、エネルギー、鉄鋼製品、食品、アパレル、自動車、建設、物流、情報・通信、金融・保険など10以上の部門に分かれている。
ベルグレービア商事は、銅の取引量においてもジャービス王国で一番多い。
スミスたちは、ベルグレービア商事で金属資源取引の責任者のルースから銅価格高騰の理由を聞くことになった。ルースは前のミーティングが長引いているようで、到着に少し時間が掛かると受付に言われた。3人は案内されたミーティングルームでルースを待っている。特にやることがないので、ポールはスミスに話しかけた。
「大手商社って、もっと華やかなところを想像していました。建物も古いし、意外に地味ですね」とポールが言う。
「他の商社も似たようなもんじゃないかな。総務省と変わらないよね」とスミスは言った。
「そうですね。僕たちの職場と似たような感じですね。就職ランキングでも毎年上位だし、チャラい人たちが集まっているものだと、てっきり・・・」
「どういうのを想像してたの?昔はそうだったかも知れないけど、今は飲み会の参加に制限のある会社もあるらしい。営業しないといけないのに、大変だね」
「へー。イメージと違ってそうですね。ちなみに、商社の人は年中海外出張しているイメージがあるんですけど、海外出張はありますよね?」
「それは部署と人によるかな。確かに年中海外出張している人もいると思うけど、大半はそうじゃないと思うよ。大手商社は国内も海外も自社だけで取引が網羅できないから、その取引に関係する会社に出資しているんだ。実際の取引は、出資した子会社や関連会社が行う場合が多いから、商社自体が動くケースはそんなに多くない」
「じゃあ、商社の人は何をしているんですか?」
「子会社と関連会社の管理かな」
「海外出張、なさそうですね」
「ないよ。専門商社だとあると思うけど」
「じゃあ、海外出張に行きたかったら、専門商社に就職しないといけないんですね」
「そうだね」
スミスとポールが話していると、ルースが「遅くなり申し訳ありません」と言ってミーティングルームにやってきた。
***
「いえいえ、お忙しいところ恐縮です」とスミスは言った。
「それで、銅取引について事情を聞きたいとのことですが、具体的にはどういうことですか?」とルイーズが言った。
「いま、総務省で銅価格が高騰している原因を調べていて、御社以外にも伺って情報を聞いているところです。別のところから聞いた情報では、銅価格の高騰は現物の大量購入が原因ではないかと言っていたそうです。今年に入ってから銅価格が上昇していますが、何か原因と思われることはありませんか?」スミスはルースに尋ねた。
ルースは少し考えてから、スミスの質問に答えた。
「そうですね。銅の価格が上がった原因は幾つかあると思います。
例えば、今年に入ってから、電力会社が送電線の補強工事を全国で実施しています。この工事では古くなった電線を新しい電線に交換しないといけないため、電線に使う銅が大量に買われています。他にも電化製品、特に空気清浄機と冷蔵庫の売れ行きが好調で、例年よりも銅の使用量は増えています。
一方、供給量は例年と同じで、前年度から増えていません。
つまり、銅の需要が増えているものの、供給量が増えていないため、需給バランスが崩れました。当社では、需給バランスが銅価格の高騰につながっていると考えています」とルースは言った。
「つまり、銅の高騰は純粋に需要が増えたのが原因であって、投機的な取引が原因ではないということでしょうか?」とスミスはルースに確認した。
「そういうことです。銅市場で実需による買いは増えていますが、投機的な買いが増えたという情報は入ってきていません。なので、投機的な買い占めが原因ではないはずです。
一方、銅は大半を輸入に頼っているため供給量を直ぐに増やせません。需給バランスが崩れた状況は当面続くと思われるため、しばらくは銅価格の高止まりが続くかもしれません」とルースは答えた。
「銅価格を調べていて気になったのですが、もう1点よろしいでしょうか?」
「何でしょうか?」
「銅の国際価格の推移を調べていると、国際価格は800JD/kgのままで、ジャービス王国のように高騰しているわけではありません。ジャービス王国の銅価格だけが高騰している状況です。
需給バランスが崩れているのであれば、例えば、海外から国内需要に見合った数量を輸入できれば、銅価格は下がるのでしょうか?」とスミスは再び聞いた。
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。
「もちろん、下がります。銅価格は1,500JD/kgから800JD/kgに戻るでしょう。ただ、供給量をすぐに増やすのは難しいと思います。
と言うのは、商社はどこも銅を長期契約で産出国から購入しているため、実務上、輸入量を急に増やせないのです。この結果、ジャービス王国で局所的に価格高騰が起きています」とルースは言った。
その後、幾つか追加で質問したが、有用な情報は得られなかった。
このため、「状況は分かりました。ありがとうございました」とスミスは言って、3人はベルグレービア商事を後にした。
ルースの言っていることは、間違ってはいないだろう。
素人目には『銅の輸入量を増やせばいいだけじゃないか』と思ってしまうが、商社の契約では難しいようだ。
本当だろうか?
スミスは疑問に思いながら、内部調査部に戻った。