第8話 国内世論との戦い(その5)
文字数 1,756文字
(8)国内世論との戦い <続き>
政府が供給する住宅は好評だったので、金融緩和政策は1年間続けることができた。
その間、ジャービス・ドル安によって外国企業や投資家からの資金がジャービス王国に流入し、国内景気は順調に推移した。
ただし、好景気を背景とした消費者物価の上昇も目立つようになってきた。
インフレ率が前年度比10%を超えてきたので、そろそろ引き締めの時期に移行した方がいいと俺は考えた。具体的には、インフレ抑制のために金利引上げを行う予定だ。
政策金利を引き上げは国内経済に影響を与える。
だから、政策金利を引き上げるか否かを決定するために家族会議が開催された。
家族会議がスタートし、まず国王が発言した。
「金融緩和をスタートして1年が経過した。ジャービス王国は好景気になったが、最近はインフレ率が前年比10%を超える状況にある。ジャービス国民からも『インフレ対策をしてほしい!』と意見が寄せられるようになった」
国王に続いて内務大臣のチャールズが発言した。
「最近はいろんな物価が上がりましたね。新聞やテレビの報道を見ても『インフレ=悪』のような印象を受けます」
確かにチャールズの言う通りだ。マスコミは『インフレ=悪』のような風潮で報道するから、ジャービス国民はそう感じるようになっている。
生活必需品の価格が上がることは一般消費者のマインドとして好ましいことではない。
しかし、商品の価格が上昇すれば、その上昇分を従業員の給与に充てることができる。
だから、インフレが必ずしも悪いわけではない。
俺も国王が誤解しないために、念のために発言した。
「消費者物価が上がっていますが、企業の売上高が増える訳ですから、従業員の給与も上がります。だから、インフレが悪いわけではありません。ただ、インフレ率に賃金上昇が追い付いていないのが少し気になりますね・・・」
「賃金上昇率は幾つだ?」国王は言った。
「名目賃金上昇率は7%、インフレ率は10%ですから実質賃金上昇率は-3%です。従業員の給与は増えているものの、インフレ率の方が高いから国民の不満が出やすいのでしょう」と俺は答えた。
※実質賃金上昇率=名目賃金上昇率-インフレ率
今のところ、一般大衆が注目しているのは物価上昇(インフレ)だけだ。
実質賃金上昇率がマイナスになっていることには気付いていない。
従業員にとって賃金が増えることは好ましいことだが、物価上昇(インフレ)率よりも名目賃金上昇率(今年度賃金÷前年度賃金-1)の方が低ければ生活が苦しくなっていく。
今は実質賃金上昇率がマイナスになっているから、ジャービス政府としてはインフレ抑制を進める必要がある。
国王は参加者を見渡して言った。
「インフレ率が高止まりで下がりそうにない。そろそろ利上げの時期だと思うのだが、みんなはどう思うか?」
「そろそろ利上げを開始してもいいと思います」と俺は国王の意見に賛成した。
一方、チャールズは考えたまま発言しない。
政策金利を上げれば、当然ながらジャービス王国の経済に影響が出る。
金融引き締めを公表するのは内務省なので、チャールズとしては経済への影響を気にしているのだろう。
「なあ、ダニー。政策金利を上げたら、どうなると思う?」とチャールズは俺に聞いてきた。
「いろいろ影響は出るでしょうね。例えば、銀行の貸出金利が上がるから、企業の銀行借入は少なくなって設備投資などの支出は減るでしょう。これは物価にはマイナスに作用するので、インフレ抑制には効果的です」
「他には?」
「不動産価格は下がるでしょう。特に収益物件の場合はキャップレートが上昇するから、不動産価値は大きく下がります」
※不動産価値(収益物件)=物件純収益÷還元利回り(キャップレート)
「他には?」
「金利上昇はジャービス・ドル高を誘発するので、輸入品を扱う小売業にはプラスです。あと、外国企業のジャービス王国への投資額は減るでしょう」
「いろいろマスコミに言われるよな?」とチャールズが言った。
「言われるでしょうね・・・」
「またデモが起きるかな?」
「起きるかもしれませんね・・・」
「だよな・・・」
チャールズの心配事は尽きないものの、この後、ジャービス政府は政策金利の引き上げを公表するのであった。
<続く>
政府が供給する住宅は好評だったので、金融緩和政策は1年間続けることができた。
その間、ジャービス・ドル安によって外国企業や投資家からの資金がジャービス王国に流入し、国内景気は順調に推移した。
ただし、好景気を背景とした消費者物価の上昇も目立つようになってきた。
インフレ率が前年度比10%を超えてきたので、そろそろ引き締めの時期に移行した方がいいと俺は考えた。具体的には、インフレ抑制のために金利引上げを行う予定だ。
政策金利を引き上げは国内経済に影響を与える。
だから、政策金利を引き上げるか否かを決定するために家族会議が開催された。
家族会議がスタートし、まず国王が発言した。
「金融緩和をスタートして1年が経過した。ジャービス王国は好景気になったが、最近はインフレ率が前年比10%を超える状況にある。ジャービス国民からも『インフレ対策をしてほしい!』と意見が寄せられるようになった」
国王に続いて内務大臣のチャールズが発言した。
「最近はいろんな物価が上がりましたね。新聞やテレビの報道を見ても『インフレ=悪』のような印象を受けます」
確かにチャールズの言う通りだ。マスコミは『インフレ=悪』のような風潮で報道するから、ジャービス国民はそう感じるようになっている。
生活必需品の価格が上がることは一般消費者のマインドとして好ましいことではない。
しかし、商品の価格が上昇すれば、その上昇分を従業員の給与に充てることができる。
だから、インフレが必ずしも悪いわけではない。
俺も国王が誤解しないために、念のために発言した。
「消費者物価が上がっていますが、企業の売上高が増える訳ですから、従業員の給与も上がります。だから、インフレが悪いわけではありません。ただ、インフレ率に賃金上昇が追い付いていないのが少し気になりますね・・・」
「賃金上昇率は幾つだ?」国王は言った。
「名目賃金上昇率は7%、インフレ率は10%ですから実質賃金上昇率は-3%です。従業員の給与は増えているものの、インフレ率の方が高いから国民の不満が出やすいのでしょう」と俺は答えた。
※実質賃金上昇率=名目賃金上昇率-インフレ率
今のところ、一般大衆が注目しているのは物価上昇(インフレ)だけだ。
実質賃金上昇率がマイナスになっていることには気付いていない。
従業員にとって賃金が増えることは好ましいことだが、物価上昇(インフレ)率よりも名目賃金上昇率(今年度賃金÷前年度賃金-1)の方が低ければ生活が苦しくなっていく。
今は実質賃金上昇率がマイナスになっているから、ジャービス政府としてはインフレ抑制を進める必要がある。
国王は参加者を見渡して言った。
「インフレ率が高止まりで下がりそうにない。そろそろ利上げの時期だと思うのだが、みんなはどう思うか?」
「そろそろ利上げを開始してもいいと思います」と俺は国王の意見に賛成した。
一方、チャールズは考えたまま発言しない。
政策金利を上げれば、当然ながらジャービス王国の経済に影響が出る。
金融引き締めを公表するのは内務省なので、チャールズとしては経済への影響を気にしているのだろう。
「なあ、ダニー。政策金利を上げたら、どうなると思う?」とチャールズは俺に聞いてきた。
「いろいろ影響は出るでしょうね。例えば、銀行の貸出金利が上がるから、企業の銀行借入は少なくなって設備投資などの支出は減るでしょう。これは物価にはマイナスに作用するので、インフレ抑制には効果的です」
「他には?」
「不動産価格は下がるでしょう。特に収益物件の場合はキャップレートが上昇するから、不動産価値は大きく下がります」
※不動産価値(収益物件)=物件純収益÷還元利回り(キャップレート)
「他には?」
「金利上昇はジャービス・ドル高を誘発するので、輸入品を扱う小売業にはプラスです。あと、外国企業のジャービス王国への投資額は減るでしょう」
「いろいろマスコミに言われるよな?」とチャールズが言った。
「言われるでしょうね・・・」
「またデモが起きるかな?」
「起きるかもしれませんね・・・」
「だよな・・・」
チャールズの心配事は尽きないものの、この後、ジャービス政府は政策金利の引き上げを公表するのであった。
<続く>