第5話 借地権制度の問題点を解決しろ(その2)
文字数 1,980文字
(5)借地権制度の問題点を解決しろ <続き>
ロイはなぜ複数の借地権があるかについて理解したようだが、借地権者と底地権者が揉める原因についてまだ納得していない。
「借地権が借主(借地権者)に有利ということは分かりました。貸主(底地権者)が不利になりすぎないように複数の借地権を法律上定めて、契約期間を限定したいのも分かりました。でも、世間一般の認識として、地主はお金持ちのイメージがあるんです。お金持ちだったら、土地の1つや2つ返ってこなくても気にする必要ないんじゃないですか?」
「それは言い過ぎだよ。確かにイギリスのチャールズ国王とかタイの国王のように、大金持ちの地主はいる。でも、一般的な地主(底地権者)は一般庶民に毛が生えたくらいの金持ちだ。大金持ちじゃない」
「でも、金持ちは金持ちですよね?」
「小金持ち。だから、不利な条件で土地を貸していることが気になる・・・」
「不利な条件ですか?」
「土地の賃貸借契約は超長期間だ。契約期間内にインフレが起きたらどうする?」
「インフレですか?」
「例えば、100年前に貸した土地の地代は100年前の物価に合わせた水準だ」
※日本における旧法(借地法)が制定されたのが大正10年(1921年)です。第一次世界大戦終結から数年後なので、物価水準は現在と比較にならないくらい低い水準です。『日本20世紀館』によれば『1920年のはがき1枚の値段は0.015円』と記載されていますから、はがき1枚63円の現在と比較すると、旧法(借地法)成立当時の物価は現在の4,200分の1です。
「地主は安い地代のまま土地を貸さないといけないわけですか?」
「そういうこと。地代は物価水準に合わせて多少補正されるけど、正しく補正はされない。つまり、100年前から物価が1,000倍になっていても、地代は1,000倍にはならない。適正な地代が月額10,000JDだったとしても、契約当時の地代が1,000分の1だったら月額10JDしかもらえない。悲惨じゃない?」
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。
「悲惨ですね・・・」
「それにね、ジャービス王国の借地権のほとんどは普通借地権だ。実質的に期限がないから、土地の賃貸借契約は超長期間になってしまう。だから、地代が安すぎる借地が多いんだよ。だから問題になる」
「私だったら、そんな賃貸借契約をした先祖を呪いますね・・・」
「だよね。だから、安い地代しかもらえない地主(貸主)は、何とかして借地権者(借主)に土地を返してもらおうと考える。一方、借地権者(借主)はできる限り建物に住み続けたいから出ていかない。借地権者と底地権者が揉める理由は分かるよね?」
「分かります。聞けば聞くほど地主は不利な立場なんですね。譲渡承諾したくない気持ちも理解できます。私だったら譲渡承諾しませんね」ロイはしみじみと言った。
「だから、地主としてはいろんな手段で借地権者(借主)を嫌がらせするインセンティブが働く」
「嫌がらせですか?」
「そうだよ。まず、地主(貸主)が取り得る手段をイメージしてほしい。地主にとって一番簡単な方法は賃貸借契約が終了して土地が借地権者から返ってくるケースだ(図表10-15の1)。でも、半永久的に続く普通借地権では期待できない」
「そうですね」
「次に、土地はどうせ戻ってこないのだから、地主が底地を第三者に売却するケースを考えてみよう(図表10-15の2)。この場合は、土地を手放すことになるけど資金回収できる。でも、底地を購入する買い手が少ないのと、底地権価格でしか売れないから安い」
「分かります。安値でMJに売却したロバート(元地主の相続人)のようなケースですね」
「そうだね。更に、建物所有者(借地権者)が譲渡承諾を求めてきた時にごねて、底地を借地権者に売却するケースもある(図表10-15の3)。この場合、借地権者は底地を取得することによって完全所有権になる。だから、地主は底地価格ではなく限定価格(建付地価格-借地権価格)で売却できるから、底地を第三者に売却するケース(図表10-15の2)よりも高く売れる」
「MJがエドガーに底地を売却しようとしたケースですね」
「そうだ。MJの場合は価格が高過ぎたけどね。さらに、地主が建物所有者(借地権者)から建物を購入するケースもある(図表10-15の4)。地主が建物を購入したら借地権付建物(または借地権付区分所有建物)ではなく、自用の建物及びその敷地として売却できる。でも、地主は建物を購入する資金が必要だ」
【図表10-15:地主の取り得る手段】
「いろいろあるんですね・・・」とロイはしみじみと言った。
この説明で内部調査部のメンバーは借地権者と底地権者の双方の立場を理解したはずだ。
俺はそう考えた。
<続く>
ロイはなぜ複数の借地権があるかについて理解したようだが、借地権者と底地権者が揉める原因についてまだ納得していない。
「借地権が借主(借地権者)に有利ということは分かりました。貸主(底地権者)が不利になりすぎないように複数の借地権を法律上定めて、契約期間を限定したいのも分かりました。でも、世間一般の認識として、地主はお金持ちのイメージがあるんです。お金持ちだったら、土地の1つや2つ返ってこなくても気にする必要ないんじゃないですか?」
「それは言い過ぎだよ。確かにイギリスのチャールズ国王とかタイの国王のように、大金持ちの地主はいる。でも、一般的な地主(底地権者)は一般庶民に毛が生えたくらいの金持ちだ。大金持ちじゃない」
「でも、金持ちは金持ちですよね?」
「小金持ち。だから、不利な条件で土地を貸していることが気になる・・・」
「不利な条件ですか?」
「土地の賃貸借契約は超長期間だ。契約期間内にインフレが起きたらどうする?」
「インフレですか?」
「例えば、100年前に貸した土地の地代は100年前の物価に合わせた水準だ」
※日本における旧法(借地法)が制定されたのが大正10年(1921年)です。第一次世界大戦終結から数年後なので、物価水準は現在と比較にならないくらい低い水準です。『日本20世紀館』によれば『1920年のはがき1枚の値段は0.015円』と記載されていますから、はがき1枚63円の現在と比較すると、旧法(借地法)成立当時の物価は現在の4,200分の1です。
「地主は安い地代のまま土地を貸さないといけないわけですか?」
「そういうこと。地代は物価水準に合わせて多少補正されるけど、正しく補正はされない。つまり、100年前から物価が1,000倍になっていても、地代は1,000倍にはならない。適正な地代が月額10,000JDだったとしても、契約当時の地代が1,000分の1だったら月額10JDしかもらえない。悲惨じゃない?」
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。
「悲惨ですね・・・」
「それにね、ジャービス王国の借地権のほとんどは普通借地権だ。実質的に期限がないから、土地の賃貸借契約は超長期間になってしまう。だから、地代が安すぎる借地が多いんだよ。だから問題になる」
「私だったら、そんな賃貸借契約をした先祖を呪いますね・・・」
「だよね。だから、安い地代しかもらえない地主(貸主)は、何とかして借地権者(借主)に土地を返してもらおうと考える。一方、借地権者(借主)はできる限り建物に住み続けたいから出ていかない。借地権者と底地権者が揉める理由は分かるよね?」
「分かります。聞けば聞くほど地主は不利な立場なんですね。譲渡承諾したくない気持ちも理解できます。私だったら譲渡承諾しませんね」ロイはしみじみと言った。
「だから、地主としてはいろんな手段で借地権者(借主)を嫌がらせするインセンティブが働く」
「嫌がらせですか?」
「そうだよ。まず、地主(貸主)が取り得る手段をイメージしてほしい。地主にとって一番簡単な方法は賃貸借契約が終了して土地が借地権者から返ってくるケースだ(図表10-15の1)。でも、半永久的に続く普通借地権では期待できない」
「そうですね」
「次に、土地はどうせ戻ってこないのだから、地主が底地を第三者に売却するケースを考えてみよう(図表10-15の2)。この場合は、土地を手放すことになるけど資金回収できる。でも、底地を購入する買い手が少ないのと、底地権価格でしか売れないから安い」
「分かります。安値でMJに売却したロバート(元地主の相続人)のようなケースですね」
「そうだね。更に、建物所有者(借地権者)が譲渡承諾を求めてきた時にごねて、底地を借地権者に売却するケースもある(図表10-15の3)。この場合、借地権者は底地を取得することによって完全所有権になる。だから、地主は底地価格ではなく限定価格(建付地価格-借地権価格)で売却できるから、底地を第三者に売却するケース(図表10-15の2)よりも高く売れる」
「MJがエドガーに底地を売却しようとしたケースですね」
「そうだ。MJの場合は価格が高過ぎたけどね。さらに、地主が建物所有者(借地権者)から建物を購入するケースもある(図表10-15の4)。地主が建物を購入したら借地権付建物(または借地権付区分所有建物)ではなく、自用の建物及びその敷地として売却できる。でも、地主は建物を購入する資金が必要だ」
【図表10-15:地主の取り得る手段】
「いろいろあるんですね・・・」とロイはしみじみと言った。
この説明で内部調査部のメンバーは借地権者と底地権者の双方の立場を理解したはずだ。
俺はそう考えた。
<続く>