第5話 暗号資産交換業者(その2)
文字数 1,888文字
(5) 暗号資産交換業者 <続き>
完全にホセの思い出話になってしまった・・・。
このままだと、ジャービット・エクスチェンジの設立の経緯に話が進むのに、小一時間が掛かりそうだ。
人は良さそうだが、お爺さんなので話が長い。
早く軌道修正しないと帰れそうにないな、と俺は考えた。
「大変でしたね。ジャービット・エクスチェンジの役職員は、カルタゴ証券の同僚でしょうか?」と俺は聞いた。
「そうです。役職員のほとんどはカルタゴ証券の同僚です。前職の証券会社が倒産してしまったので、役職員の受け皿となる会社として設立したのがジャービット・エクスチェンジです」とホセは答えた。
よし!
これで、ジャービット・エクスチェンジの話ができそうだ。
この手のタイプは、こちらから主体的に質問しないと脱線してしまう。
下手に話に付き合うと、聞きたいことが何も聞けずに時間だけが過ぎていく。
「会社の出資金は自己資金で賄ったのですか?」と俺は積極的にホセに質問する。
「ジャービット・エクスチェンジの出資額のうち90%は経営陣の出資です。10%はカルタゴ証券時代のお客さんが出資してくれました」
出資額の90%が個人だとすると、会社に資金が潤沢にあるわけではなさそうだ。
潤沢に資金を有している大企業の子会社に比べると、資金力ははるかに劣るだろう。
俺は暗号資産交換業を始めた理由を聞くことにした。
「旧カルタゴ証券の役職員を受け入れるためにジャービット・エクスチェンジを設立したのは分かりました。暗号資産の事業にした理由は何かあったのですか?」
「明確な理由が有ると言えばあるし、無いと言えばないですね。強いて言えば、許認可の取得しやすさが一番の理由です」
「許認可ですか?」
「そうですね。旧カルタゴ証券の役職員を受け入れる会社を、本当は証券会社にしたかったのです。ですが、証券業の許認可を取得するのに時間が掛かります。我々の資金力では証券業の許認可を取得するまで資金が持つか分からなかったので、暗号資産交換業にしたのです」
「でも、暗号資産交換業者も許認可を取得するのに時間が掛かりますよね?」
「掛かります。暗号資産交換業者も許認可を取得するのに時間は掛かります。それでも、申請当時は証券会社よりはかなり短く済みそうでした」
「へー、そうでしたか」
「それに、ジャービット・エクスチェンジを設立した当時は、暗号資産の人気が急上昇していたタイミングです。我々の顧客基盤を活かすためには、暗号資産交換業者は良い事業だと考えました」
ホセは、証券会社よりも許認可の取得が楽だから暗号資産交換業者を始めたと説明した。
理由としては不自然ではない。
でも、証券会社と暗号資産交換業者は取り扱っている商品も違うし、顧客層も違うだろう。
カルタゴ証券の顧客基盤をそのまま使えるのだろうか?
俺は疑問に思ったのでホセに聞いてみた。
「同業の暗号資産交換業者は、主にネット営業で新規顧客の開拓をしていると聞いています。カルタゴ証券の電話営業とはやり方が全く違うと思います。営業スタイルを対面営業からネット営業に変えるのは、難しくなかったのですか?」
「ネット営業はしてませんね」
「え? そうなんですか?」
「まず、カルタゴ証券では株式のオンライン取引を行っていませんでした。ほぼ全ての取引は電話です。顧客からの注文を担当者が電話で受けて、その注文内容をカルタゴ証券が顧客の代理で執行します。約定(やくじょう)結果はその後、顧客に電話で連絡していました」
「へー、今どき珍しいですね」
「昔はほとんど電話取引だったんですよ。カルタゴ証券のお客さんは年齢層が高かったので、株式売買のオンライン取引できる人なんていません。お金を掛けてオンライン取引システムを作っても、お客さんがオンライン取引できないから誰も使ってくれないんです」
「だから電話注文ですか・・・」
「ええ。カルタゴ証券の場合は、電話注文の方が圧倒的にスムーズでした」とホセは言い切った。
「はあ、そういうものですか。ジャービット・エクスチェンジでも、暗号資産の取引を電話注文で受けているんですか?」俺は半分冗談で聞いてみた。
「そうです。ジャービット・エクスチェンジの暗号資産取引は電話注文ですよ。他の暗号資産交換業者とは全く違いますね。なんせ、うちのお客さんオンライン取引できませんから・・・」
「はあ」
「当社はオンライン取引システムが必要ないから、同業者と比べるとランニングコストが安いですよ」とホセは笑いながら答えた。
さすがアナログ世代だ。
完全に独自路線を行っている・・・。
<続く>
完全にホセの思い出話になってしまった・・・。
このままだと、ジャービット・エクスチェンジの設立の経緯に話が進むのに、小一時間が掛かりそうだ。
人は良さそうだが、お爺さんなので話が長い。
早く軌道修正しないと帰れそうにないな、と俺は考えた。
「大変でしたね。ジャービット・エクスチェンジの役職員は、カルタゴ証券の同僚でしょうか?」と俺は聞いた。
「そうです。役職員のほとんどはカルタゴ証券の同僚です。前職の証券会社が倒産してしまったので、役職員の受け皿となる会社として設立したのがジャービット・エクスチェンジです」とホセは答えた。
よし!
これで、ジャービット・エクスチェンジの話ができそうだ。
この手のタイプは、こちらから主体的に質問しないと脱線してしまう。
下手に話に付き合うと、聞きたいことが何も聞けずに時間だけが過ぎていく。
「会社の出資金は自己資金で賄ったのですか?」と俺は積極的にホセに質問する。
「ジャービット・エクスチェンジの出資額のうち90%は経営陣の出資です。10%はカルタゴ証券時代のお客さんが出資してくれました」
出資額の90%が個人だとすると、会社に資金が潤沢にあるわけではなさそうだ。
潤沢に資金を有している大企業の子会社に比べると、資金力ははるかに劣るだろう。
俺は暗号資産交換業を始めた理由を聞くことにした。
「旧カルタゴ証券の役職員を受け入れるためにジャービット・エクスチェンジを設立したのは分かりました。暗号資産の事業にした理由は何かあったのですか?」
「明確な理由が有ると言えばあるし、無いと言えばないですね。強いて言えば、許認可の取得しやすさが一番の理由です」
「許認可ですか?」
「そうですね。旧カルタゴ証券の役職員を受け入れる会社を、本当は証券会社にしたかったのです。ですが、証券業の許認可を取得するのに時間が掛かります。我々の資金力では証券業の許認可を取得するまで資金が持つか分からなかったので、暗号資産交換業にしたのです」
「でも、暗号資産交換業者も許認可を取得するのに時間が掛かりますよね?」
「掛かります。暗号資産交換業者も許認可を取得するのに時間は掛かります。それでも、申請当時は証券会社よりはかなり短く済みそうでした」
「へー、そうでしたか」
「それに、ジャービット・エクスチェンジを設立した当時は、暗号資産の人気が急上昇していたタイミングです。我々の顧客基盤を活かすためには、暗号資産交換業者は良い事業だと考えました」
ホセは、証券会社よりも許認可の取得が楽だから暗号資産交換業者を始めたと説明した。
理由としては不自然ではない。
でも、証券会社と暗号資産交換業者は取り扱っている商品も違うし、顧客層も違うだろう。
カルタゴ証券の顧客基盤をそのまま使えるのだろうか?
俺は疑問に思ったのでホセに聞いてみた。
「同業の暗号資産交換業者は、主にネット営業で新規顧客の開拓をしていると聞いています。カルタゴ証券の電話営業とはやり方が全く違うと思います。営業スタイルを対面営業からネット営業に変えるのは、難しくなかったのですか?」
「ネット営業はしてませんね」
「え? そうなんですか?」
「まず、カルタゴ証券では株式のオンライン取引を行っていませんでした。ほぼ全ての取引は電話です。顧客からの注文を担当者が電話で受けて、その注文内容をカルタゴ証券が顧客の代理で執行します。約定(やくじょう)結果はその後、顧客に電話で連絡していました」
「へー、今どき珍しいですね」
「昔はほとんど電話取引だったんですよ。カルタゴ証券のお客さんは年齢層が高かったので、株式売買のオンライン取引できる人なんていません。お金を掛けてオンライン取引システムを作っても、お客さんがオンライン取引できないから誰も使ってくれないんです」
「だから電話注文ですか・・・」
「ええ。カルタゴ証券の場合は、電話注文の方が圧倒的にスムーズでした」とホセは言い切った。
「はあ、そういうものですか。ジャービット・エクスチェンジでも、暗号資産の取引を電話注文で受けているんですか?」俺は半分冗談で聞いてみた。
「そうです。ジャービット・エクスチェンジの暗号資産取引は電話注文ですよ。他の暗号資産交換業者とは全く違いますね。なんせ、うちのお客さんオンライン取引できませんから・・・」
「はあ」
「当社はオンライン取引システムが必要ないから、同業者と比べるとランニングコストが安いですよ」とホセは笑いながら答えた。
さすがアナログ世代だ。
完全に独自路線を行っている・・・。
<続く>