第4話 退職者から話を聞こう(その2)
文字数 1,650文字
(4)退職者から話を聞こう <続き>
ルーカスはダウラファンドが買収ファンドを開始した経緯を語り始めた。
「それでは、ダウラアセットマネジメントが買収ファンドの運用を開始した経緯からお話しします」
「お願いします」
「買収ファンドの運用は、純粋に従来の投資運用スタイルとは別の投資運用スタイルを持つためでした。アクティビストファンドは割安の上場会社をターゲットにして、その会社の株価を上げることを目的にしています」
「そう理解しています」
「ダウラファンドは株価を上げるために会社に提案するわけですが、提案が会社に受け入れられる場合もあれば、そうでない場合もあります。ダウラファンドの提案が受け入れられない場合は、株主提案を行って株主総会で判断してもらうことになります」
「プロキシーファイト(委任状争奪戦)ですね?」
※プロキシ―ファイトとは、株主総会における議案の採否をめぐって、ある株主と会社が他の株主の委任状を争奪することです。
「そうです。プロキシーファイトが起こると、マスコミが面白おかしく取り上げます」
「新聞やネットニュースでよく見ます」
「マスコミがプロキシーファイトの件を取り上げると『ダウラファンドが悪、会社が善』のような風潮が生まれて、ダウラファンドのレピュテーション(風評)が悪くなるんです」
「確かに。マスコミの報道を見ていると、そういう傾向はありますね」
「プロキシーファイトでは、株主総会における議決権の委任状を他の株主から入手する必要があるのに、マスコミは会社の味方をするから委任状が集まりません。すると、ダウラファンドの株主提案は否決されてしまいます」
「分かります。特に大企業はレピュテーションを気にしますから。」
ポールはルーカスの言いたいことを理解した。
ルーカスはダウラファンドの話を続けた。
「何が言いたいかというと、アクティビストファンドは投資先との関係がこじれると、儲からないのに手間だけ増えるんです」
「費用対効果が悪い、ということですよね?」とポールは聞いた。
「その通りです。つまり、アクティビスト以外の投資戦略を持っていないとデッドロック(手詰まり)状態になるんです。ダウラファンドの投資先は割安の上場会社です。アクティビストファンドと親和性の高い投資戦略を探した結果、買収ファンドという結論に達しました」
「買収ファンドの運用開始は投資効率を上げるため、ということですか?」
「そう言えます。さらにダウラファンドの出資者はレピュテーションを気にします。出資者からすれば、ダウラアセットマネジメントには投資先の会社とあまり揉めてほしくないと思っているはずですよね?」
「そうでしょうね」とポールは答えた。
「だから、ダウラファンドの出資者のためにも、できるだけ会社との関係を円滑にエグジット(EXIT)できる手段を確保する必要がありました」
「へー。そういう理由だったんですね。ところで、買収ファンドの運用は順調でしたか?」とポールはルーカスに質問した。
「私が在籍していた時は順調だったと思います。今の業績は分かりませんが、悪くはないでしょう」
「買収ファンドは専門外なのに、すごいですね?」
「それがそうでもないんです。アクティビストファンドには企業買収の専門家がいませんから、買収ファンドを運用するために中堅のPE(Private Equity:プライベートエクイティ)からメンバーをチームごと引き抜きました。後は、アクティビストファンドのチームと買収ファンドのチームが情報を連携して進めればいいだけです」
「そうですか。私はてっきり、ダウラファンドは買収ファンドの運用は素人だと思っていました」
「そう思っている人が多いかもしれませんね。でも、実際にはPEファンドの運用をしていたプロが運用しています。ダウラアセットマネジメントが調達した資金を運用しているものの、買収ファンドの部署はアクティビストファンドとは完全に独立しています。言ってみれば、ほぼ独立系PEのようでした」
<続く>
ルーカスはダウラファンドが買収ファンドを開始した経緯を語り始めた。
「それでは、ダウラアセットマネジメントが買収ファンドの運用を開始した経緯からお話しします」
「お願いします」
「買収ファンドの運用は、純粋に従来の投資運用スタイルとは別の投資運用スタイルを持つためでした。アクティビストファンドは割安の上場会社をターゲットにして、その会社の株価を上げることを目的にしています」
「そう理解しています」
「ダウラファンドは株価を上げるために会社に提案するわけですが、提案が会社に受け入れられる場合もあれば、そうでない場合もあります。ダウラファンドの提案が受け入れられない場合は、株主提案を行って株主総会で判断してもらうことになります」
「プロキシーファイト(委任状争奪戦)ですね?」
※プロキシ―ファイトとは、株主総会における議案の採否をめぐって、ある株主と会社が他の株主の委任状を争奪することです。
「そうです。プロキシーファイトが起こると、マスコミが面白おかしく取り上げます」
「新聞やネットニュースでよく見ます」
「マスコミがプロキシーファイトの件を取り上げると『ダウラファンドが悪、会社が善』のような風潮が生まれて、ダウラファンドのレピュテーション(風評)が悪くなるんです」
「確かに。マスコミの報道を見ていると、そういう傾向はありますね」
「プロキシーファイトでは、株主総会における議決権の委任状を他の株主から入手する必要があるのに、マスコミは会社の味方をするから委任状が集まりません。すると、ダウラファンドの株主提案は否決されてしまいます」
「分かります。特に大企業はレピュテーションを気にしますから。」
ポールはルーカスの言いたいことを理解した。
ルーカスはダウラファンドの話を続けた。
「何が言いたいかというと、アクティビストファンドは投資先との関係がこじれると、儲からないのに手間だけ増えるんです」
「費用対効果が悪い、ということですよね?」とポールは聞いた。
「その通りです。つまり、アクティビスト以外の投資戦略を持っていないとデッドロック(手詰まり)状態になるんです。ダウラファンドの投資先は割安の上場会社です。アクティビストファンドと親和性の高い投資戦略を探した結果、買収ファンドという結論に達しました」
「買収ファンドの運用開始は投資効率を上げるため、ということですか?」
「そう言えます。さらにダウラファンドの出資者はレピュテーションを気にします。出資者からすれば、ダウラアセットマネジメントには投資先の会社とあまり揉めてほしくないと思っているはずですよね?」
「そうでしょうね」とポールは答えた。
「だから、ダウラファンドの出資者のためにも、できるだけ会社との関係を円滑にエグジット(EXIT)できる手段を確保する必要がありました」
「へー。そういう理由だったんですね。ところで、買収ファンドの運用は順調でしたか?」とポールはルーカスに質問した。
「私が在籍していた時は順調だったと思います。今の業績は分かりませんが、悪くはないでしょう」
「買収ファンドは専門外なのに、すごいですね?」
「それがそうでもないんです。アクティビストファンドには企業買収の専門家がいませんから、買収ファンドを運用するために中堅のPE(Private Equity:プライベートエクイティ)からメンバーをチームごと引き抜きました。後は、アクティビストファンドのチームと買収ファンドのチームが情報を連携して進めればいいだけです」
「そうですか。私はてっきり、ダウラファンドは買収ファンドの運用は素人だと思っていました」
「そう思っている人が多いかもしれませんね。でも、実際にはPEファンドの運用をしていたプロが運用しています。ダウラアセットマネジメントが調達した資金を運用しているものの、買収ファンドの部署はアクティビストファンドとは完全に独立しています。言ってみれば、ほぼ独立系PEのようでした」
<続く>