第9話 デューデリジェンス(その2)
文字数 1,705文字
(9) デューデリジェンス <続き>
私はジャービットを買収したいと直接的に確認しにくかったから、まずは情報開示の可否をビルに聞いた。
「もちろん構いません。ジャービット・エクスチェンジと親会社のジャービットは一体なので、スポンサーとしての支援は2社を合わせて検討してもらえると有難いです」
ビルの回答は私が意図したものだった。
私は念のために理由を確認することにした。
「どうしてですか?」
ビルは少し考えてから話始めた。
「実のところ、ジャービット・エクスチェンジの親会社が外国法人なのがネックになっています。裁判所が民事再生法の適用申請を受理したがらない理由の一つは、外国法人にはジャービス王国の法律が適用されないためです」
ビルの言うことは最もだ。
ジャービス王国の裁判所は外国法人への民事再生法の適用はできない。
民事再生法の適用申請をされたら嫌だろう。
「ああ、そういうことですか」
「『暗号資産交換業のライセンスだけ欲しい』という会社もあります。でも、経営陣としては暗号資産の発行会社と暗号資産交換業の両方運営してくれるスポンサーを希望しています。だから、親会社も含めて支援してくれる方が好ましいです」とビルは言った。
ジャービットの買収が今回の目的だから、私は2社とも検討できることをビルに伝える。
「そういう意味では、大丈夫です。我々は親会社のジャービットもセットで検討できます」
「そうですか。それは良かったです。」
ビルは少し安心したようだ。
子会社だけ買収されて親会社を放置されたら困ったことになる。
「ところで、経営陣からスポンサーに対して何か要望があれば、先に教えてもらえますか?後になって条件を出されても、社内の決裁を採った後だと投資できないかも知れませんから」と私はビルに質問した。
「経営陣のスポンサーに対する要望は大きく2つです」
「2つですね」
「一つ目は職員の継続雇用です。ただし、役員は必ずしも会社への留任を希望しているわけではありません」
「そうなんですか?」
「役員はジャービット・コインが暴落して投資家に迷惑を掛けたと思っています。だから、経営責任を明確にして、辞任した方がいいと考えているようです」とビルは言った。
「職員の継続雇用は再生型の手続きには多いので、特に違和感はありません。もし、役員に残留して欲しいと当方が考えた場合、役員の留任は交渉できますか?」
「内容次第だと思います。ジャービット・エクスチェンジの役員は全員高齢です。長期間の留任は体力的にも厳しい場合もありますから」
「そういうことですね。それで2つ目というのは?」
「二つ目は、顧客への資金支払いの担保です。顧客がジャービット・コインの売り注文を出した時、確実に決済を行っていただきたいのです。すでにジャービット・コインは暴落しているものの、当社の顧客はカルタゴ証券からの顧客がほとんどです。古くからの顧客にできる限り迷惑は掛けたくないと経営陣は思っています」
「それはスポンサーとして当然のことなので特に問題ありません。」
「この2つさえ守ってくれれば、スポンサーに議決権の100%持ってくれて構わない、と現経営陣は考えています」とビルは言った。
「分かりました。その2つであれば問題ないと思います」
この2つが買収の条件ということであれば、それほどハードルは高くなさそうだ。
そういえば、XFTが顧客資産の分別管理で問題になっていたはずだ。
私は分別管理の状況をビルに確認することにした。
「ところで、XFTが破産した際に、顧客の預り資産の分別管理が問題になりました。ジャービット・エクスチェンジの顧客資産の分別管理は問題ないですよね?」
「もちろん、それは大丈夫です。当社の顧客の大半がカルタゴ証券からのお客さんなので、迷惑をかけないように、分別管理は徹底しています。詳しくは、デューデリの資料で確認して下さい」
「それは良かったです。流出した預り資産を補填するのは、避けたいですから。それでは、今日はこれくらいにして、明日からデューデリに伺います」
そう言って、私たち3人はジャービット・エクスチェンジを後にした。
<続く>
私はジャービットを買収したいと直接的に確認しにくかったから、まずは情報開示の可否をビルに聞いた。
「もちろん構いません。ジャービット・エクスチェンジと親会社のジャービットは一体なので、スポンサーとしての支援は2社を合わせて検討してもらえると有難いです」
ビルの回答は私が意図したものだった。
私は念のために理由を確認することにした。
「どうしてですか?」
ビルは少し考えてから話始めた。
「実のところ、ジャービット・エクスチェンジの親会社が外国法人なのがネックになっています。裁判所が民事再生法の適用申請を受理したがらない理由の一つは、外国法人にはジャービス王国の法律が適用されないためです」
ビルの言うことは最もだ。
ジャービス王国の裁判所は外国法人への民事再生法の適用はできない。
民事再生法の適用申請をされたら嫌だろう。
「ああ、そういうことですか」
「『暗号資産交換業のライセンスだけ欲しい』という会社もあります。でも、経営陣としては暗号資産の発行会社と暗号資産交換業の両方運営してくれるスポンサーを希望しています。だから、親会社も含めて支援してくれる方が好ましいです」とビルは言った。
ジャービットの買収が今回の目的だから、私は2社とも検討できることをビルに伝える。
「そういう意味では、大丈夫です。我々は親会社のジャービットもセットで検討できます」
「そうですか。それは良かったです。」
ビルは少し安心したようだ。
子会社だけ買収されて親会社を放置されたら困ったことになる。
「ところで、経営陣からスポンサーに対して何か要望があれば、先に教えてもらえますか?後になって条件を出されても、社内の決裁を採った後だと投資できないかも知れませんから」と私はビルに質問した。
「経営陣のスポンサーに対する要望は大きく2つです」
「2つですね」
「一つ目は職員の継続雇用です。ただし、役員は必ずしも会社への留任を希望しているわけではありません」
「そうなんですか?」
「役員はジャービット・コインが暴落して投資家に迷惑を掛けたと思っています。だから、経営責任を明確にして、辞任した方がいいと考えているようです」とビルは言った。
「職員の継続雇用は再生型の手続きには多いので、特に違和感はありません。もし、役員に残留して欲しいと当方が考えた場合、役員の留任は交渉できますか?」
「内容次第だと思います。ジャービット・エクスチェンジの役員は全員高齢です。長期間の留任は体力的にも厳しい場合もありますから」
「そういうことですね。それで2つ目というのは?」
「二つ目は、顧客への資金支払いの担保です。顧客がジャービット・コインの売り注文を出した時、確実に決済を行っていただきたいのです。すでにジャービット・コインは暴落しているものの、当社の顧客はカルタゴ証券からの顧客がほとんどです。古くからの顧客にできる限り迷惑は掛けたくないと経営陣は思っています」
「それはスポンサーとして当然のことなので特に問題ありません。」
「この2つさえ守ってくれれば、スポンサーに議決権の100%持ってくれて構わない、と現経営陣は考えています」とビルは言った。
「分かりました。その2つであれば問題ないと思います」
この2つが買収の条件ということであれば、それほどハードルは高くなさそうだ。
そういえば、XFTが顧客資産の分別管理で問題になっていたはずだ。
私は分別管理の状況をビルに確認することにした。
「ところで、XFTが破産した際に、顧客の預り資産の分別管理が問題になりました。ジャービット・エクスチェンジの顧客資産の分別管理は問題ないですよね?」
「もちろん、それは大丈夫です。当社の顧客の大半がカルタゴ証券からのお客さんなので、迷惑をかけないように、分別管理は徹底しています。詳しくは、デューデリの資料で確認して下さい」
「それは良かったです。流出した預り資産を補填するのは、避けたいですから。それでは、今日はこれくらいにして、明日からデューデリに伺います」
そう言って、私たち3人はジャービット・エクスチェンジを後にした。
<続く>