第1話 新たな依頼(その3)
文字数 1,944文字
(1)新たな依頼 <続き>
『社債カースト』が確立したイベント会場では、次第に競争が激化していった。
『社債カースト』の上位者は、他の参加者よりも上という優越感を得られたようだ。
イベントを開催している会社が、上位者を檀上で表彰し、海外旅行をプレゼントするから、当然だろう。
『社債カースト』の上に行きたい参加者は、より多くの社債を購入しないといけない。誰よりも上の立場に立つために・・・。
こうして、イベントで数百口単位での購入者が目立つようになった。
社債は1口=1万JDなので、数百万JDだ。
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。
ロドリゲスの母親も、『社債カースト』で友人やご近所に負けないために、毎回少し多めに社債を買ったようだ。
ちなみに、社債の金利は月1%なので、高額保有者には毎月相当な金額の利息が支払われる。
例えば、1億JDを保有していれば毎月100万JDが入ってくるのだ。
そして、高額保有者は、月1%の金利収入を次の社債購入に充当する。結果として、高額保有者はますます保有口数を増やしていった。
金持ちが、もっと金持ちになる仕組みだ。
高齢者の間で『社債カースト』が広がり、実生活にも影響を及ぼすようになった。
地域によっては、町内会の序列が『社債カースト』で決まっていたようだ。
一方、高齢者が高額の金利収入を有するようになり、消費が喚起されて地域経済にはプラスに作用したようだ。
***
ロドリゲスの母親がイベントに参加し始めてから5年が経過したころ、一部の社債の金利が支払われない事態が発生した。
イベント会社の説明は、『一時的な資金決済で支払いが遅延している』とのことだったが、その後も度々、金利の支払いが遅れるようになったようだ。
ロドリゲスが言うには、イベントは今も全国で開催されていて、社債保有者は10万人、社債の発行総額は1,000億JDになっているという。
ジャービス王国の規模から考えると、非常に大きな金額だ。
古典的な高額商品の販売スキームに、社債カーストという競争原理を加えた戦略がこの社債販売のポイントだろう。ホストにお金を貢ぐ女性に似ている。
ただ、今のところ違法性はない・・・・。
なかなか大変そうな事件に遭遇してしまったようだ、と俺は思った。
***********
少し気の毒に思いながら、俺はロドリゲスに幾つか確認した。
「まず、お母様は社債を何口保有されているのですか?」
「母が投資しているのは100口です。金額にすると100万JDなので、少なくはありませんが、生活に支障がでる程ではありません」
「それは良かった」と俺は言った。
「それよりも、母が誘った友人がのめり込んでしまって、1万口も投資したようです。金額にすると1億JDです。母はその友人に対して責任を感じていて、『一部の社債を肩代わりした方が良いのではないか?』と悩んでいます」
ロドリゲスの心配はこれだろう。1億JDも肩代わりされると、自分の生活に支障がでてしまう。
「きっかけがお母様だったとしても、投資したのは本人の責任です。肩代わりの必要はありませんよ」そう言って俺は話を続けた。
「それで、社債の内容が分かる契約書はありますか?内容が分からないと、こちらも対応ができないのです」
「契約書はあります。こちらです。発行されている社債は2種類あるようですが、私の母や他の友人が投資していたのは、シリーズBというタイプです」と言って、ロドリゲスは契約書を幾つか俺に渡した。
契約書を見ると、発行されている社債にはシリーズAとシリーズBの2種類があり、金利が異なっている(下記)。
【社債の発行条件】
===========================
・シリーズA:普通社債、投資期間5年、金利年率3%
・シリーズB:劣後社債、投資期間5年、金利年率12%(月1%)
=============================
イベントに集まっていた高齢者が投資していたのは、シリーズBの劣後社債だけのようなので、シリーズAの普通社債は、別で販売されているのだろう。
普通社債の金利3%は、ジャービス王国の社債としては標準的だ。
なお、契約書に記載されている社債の発行会社は毎回違っているため、1カ月ごとに新しい会社を設立して社債を発行していることが分かる。
また、社債発行会社の投資対象は、住宅ローン債権と契約書に記載されている。
社債の発行会社は、普通社債と劣後社債を発行して調達した資金で、住宅ローン債権を買っているのだろう。
ただ、詳しい内容は調査しないと分からないから、戻ってから調査する必要があるだろう。
<続く>
『社債カースト』が確立したイベント会場では、次第に競争が激化していった。
『社債カースト』の上位者は、他の参加者よりも上という優越感を得られたようだ。
イベントを開催している会社が、上位者を檀上で表彰し、海外旅行をプレゼントするから、当然だろう。
『社債カースト』の上に行きたい参加者は、より多くの社債を購入しないといけない。誰よりも上の立場に立つために・・・。
こうして、イベントで数百口単位での購入者が目立つようになった。
社債は1口=1万JDなので、数百万JDだ。
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。
ロドリゲスの母親も、『社債カースト』で友人やご近所に負けないために、毎回少し多めに社債を買ったようだ。
ちなみに、社債の金利は月1%なので、高額保有者には毎月相当な金額の利息が支払われる。
例えば、1億JDを保有していれば毎月100万JDが入ってくるのだ。
そして、高額保有者は、月1%の金利収入を次の社債購入に充当する。結果として、高額保有者はますます保有口数を増やしていった。
金持ちが、もっと金持ちになる仕組みだ。
高齢者の間で『社債カースト』が広がり、実生活にも影響を及ぼすようになった。
地域によっては、町内会の序列が『社債カースト』で決まっていたようだ。
一方、高齢者が高額の金利収入を有するようになり、消費が喚起されて地域経済にはプラスに作用したようだ。
***
ロドリゲスの母親がイベントに参加し始めてから5年が経過したころ、一部の社債の金利が支払われない事態が発生した。
イベント会社の説明は、『一時的な資金決済で支払いが遅延している』とのことだったが、その後も度々、金利の支払いが遅れるようになったようだ。
ロドリゲスが言うには、イベントは今も全国で開催されていて、社債保有者は10万人、社債の発行総額は1,000億JDになっているという。
ジャービス王国の規模から考えると、非常に大きな金額だ。
古典的な高額商品の販売スキームに、社債カーストという競争原理を加えた戦略がこの社債販売のポイントだろう。ホストにお金を貢ぐ女性に似ている。
ただ、今のところ違法性はない・・・・。
なかなか大変そうな事件に遭遇してしまったようだ、と俺は思った。
***********
少し気の毒に思いながら、俺はロドリゲスに幾つか確認した。
「まず、お母様は社債を何口保有されているのですか?」
「母が投資しているのは100口です。金額にすると100万JDなので、少なくはありませんが、生活に支障がでる程ではありません」
「それは良かった」と俺は言った。
「それよりも、母が誘った友人がのめり込んでしまって、1万口も投資したようです。金額にすると1億JDです。母はその友人に対して責任を感じていて、『一部の社債を肩代わりした方が良いのではないか?』と悩んでいます」
ロドリゲスの心配はこれだろう。1億JDも肩代わりされると、自分の生活に支障がでてしまう。
「きっかけがお母様だったとしても、投資したのは本人の責任です。肩代わりの必要はありませんよ」そう言って俺は話を続けた。
「それで、社債の内容が分かる契約書はありますか?内容が分からないと、こちらも対応ができないのです」
「契約書はあります。こちらです。発行されている社債は2種類あるようですが、私の母や他の友人が投資していたのは、シリーズBというタイプです」と言って、ロドリゲスは契約書を幾つか俺に渡した。
契約書を見ると、発行されている社債にはシリーズAとシリーズBの2種類があり、金利が異なっている(下記)。
【社債の発行条件】
===========================
・シリーズA:普通社債、投資期間5年、金利年率3%
・シリーズB:劣後社債、投資期間5年、金利年率12%(月1%)
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イベントに集まっていた高齢者が投資していたのは、シリーズBの劣後社債だけのようなので、シリーズAの普通社債は、別で販売されているのだろう。
普通社債の金利3%は、ジャービス王国の社債としては標準的だ。
なお、契約書に記載されている社債の発行会社は毎回違っているため、1カ月ごとに新しい会社を設立して社債を発行していることが分かる。
また、社債発行会社の投資対象は、住宅ローン債権と契約書に記載されている。
社債の発行会社は、普通社債と劣後社債を発行して調達した資金で、住宅ローン債権を買っているのだろう。
ただ、詳しい内容は調査しないと分からないから、戻ってから調査する必要があるだろう。
<続く>