第5話 世論調査(その4)

文字数 1,480文字

(5)世論調査 <続き>

「10年後の為替レートが幾らになるか分からなかったら、米ドルの国債に投資できないよね?」俺はミゲルに言った。

「確かに・・・。博打(ばくち)というか、得するか損するか分からないから、怖いですね」

「だから、10年後の為替レートを固定するために為替予約をするんだ。為替予約に利用する為替レートがフォワードレート」

「10年後の為替レートを今決めてしまう、という意味ですか?」

「そうだよ。じゃあ、問題。10年後の為替レート(フォワードレート)は幾らになると思う?」と俺はミゲルに聞いた。

「1米ドル=140JDよりも低くてもいいけど、1米ドル=100JDよりは高くないと損しますね。じゃあ、1米ドル=130JDですか?」ミゲルは当てずっぽうで答えた。

※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円としています。

「ミゲルくん、おしい! 正解は・・・1米ドル=127JDでしたー」と俺は言った。

「1米ドル=130JDだったら、ほぼ正解じゃないですか!」ミゲルは不満そうだ。

「まあまあ。ちなみに、さっきの図(図表7-8)の数値を使って、こうやって計算すればいいんだ」

 俺はそう言ってホワイトボードに計算式(図表7-9)を書いた。

【図表7-9:フォワードレートの計算式】



「今の状態で10年後の為替予約を140JD/米ドルで依頼しても、どこも受けてくれない。だって、為替予約をすると相手が損してしまうから。だから、139 JD/米ドル、138JD/米ドル・・・とフォワードレートを下げていって、127JD/米ドル付近で取引が成立する」

「フォワードレートとは、要は、得も損もしない為替レートということですね」

「そうだね。ちなみに、フォワードレートは『為替予約レート』と言うときもある」

「へー。ところで、素朴な疑問なんですけど・・・」とミゲルが言った。

「どうかした?」

「10年後に取引するフォワードレートが127JD/米ドルですよね。これは、10年後に為替レートが127JD/米ドルになるってことですか?」とミゲルが俺に質問した。

「いや、全然関係ないよ。フォワードレートは『〇か月後(〇年後)にジャービス・ドルと米ドルを交換する予約取引の際に利用する為替レート』。スポットレートと対象通貨の金利差から計算されるだけで、実際に10年後に127JD/米ドルになっているかどうかは全く関係ない」

「なんか、難しいですね」

「慣れるまで難しいかもね。ところで、今のフォワードレートが127JD/米ドルだったけど、1年前のフォワードレートは計算できる?」と俺はミゲルに聞いた。

「1年前は、スポットレートが1米ドル=105JD、JD金利が3%、米ドル金利が1%だから・・・」

 そう言うと、ミゲルは計算し始めた。

【図表7-10:1年前のフォワードレート】




「127 JD/米ドルですか?」とミゲルが言った。

「ミゲルくん、正解!」

 ミゲルは正解して喜んでいる。しばらくすると、ミゲルは何かに気付いたようだ。

「部長、今のフォワードレートと1年前のフォワードレートが同じですけど?」

「小数点以下は違うけど、そうだね。為替レート(スポットレート)や金利は変化したけど、フォワードレートは同じなんだ」

「どういうことですか?」

「正確な理由は分からない。多分だけど、為替市場が考えている長期的な為替レートは変わっていない、ということだと思う。為替レートは、短期では金利差に影響されて大きく動くけど、長期的な水準は変わっていない。ということだと思う」と俺は答えた。

 <続く>
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登場人物紹介

ダニエル:ジャービス王国の第4王子。総務大臣。

ルイーズ:総務省 内部調査部 課長代理

ジェームス:ジャービス王国第1王子。軍本部 総司令

チャールズ:ジャービス王国の第2王子。内務大臣。

アンドリュー:ジャービス王国の第3王子。外務大臣。

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