第8話 国内世論との戦い(その3)
文字数 1,818文字
(8)国内世論との戦い <続き>
不動産バブルとインフレ対策のための家族会議が開催された。
家族会議が開始するやいなや、チャールズが先頭を切って言った。
「だから、私は慎重に進めるべきだと言ったじゃないですか!」
俺は思った。というか、みんな同じことを思っている。
―― また始まった・・・
チャールズは『俺は悪くない』アピールをしたいようだ。
『お前が一番ノリノリだったじゃないか?』と言いたいところだが俺は堪えた。
ただ、このままだとチャールズは俺のせいにしてくるだろう。
俺のせいにされるのも癪(しゃく)なので発言しておく。
「まあ、これくらいは想定内ですね。それに、ジャービス・ドル安が進んだことで、国内景気はかつてないほど活況です。一気に利上げして金融引締めをしてしまうと、今度は国内経済が大混乱します。だから、私は、もうしばらくしてから金利の引上げを開始した方がいいと考えています」
俺が『利上げ開始時期を先延ばしするべきだ』と言ったことについて、国王が発言した。
「国民は『マイホームが高くて買えない!』と騒いでおる。利上げすると不動産価格は下がると思うのだが、ダニエルは待った方がいいとの考えのようだ。待つと言っても、いつまで待てばいいのだ? 利上げは具体的にいつから開始したらいいのだ?」
国王は国民世論に踊らされるタイプなので、世論に逆行する政策を採用したくないのだ。
世論に逆行せず、国益に叶った政策を採用したいと思っている。
でも、そんな都合の良い政策はない。
だから、俺は国王の性格を踏まえたうえで説明をしないといけない。
「ジャービス・ドル安の好景気が始まってから、まだ3カ月です。今の低金利政策は、国内経済が安定するまでの間、少なくとも半年は継続した方がいいでしょう」と俺は答えた。
「半年以上は低金利政策を継続か・・・。その間の国民の声【マイホームが高くて買えない!】はどうするのだ? 放置する訳にもいくまい・・・」
国王は過度に国民の声を気にする。
国民の声を聞くこと自体は悪いことではないのだが、政策の決定時には邪魔になることもある。
俺は手っ取り早く国民の支持を集める方法として『バラマキ作戦』を思い付いた。
まずはチャールズにお金を幾ら使えるかを確認することにする。
「そうですねー。チャールズ兄さん、俺たちが米ドルの売買で稼いだ3,500億JDのうち、今までに幾ら使いました?」と俺はチャールズに質問した。
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円としています。
「3,000億JDは残ってる。だから、使ったのは500億JDくらいだな」
俺がチャールズに聞いたのは、ジャービス・ドル安(140JD/米ドルから190JD/米ドルに為替レートが変動した)で損失を被る事業者や個人に対する補助金のことだ。
俺は1,000億JDくらい補助金として支出したと思ったのだが、実際には500億JDしか使っていないようだ。
「思ったよりも補助金に使った金額は少ないんですね。てっきり1,000億JDくらいは使っている、と思ってましたよ」
他の参加者も少ないと思ったようだ。
3,500億JDも稼いだのに500億JDしか使っていない。
チャールズが補助金を払いたくないから妨害したのではないか、と参加者はみんな疑っている。
参加者の冷たい視線に気づいたチャールズ。誤解されないように事情を説明した。
「別に補助金を申請してくる事業者に難癖を付けて払わなかったわけじゃない。内務省で事前に予想していたよりも補助金を申請してくる事業者が少なかったんだ・・・」
話し方を見ると、チャールズは嘘を付いているわけではなさそうだ。
そうすると、ジャービス・ドル安は国内経済にほとんどマイナスに作用しなかったことになる。
俺は国王の気にしている国民世論への対策を提案した。
「じゃあ、そのうちの1,000億JDを使ってファミリー向けのコンドミニアム(マンション)を建設するのはどうでしょう? マイホームの購入を希望する世帯に、不動産市場よりも安い価格で販売するんです」と俺は言った。
※日本で使われている『マンション』は日本語英語です。海外では「お前はハリウッドスターみたいな大豪邸に住んでいるのか?」と勘違いされます。一般的には『コンドミニアム(Condominium)』または『コンド(Condo)』と言います。
<続く>
不動産バブルとインフレ対策のための家族会議が開催された。
家族会議が開始するやいなや、チャールズが先頭を切って言った。
「だから、私は慎重に進めるべきだと言ったじゃないですか!」
俺は思った。というか、みんな同じことを思っている。
―― また始まった・・・
チャールズは『俺は悪くない』アピールをしたいようだ。
『お前が一番ノリノリだったじゃないか?』と言いたいところだが俺は堪えた。
ただ、このままだとチャールズは俺のせいにしてくるだろう。
俺のせいにされるのも癪(しゃく)なので発言しておく。
「まあ、これくらいは想定内ですね。それに、ジャービス・ドル安が進んだことで、国内景気はかつてないほど活況です。一気に利上げして金融引締めをしてしまうと、今度は国内経済が大混乱します。だから、私は、もうしばらくしてから金利の引上げを開始した方がいいと考えています」
俺が『利上げ開始時期を先延ばしするべきだ』と言ったことについて、国王が発言した。
「国民は『マイホームが高くて買えない!』と騒いでおる。利上げすると不動産価格は下がると思うのだが、ダニエルは待った方がいいとの考えのようだ。待つと言っても、いつまで待てばいいのだ? 利上げは具体的にいつから開始したらいいのだ?」
国王は国民世論に踊らされるタイプなので、世論に逆行する政策を採用したくないのだ。
世論に逆行せず、国益に叶った政策を採用したいと思っている。
でも、そんな都合の良い政策はない。
だから、俺は国王の性格を踏まえたうえで説明をしないといけない。
「ジャービス・ドル安の好景気が始まってから、まだ3カ月です。今の低金利政策は、国内経済が安定するまでの間、少なくとも半年は継続した方がいいでしょう」と俺は答えた。
「半年以上は低金利政策を継続か・・・。その間の国民の声【マイホームが高くて買えない!】はどうするのだ? 放置する訳にもいくまい・・・」
国王は過度に国民の声を気にする。
国民の声を聞くこと自体は悪いことではないのだが、政策の決定時には邪魔になることもある。
俺は手っ取り早く国民の支持を集める方法として『バラマキ作戦』を思い付いた。
まずはチャールズにお金を幾ら使えるかを確認することにする。
「そうですねー。チャールズ兄さん、俺たちが米ドルの売買で稼いだ3,500億JDのうち、今までに幾ら使いました?」と俺はチャールズに質問した。
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円としています。
「3,000億JDは残ってる。だから、使ったのは500億JDくらいだな」
俺がチャールズに聞いたのは、ジャービス・ドル安(140JD/米ドルから190JD/米ドルに為替レートが変動した)で損失を被る事業者や個人に対する補助金のことだ。
俺は1,000億JDくらい補助金として支出したと思ったのだが、実際には500億JDしか使っていないようだ。
「思ったよりも補助金に使った金額は少ないんですね。てっきり1,000億JDくらいは使っている、と思ってましたよ」
他の参加者も少ないと思ったようだ。
3,500億JDも稼いだのに500億JDしか使っていない。
チャールズが補助金を払いたくないから妨害したのではないか、と参加者はみんな疑っている。
参加者の冷たい視線に気づいたチャールズ。誤解されないように事情を説明した。
「別に補助金を申請してくる事業者に難癖を付けて払わなかったわけじゃない。内務省で事前に予想していたよりも補助金を申請してくる事業者が少なかったんだ・・・」
話し方を見ると、チャールズは嘘を付いているわけではなさそうだ。
そうすると、ジャービス・ドル安は国内経済にほとんどマイナスに作用しなかったことになる。
俺は国王の気にしている国民世論への対策を提案した。
「じゃあ、そのうちの1,000億JDを使ってファミリー向けのコンドミニアム(マンション)を建設するのはどうでしょう? マイホームの購入を希望する世帯に、不動産市場よりも安い価格で販売するんです」と俺は言った。
※日本で使われている『マンション』は日本語英語です。海外では「お前はハリウッドスターみたいな大豪邸に住んでいるのか?」と勘違いされます。一般的には『コンドミニアム(Condominium)』または『コンド(Condo)』と言います。
<続く>