第9話 国債を発行しよう(その4)
文字数 2,230文字
(9) 国債を発行しよう <続き>
まず俺は、国王に経緯を説明して、劣後社債の買取りを承諾してもらった。俺が前回の銅取引は儲かっていることを伝えると「じゃあ、今回も頑張れ」と言っていた。
銅の国内価格を安定化させる目的は達成できていないのだが、わざわざ言わなくてもいいだろう。少なくとも俺は嘘を言っていない。
次に、内務省に着いた俺は、第2王子のチャールズの部屋に訪問した。俺は劣後社債の買取資金を確保するために、取引の正当性を説明した。
『本当は内務省がやることだ!』と言ってやりたかったが、喧嘩になるから言うのは止めた。
俺の話を聞き終わったチャールズが俺に言った。
「金融マーケットを維持するために、劣後社債の買取りが必要なのは分かった。でも、すぐに100億JDを用意するのは難しいな。国家予算を配分していないから、どこから回すか調整が必要になる」
チャールズはいつも危機意識が足りない。
省庁間の調整をしている間に取り付け騒ぎが起きたらどうするつもりだ?
俺はチャールズの性格を熟知している。兄弟だから。
そして、こういう状況で有効な進め方も熟知している。
「あ、そう。儲かるんだけどな・・・」と俺はボソッと言った。
俺がそう言うとチャールズは俺を見た。
「儲かるって、どれくらい?」
やはりチャールズは食いついてきた。
俺は勿体付けながら、チャールズにこの案件の収益性を説明する。
「額面100億JDの劣後社債を継続保有する前提で説明します。まず、劣後社債の表面利率が年12%なので、年間の金利収入が12億JDです」
「年利12%か」
「それと、平均残存期間が約3年の劣後社債を額面の70%(70億JD)で買取るので、年10億JD((100億JD-70億JD)÷3年)の償還差益が発生します。利息収入と償還差益の合計は年間22億JDです。投資利回りは、取得価額が70億JDなので年率31.4%(22÷70)ですね」と俺は説明した。
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。
「年利31.4%?すごい利回りだな。これRMBSだろ?」
※RMBS(Residential Mortgage-Backed Securities)とは、モーゲージ証券(MBS)の一つで、住宅ローンを担保として発行される証券のこと。
「RMBSですよ。儲かるって言ったでしょ」
「そうだな。儲かるな」
「ディスカウントして買うから、これくらいの利回りを確保できるんです」と俺は言った。
「困っている人から買い叩いて、暴利を貪るスキームだな。火事場泥棒って言われないか?」とチャールズは言った。
「『泥棒』はやめて下さい。これでも、私は高い志を持っています。金融危機を回避するために真面目に考えたんです」
「この案件をやると、3年で約2倍か。収益性を考えると何としてもやりたいな」チャールズは、ついに案件に前のめりになった。
「ええ。儲かります」
「どこから予算を配分するか・・・・」と言ってチャールズは考えだした。
しばらくすると、チャールズは何かを閃いたようだ。
「そうだ!財源がなければ、臨時国債を発行しよう。何年債がいい?」
「5年債がいいですね。3年債だと償還のタイミングが狂うと危険ですから」
「じゃあ、5年の臨時国債を100億JD発行しよう。国債金利は2%くらいで発行できると思う」
「調達金利が2%だったら、全然問題ありません。年利31.4%ですから。それで、いつ資金調達できますか?」
「来週中には発行できると思う。すぐに証券会社と発行を打ち合わせておく」とチャールズは言った。
「それはありがたいです。発行日が確定したら教えてください」
「すぐ連絡するよ」
「それともう一つ・・・。今回も、直接ジャービス王国が個人投資家から買うわけにはいかないので、会社を用意します。その会社に100億JDを貸し付けて下さい」と俺は依頼した。
「分かった」とチャールズは言った。
***
内部調査部に戻ると、他のメンバーも打ち合わせを終えて戻ってきていた。
まず、俺が来週には資金調達できることを伝えて、ポールに新会社の設立を依頼した。
今度は、内部調査部の投資用の会社だから、『investment of internal investigation』 の略で、会社名は『i3』にすることにした。
「新会社の社長は、ポールがやってくれないか?」と俺が言うと、ポールは「やります」と二つ返事で承諾してくれた。社長手当が付くから、特に断る理由はない。
次に、トルネアセットマネジメントに訪問したスミスとロイから報告があり、運用会社の反応は非常に好意的だったようだ。i3が劣後社債を買取るために、トルネアセットマネジメントから買取対象を毎週報告してもらうことになった。
フォーレンダム証券に訪問したミゲルとポールからも、協力を得られたと報告があった。
IFAのエマ、ミア、ソフィアに会いにいったルイーズとガブリエルも、社債保有者への対応を依頼してきたようだ。IFAの3人は、借入金の返済ができるので、ほっとしていたようだ。
これで金融危機を回避するための準備は整った。
俺は内部調査部のメンバーに言った。
“それでは、劣後社債の買取りを開始する!”
メンバーは「オー!」と言った。
何度も言うようだが、『金融危機の回避』は内部調査部の業務とは関係がない。
でも、みんな楽しそうだ。
まず俺は、国王に経緯を説明して、劣後社債の買取りを承諾してもらった。俺が前回の銅取引は儲かっていることを伝えると「じゃあ、今回も頑張れ」と言っていた。
銅の国内価格を安定化させる目的は達成できていないのだが、わざわざ言わなくてもいいだろう。少なくとも俺は嘘を言っていない。
次に、内務省に着いた俺は、第2王子のチャールズの部屋に訪問した。俺は劣後社債の買取資金を確保するために、取引の正当性を説明した。
『本当は内務省がやることだ!』と言ってやりたかったが、喧嘩になるから言うのは止めた。
俺の話を聞き終わったチャールズが俺に言った。
「金融マーケットを維持するために、劣後社債の買取りが必要なのは分かった。でも、すぐに100億JDを用意するのは難しいな。国家予算を配分していないから、どこから回すか調整が必要になる」
チャールズはいつも危機意識が足りない。
省庁間の調整をしている間に取り付け騒ぎが起きたらどうするつもりだ?
俺はチャールズの性格を熟知している。兄弟だから。
そして、こういう状況で有効な進め方も熟知している。
「あ、そう。儲かるんだけどな・・・」と俺はボソッと言った。
俺がそう言うとチャールズは俺を見た。
「儲かるって、どれくらい?」
やはりチャールズは食いついてきた。
俺は勿体付けながら、チャールズにこの案件の収益性を説明する。
「額面100億JDの劣後社債を継続保有する前提で説明します。まず、劣後社債の表面利率が年12%なので、年間の金利収入が12億JDです」
「年利12%か」
「それと、平均残存期間が約3年の劣後社債を額面の70%(70億JD)で買取るので、年10億JD((100億JD-70億JD)÷3年)の償還差益が発生します。利息収入と償還差益の合計は年間22億JDです。投資利回りは、取得価額が70億JDなので年率31.4%(22÷70)ですね」と俺は説明した。
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。
「年利31.4%?すごい利回りだな。これRMBSだろ?」
※RMBS(Residential Mortgage-Backed Securities)とは、モーゲージ証券(MBS)の一つで、住宅ローンを担保として発行される証券のこと。
「RMBSですよ。儲かるって言ったでしょ」
「そうだな。儲かるな」
「ディスカウントして買うから、これくらいの利回りを確保できるんです」と俺は言った。
「困っている人から買い叩いて、暴利を貪るスキームだな。火事場泥棒って言われないか?」とチャールズは言った。
「『泥棒』はやめて下さい。これでも、私は高い志を持っています。金融危機を回避するために真面目に考えたんです」
「この案件をやると、3年で約2倍か。収益性を考えると何としてもやりたいな」チャールズは、ついに案件に前のめりになった。
「ええ。儲かります」
「どこから予算を配分するか・・・・」と言ってチャールズは考えだした。
しばらくすると、チャールズは何かを閃いたようだ。
「そうだ!財源がなければ、臨時国債を発行しよう。何年債がいい?」
「5年債がいいですね。3年債だと償還のタイミングが狂うと危険ですから」
「じゃあ、5年の臨時国債を100億JD発行しよう。国債金利は2%くらいで発行できると思う」
「調達金利が2%だったら、全然問題ありません。年利31.4%ですから。それで、いつ資金調達できますか?」
「来週中には発行できると思う。すぐに証券会社と発行を打ち合わせておく」とチャールズは言った。
「それはありがたいです。発行日が確定したら教えてください」
「すぐ連絡するよ」
「それともう一つ・・・。今回も、直接ジャービス王国が個人投資家から買うわけにはいかないので、会社を用意します。その会社に100億JDを貸し付けて下さい」と俺は依頼した。
「分かった」とチャールズは言った。
***
内部調査部に戻ると、他のメンバーも打ち合わせを終えて戻ってきていた。
まず、俺が来週には資金調達できることを伝えて、ポールに新会社の設立を依頼した。
今度は、内部調査部の投資用の会社だから、『investment of internal investigation』 の略で、会社名は『i3』にすることにした。
「新会社の社長は、ポールがやってくれないか?」と俺が言うと、ポールは「やります」と二つ返事で承諾してくれた。社長手当が付くから、特に断る理由はない。
次に、トルネアセットマネジメントに訪問したスミスとロイから報告があり、運用会社の反応は非常に好意的だったようだ。i3が劣後社債を買取るために、トルネアセットマネジメントから買取対象を毎週報告してもらうことになった。
フォーレンダム証券に訪問したミゲルとポールからも、協力を得られたと報告があった。
IFAのエマ、ミア、ソフィアに会いにいったルイーズとガブリエルも、社債保有者への対応を依頼してきたようだ。IFAの3人は、借入金の返済ができるので、ほっとしていたようだ。
これで金融危機を回避するための準備は整った。
俺は内部調査部のメンバーに言った。
“それでは、劣後社債の買取りを開始する!”
メンバーは「オー!」と言った。
何度も言うようだが、『金融危機の回避』は内部調査部の業務とは関係がない。
でも、みんな楽しそうだ。