第2話 ALM(Asset Liability Management)(その1)
文字数 1,982文字
(2)ALM(Asset Liability Management)
チャールズにセレナ銀行の調査を手伝うと言ってしまった俺。
ルイーズに睨まれながら総務省に戻ってきた俺は、内部調査部のドアを開けた。
部屋に入るとミゲルが「お揃いでどうしました?」と俺に声を掛けた。
中を見渡すと内部調査部のメンバーは揃っているようだ。
俺は「みんな、ちょっといいかな?」とメンバーに言った。
「改まってどうしたんですか?」とミゲルは俺に質問してきた。
勢い余って銀行の調査を引き受けてしまった俺が言い出しづらくて黙っていると、ミゲルが「当ててみましょう!」と言い出した。
「結婚することになったんですか?」とミゲルが言った。
ミゲルがそう言うと内部調査部のメンバーが揃って俺とルイーズを見た。
前にもミゲルに同じことを言われた気がするが、俺とルイーズはそういう関係ではない。
ジャービス王立大学の同級生だ。卒業時の順位は俺が3位、ルイーズは4位。
ただ、それだけ・・・
「違うよ」俺は即答する。
「部長がキャバ嬢に入れあげているのをバレて、ルイーズに怒られた!」
「違うって・・・」
ミゲルはそっち(恋愛関係)のネタにしたくて仕方がない。
だが、俺にはそっち(恋愛関係)の面白い話が何もない。
オチが無い話をするほど苦痛なものはない。
ミゲルは俺が素っ気なく答えたので、少し真面目な質問に切り替えた。
「ヒントを下さい! プライベートのことですか? 仕事のことですか?」
二択で絞っていく作戦だ。
これで正解まで辿り着けば、俺の罪悪感も少しは軽くなるかもしれない。
俺は積極的に回答することにした。
「仕事だね」
ミゲルは次の二択を繰り出す。
「良いことですか? 悪いことですか?」
「どちらかというと悪いこと」
「仕事でとんでもないミスをした?」
正解まで遠い道のりがありそうだ。
仕方ないから俺はヒントを出すことにした。
「ミスはしてないけど、みんなに迷惑は掛かるな・・・」
「え? さっきまでどこにいらしてたんですか?」
「チャールズと会ってたよ」
「じゃあ、チャールズ王子に余計な仕事を押し付けられた!」ミゲルは自信満々に言った。
「正解だ!」
俺はそう言ってミゲルに拍手した。
言い出しにくかったことを代わりに言ってくれたから、俺はミゲルに少し感謝している。
「それで、何をするんですか?」
「セレナ銀行って知ってるかな?」
「地方銀行ですよね? 最近、セレナ銀行の名前をよく耳にするんです。たしか、ベンチャー企業との取引が急に増えていたと思います」
俺はセレナ銀行を中小企業取引中心の地方銀行としか認識していなかった。
ミゲルの話(ベンチャー企業との取引)は俺にとっては初耳だった。
ミゲルはジャービット・エクスチェンジのホセたちと一緒に、ベンチャー企業の経営者とよく会っている。ベンチャー企業の経営者から聞いたのだろう。
もう少し内容を確認するために俺はミゲルに質問した。
「セレナ銀行はそんなにベンチャー企業との取引が増えてるの?」
「そうみたいです。数年前からセレナ銀行はベンチャー企業への融資に力を入れ始めました」
「へー、珍しいね。普通の銀行はベンチャー企業に融資するのを嫌がるよね?」
「普通は嫌がります。でも、セレナ銀行は積極的に融資するからベンチャー企業の取引先がここ数年で一気に増えたんです」
「でも、ベンチャー企業の資金調達のメインはエクイティファイナンス(株式の発行など)だよね?」
「もちろんです。メインはエクイティファイナンスです。セレナ銀行が積極的に融資していると言っても、ベンチャー企業の資金調達の内訳はエクイティファイナンスが80%、残り20%をセレナ銀行が融資している感じでしょうか」
「比率としては多くはないか・・・。でも、他の銀行が融資しないのにセレナ銀行は融資してくれるから、ベンチャー企業としては嬉しいんだろうな?」
「嬉しいでしょうね。何人かのベンチャー企業経営者はセレナ銀行から融資を受けたことを喜んでいました。それもあって、ベンチャー企業はメインバンクをセレナ銀行に変更しているんです。ベンチャー企業がエクイティファイナンスで調達する場合、ここ数年の振込口座は大体セレナ銀行ですね。それくらいベンチャー企業の預金がセレナ銀行に集中しているんです」とミゲルは説明した。
「へー。じゃあ、セレナ銀行が急激に預金を増やしたのには、金融緩和の金余りとベンチャー企業の預金が理由か・・・」
俺はベンチャー企業のメインバンクの話は初耳だったし、ミゲルが想像していた以上に業界情報に精通しているのに驚いた。
いつもホセと一緒にベンチャー企業の集まりに参加していることが役に立ったようだ。
―― やっと役に立つようになってくれたか・・・
俺はおじさん(ミゲル)の成長を嬉しく思った。
<続く>
チャールズにセレナ銀行の調査を手伝うと言ってしまった俺。
ルイーズに睨まれながら総務省に戻ってきた俺は、内部調査部のドアを開けた。
部屋に入るとミゲルが「お揃いでどうしました?」と俺に声を掛けた。
中を見渡すと内部調査部のメンバーは揃っているようだ。
俺は「みんな、ちょっといいかな?」とメンバーに言った。
「改まってどうしたんですか?」とミゲルは俺に質問してきた。
勢い余って銀行の調査を引き受けてしまった俺が言い出しづらくて黙っていると、ミゲルが「当ててみましょう!」と言い出した。
「結婚することになったんですか?」とミゲルが言った。
ミゲルがそう言うと内部調査部のメンバーが揃って俺とルイーズを見た。
前にもミゲルに同じことを言われた気がするが、俺とルイーズはそういう関係ではない。
ジャービス王立大学の同級生だ。卒業時の順位は俺が3位、ルイーズは4位。
ただ、それだけ・・・
「違うよ」俺は即答する。
「部長がキャバ嬢に入れあげているのをバレて、ルイーズに怒られた!」
「違うって・・・」
ミゲルはそっち(恋愛関係)のネタにしたくて仕方がない。
だが、俺にはそっち(恋愛関係)の面白い話が何もない。
オチが無い話をするほど苦痛なものはない。
ミゲルは俺が素っ気なく答えたので、少し真面目な質問に切り替えた。
「ヒントを下さい! プライベートのことですか? 仕事のことですか?」
二択で絞っていく作戦だ。
これで正解まで辿り着けば、俺の罪悪感も少しは軽くなるかもしれない。
俺は積極的に回答することにした。
「仕事だね」
ミゲルは次の二択を繰り出す。
「良いことですか? 悪いことですか?」
「どちらかというと悪いこと」
「仕事でとんでもないミスをした?」
正解まで遠い道のりがありそうだ。
仕方ないから俺はヒントを出すことにした。
「ミスはしてないけど、みんなに迷惑は掛かるな・・・」
「え? さっきまでどこにいらしてたんですか?」
「チャールズと会ってたよ」
「じゃあ、チャールズ王子に余計な仕事を押し付けられた!」ミゲルは自信満々に言った。
「正解だ!」
俺はそう言ってミゲルに拍手した。
言い出しにくかったことを代わりに言ってくれたから、俺はミゲルに少し感謝している。
「それで、何をするんですか?」
「セレナ銀行って知ってるかな?」
「地方銀行ですよね? 最近、セレナ銀行の名前をよく耳にするんです。たしか、ベンチャー企業との取引が急に増えていたと思います」
俺はセレナ銀行を中小企業取引中心の地方銀行としか認識していなかった。
ミゲルの話(ベンチャー企業との取引)は俺にとっては初耳だった。
ミゲルはジャービット・エクスチェンジのホセたちと一緒に、ベンチャー企業の経営者とよく会っている。ベンチャー企業の経営者から聞いたのだろう。
もう少し内容を確認するために俺はミゲルに質問した。
「セレナ銀行はそんなにベンチャー企業との取引が増えてるの?」
「そうみたいです。数年前からセレナ銀行はベンチャー企業への融資に力を入れ始めました」
「へー、珍しいね。普通の銀行はベンチャー企業に融資するのを嫌がるよね?」
「普通は嫌がります。でも、セレナ銀行は積極的に融資するからベンチャー企業の取引先がここ数年で一気に増えたんです」
「でも、ベンチャー企業の資金調達のメインはエクイティファイナンス(株式の発行など)だよね?」
「もちろんです。メインはエクイティファイナンスです。セレナ銀行が積極的に融資していると言っても、ベンチャー企業の資金調達の内訳はエクイティファイナンスが80%、残り20%をセレナ銀行が融資している感じでしょうか」
「比率としては多くはないか・・・。でも、他の銀行が融資しないのにセレナ銀行は融資してくれるから、ベンチャー企業としては嬉しいんだろうな?」
「嬉しいでしょうね。何人かのベンチャー企業経営者はセレナ銀行から融資を受けたことを喜んでいました。それもあって、ベンチャー企業はメインバンクをセレナ銀行に変更しているんです。ベンチャー企業がエクイティファイナンスで調達する場合、ここ数年の振込口座は大体セレナ銀行ですね。それくらいベンチャー企業の預金がセレナ銀行に集中しているんです」とミゲルは説明した。
「へー。じゃあ、セレナ銀行が急激に預金を増やしたのには、金融緩和の金余りとベンチャー企業の預金が理由か・・・」
俺はベンチャー企業のメインバンクの話は初耳だったし、ミゲルが想像していた以上に業界情報に精通しているのに驚いた。
いつもホセと一緒にベンチャー企業の集まりに参加していることが役に立ったようだ。
―― やっと役に立つようになってくれたか・・・
俺はおじさん(ミゲル)の成長を嬉しく思った。
<続く>