第6話 根回しをしよう(その6)
文字数 1,943文字
(6)根回しをしよう(続き)
国軍本部を出た俺たちは、内務省に向かった。銅の販売を依頼しようと計画しているジャービス鉱業は、内務省の管轄だからだ。
内務省に向かう途中、ルイーズが「次が最後だね」と俺に言った。
チャールズは、いつも細かいことを言うから、説得するのに時間が掛かるだろう。
「チャールズは細かいから、内務省は時間掛かると思うよ」と俺は念のためにルイーズとスミスに言った。
「チャールズが神経質なのは有名だよね」とルイーズが言った。
「そうなんですか?」とスミスが食いついてくる。
また、服装のことを気にしているのだろうか。
「小心者なんだよ。本人はリスクヘッジと言っているけど、自分の責任になるのが嫌なだけだ」
「ふーん」とルイーズが言った。
「社内の稟議書(りんぎしょ)には、『係長』、『課長』、『部長』、『社長』というふうにハンコが並ぶだろ。あれは自分だけが責任を取りたくないから、ハンコを押した全員の連帯責任にするために開発された制度だ。5人がハンコを押したら、自分の責任は20%になる」
※稟議書とは、会社の中で承認を得るための書類のことです。
「そんな話、初めて聞きましたけど。最後にハンコを押した人が、一番責任が重いんですよね?」とスミス。
「そういう説もある」と俺は適当に答えた。稟議書の成り立ちなんて、俺は知らない。
「無いわよ」とルイーズ。
「まあ、稟議書の成り立ちは置いといて。チャールズは、あらゆる方法を駆使して、稟議書にハンコを押さずに済ませるタイプだ」
「誰かに代わりに押させるとか?」
「そういうこと。噂では、職員に認印を持たせていて、それを稟議書に押させているらしい。何かあっても、『それは俺のハンコじゃないから、俺に責任はない』とでも言い逃れるつもりだろう」
「クソ野郎ね」とルイーズが言った。
「そうだね。あいつはクソ野郎だ」
***
散々悪口を言った後、俺たちはチャールズの執務室に到着した。チャールズに『カルテル潰し作戦』の全容を説明して協力を依頼する。
「・・というわけで、国内商社にサンマーティン国から銅を輸入していることを悟られずに、市場で販売したいと思っています。民間企業に販売委託しても、国内商社に気付かれる可能性が高いでしょう。商社のネットワークはすごいですから。
内務省で管理しているジャービス鉱業は、銅の生産会社なので、販売数量が多少増えても特に違和感がないと思います。もし市場関係者が何か言ってきても、需要が増加したから生産量を増やした、と説明できるでしょう」と俺はチャールズに説明した。
「俺の弟ながら、姑息な手段を使うよね。商社のカルテルよりも、ダニーの計画の方が質(たち)が悪くないか?」とチャールズは皮肉を言った。
それを聞いたルイーズはニヤニヤして、俺の方を見てきた。声に出して笑わないだけ、マシだと考えよう。
それにしても、姑息なチャールズに言われるとは、不本意極まりない。
「姑息とか言わないで下さいよ。これでも、銅の国内価格を正常化させるために、真面目にやっているのです・・・」と俺は言った。
「ところで、話は大体分かったけど、本当に商社のカルテルが存在していると思う?」とチャールズが質問してきた。
チャールズは、プライドよりも合理性を重視する。国民から見て今回の政府関与が、合理的かどうかを気にしているようだ。責任を取りたくないからだろう。
「個人的には90%以上はカルテルがあると確信しています。ただ、いくら調べてもカルテルの証拠は出てこないでしょう。でも、何らかの協定はあると思います」
俺の探偵としての勘がそう言っている。
「外務省ルートがあるとはいえ、うちが直ぐに輸入できるくらいなので、国内商社は輸入量を増やそうと思えば、いつでも増やせるはずです。輸入量を増やさないのは意図的だとしか考えられません」
「そうだよな」
「もし、国内商社が意図的に供給量制限していなかったとしても、銅価格が国際価格の2倍近いというのは異常な状況です。政府として、ジャービス国民のために対策をとる必要があるでしょう。カルテルを潰すことが目的ではなく、銅価格の適正化が目的なのですから」と俺はもっともらしく答えた。
『カルテル潰し作戦』を否定したような言い方をしてしまったが、チャールズを説得するためには仕方ないだろう。
「カルテルが有っても、無くても、今回の対応は必要ということか。分かった。
頼まれたジャービス鉱業の件は話を通しておくから、進めてくれて結構だ。手数料も20%でいい」とチャールズは言った。
意外にすんなり話が通って拍子抜けしたが、協力してくれるのであれば問題ない。
俺たちは礼を言って、内務省を後にした。
『カルテル潰し作戦』の決行だ!
国軍本部を出た俺たちは、内務省に向かった。銅の販売を依頼しようと計画しているジャービス鉱業は、内務省の管轄だからだ。
内務省に向かう途中、ルイーズが「次が最後だね」と俺に言った。
チャールズは、いつも細かいことを言うから、説得するのに時間が掛かるだろう。
「チャールズは細かいから、内務省は時間掛かると思うよ」と俺は念のためにルイーズとスミスに言った。
「チャールズが神経質なのは有名だよね」とルイーズが言った。
「そうなんですか?」とスミスが食いついてくる。
また、服装のことを気にしているのだろうか。
「小心者なんだよ。本人はリスクヘッジと言っているけど、自分の責任になるのが嫌なだけだ」
「ふーん」とルイーズが言った。
「社内の稟議書(りんぎしょ)には、『係長』、『課長』、『部長』、『社長』というふうにハンコが並ぶだろ。あれは自分だけが責任を取りたくないから、ハンコを押した全員の連帯責任にするために開発された制度だ。5人がハンコを押したら、自分の責任は20%になる」
※稟議書とは、会社の中で承認を得るための書類のことです。
「そんな話、初めて聞きましたけど。最後にハンコを押した人が、一番責任が重いんですよね?」とスミス。
「そういう説もある」と俺は適当に答えた。稟議書の成り立ちなんて、俺は知らない。
「無いわよ」とルイーズ。
「まあ、稟議書の成り立ちは置いといて。チャールズは、あらゆる方法を駆使して、稟議書にハンコを押さずに済ませるタイプだ」
「誰かに代わりに押させるとか?」
「そういうこと。噂では、職員に認印を持たせていて、それを稟議書に押させているらしい。何かあっても、『それは俺のハンコじゃないから、俺に責任はない』とでも言い逃れるつもりだろう」
「クソ野郎ね」とルイーズが言った。
「そうだね。あいつはクソ野郎だ」
***
散々悪口を言った後、俺たちはチャールズの執務室に到着した。チャールズに『カルテル潰し作戦』の全容を説明して協力を依頼する。
「・・というわけで、国内商社にサンマーティン国から銅を輸入していることを悟られずに、市場で販売したいと思っています。民間企業に販売委託しても、国内商社に気付かれる可能性が高いでしょう。商社のネットワークはすごいですから。
内務省で管理しているジャービス鉱業は、銅の生産会社なので、販売数量が多少増えても特に違和感がないと思います。もし市場関係者が何か言ってきても、需要が増加したから生産量を増やした、と説明できるでしょう」と俺はチャールズに説明した。
「俺の弟ながら、姑息な手段を使うよね。商社のカルテルよりも、ダニーの計画の方が質(たち)が悪くないか?」とチャールズは皮肉を言った。
それを聞いたルイーズはニヤニヤして、俺の方を見てきた。声に出して笑わないだけ、マシだと考えよう。
それにしても、姑息なチャールズに言われるとは、不本意極まりない。
「姑息とか言わないで下さいよ。これでも、銅の国内価格を正常化させるために、真面目にやっているのです・・・」と俺は言った。
「ところで、話は大体分かったけど、本当に商社のカルテルが存在していると思う?」とチャールズが質問してきた。
チャールズは、プライドよりも合理性を重視する。国民から見て今回の政府関与が、合理的かどうかを気にしているようだ。責任を取りたくないからだろう。
「個人的には90%以上はカルテルがあると確信しています。ただ、いくら調べてもカルテルの証拠は出てこないでしょう。でも、何らかの協定はあると思います」
俺の探偵としての勘がそう言っている。
「外務省ルートがあるとはいえ、うちが直ぐに輸入できるくらいなので、国内商社は輸入量を増やそうと思えば、いつでも増やせるはずです。輸入量を増やさないのは意図的だとしか考えられません」
「そうだよな」
「もし、国内商社が意図的に供給量制限していなかったとしても、銅価格が国際価格の2倍近いというのは異常な状況です。政府として、ジャービス国民のために対策をとる必要があるでしょう。カルテルを潰すことが目的ではなく、銅価格の適正化が目的なのですから」と俺はもっともらしく答えた。
『カルテル潰し作戦』を否定したような言い方をしてしまったが、チャールズを説得するためには仕方ないだろう。
「カルテルが有っても、無くても、今回の対応は必要ということか。分かった。
頼まれたジャービス鉱業の件は話を通しておくから、進めてくれて結構だ。手数料も20%でいい」とチャールズは言った。
意外にすんなり話が通って拍子抜けしたが、協力してくれるのであれば問題ない。
俺たちは礼を言って、内務省を後にした。
『カルテル潰し作戦』の決行だ!