第6話 個人投資家(その2)
文字数 1,525文字
(6) 個人投資家 <続き>
俺は書類偽造の件をディーンに聞くことにした。
「段階的に増やしていったのですね。ところで、『レンソイス不動産がローン申請書類で虚偽の情報を書いて銀行に提出している』という情報を入手しています。実際に書類の偽造はありましたか?」と俺はディーンに質問した。
ディーンは正直に答えて良いのか迷っていたようだが、話を始めた。
「偽造はありました。でも、最初から偽造していたわけではありません」
「いつから偽造するようになったのですか?」と俺は聞いた。
「7件目までは私の所得金額をローン申請書類にそのまま記載していました。8件目を取得する際に『今の所得水準だとローン審査に落ちるかもしれない』とリードに言われました。7件のLシリーズの取得で1億JDの借入がありましたから」
「偽造の提案があったんですね?」
「はい。リードからローン申請書類に記載する年収を3,000万JDにすることを提案されました」
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円としています。
どうやら『レンソイス不動産が書類の偽造を顧客に勧めている』という情報は正しいようだ。
俺は収入証明などについてディーンに聞くことにした。
「それでは、10件中3件が虚偽情報でローン審査書類を提出したという状況ですね。
それにしても、ローン審査時には収入証明を一緒に提出すると思います。源泉徴収票はどうしたのですか?」
「リードは『業者に連絡すれば手配してくれる』と言って、業者の電話番号を私に伝えました。その電話番号に私が連絡したら、翌日、年収3,000万JDの源泉徴収票が自宅に届きました」
「仕事が早いですね。ところで、書類の偽造をした業者の担当者は分かりますか?」
「私が電話した時に担当者はジョンと名乗っていました。でも、本名なのかどうかは分かりません。リードからはジョンの携帯電話の番号だけ伝えられたので、私はジョンの住所も会社名も知りません」
レンソイス不動産のリードとは違って、直接犯罪に加担しているからのだから、きっとジョンは偽名だろう。
「分かりました。それで、ジョンとはどういうやり取りをしたのですか?」と俺は聞いた。
「『レンソイス不動産からの紹介で』と言ったら、ジョンは電話口で直ぐに私の源泉徴収票の作成に取り掛かかりました。特に雑談や質問する暇はありませんでした」
ディーンはそう言うと、ジョンの携帯電話の番号のメモを俺たちに見せた。
「この携帯番号ですか」と俺はメモをガブリエルに渡した。
ガブリエルはその番号に電話を掛けた。
「もう使われていない番号のようです。解約したのでしょうね。総務省に戻った後、契約情報を調べてみます」とガブリエルは言った。
「そうしよう。それにしても、虚偽の情報でローン審査書類を作成することや、源泉徴収票を偽造するのは犯罪だと思わなかったのですか?」と俺はディーンに聞いた。
「良くないことだとは思いましたが、リードは『みんなやっている』と言っていました。私はみんな偽造しているのであれば問題ないと考えたと思います」
「そういう感覚ですか。まぁ、今となっては、銀行の借入も完済していますから、書類偽造による損害賠償は発生しませんけどね」
「それを聞いて安心しました」
ディーンは書類偽造で逮捕されると思っていたのだろうか?
俺の言葉を聞いて安心したようだ。
「ところで、前段が長くなってしまいましたが、譲渡担保と不動産売却に至った流れを教えてもらえますか?」と俺はディーンに本題を聞くことにした。
長々と喋ってしまったので、まだまだヒアリングすべき事項が残っている。
幾つか有益な情報を得られたし、まあいいか。
<続く>
俺は書類偽造の件をディーンに聞くことにした。
「段階的に増やしていったのですね。ところで、『レンソイス不動産がローン申請書類で虚偽の情報を書いて銀行に提出している』という情報を入手しています。実際に書類の偽造はありましたか?」と俺はディーンに質問した。
ディーンは正直に答えて良いのか迷っていたようだが、話を始めた。
「偽造はありました。でも、最初から偽造していたわけではありません」
「いつから偽造するようになったのですか?」と俺は聞いた。
「7件目までは私の所得金額をローン申請書類にそのまま記載していました。8件目を取得する際に『今の所得水準だとローン審査に落ちるかもしれない』とリードに言われました。7件のLシリーズの取得で1億JDの借入がありましたから」
「偽造の提案があったんですね?」
「はい。リードからローン申請書類に記載する年収を3,000万JDにすることを提案されました」
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円としています。
どうやら『レンソイス不動産が書類の偽造を顧客に勧めている』という情報は正しいようだ。
俺は収入証明などについてディーンに聞くことにした。
「それでは、10件中3件が虚偽情報でローン審査書類を提出したという状況ですね。
それにしても、ローン審査時には収入証明を一緒に提出すると思います。源泉徴収票はどうしたのですか?」
「リードは『業者に連絡すれば手配してくれる』と言って、業者の電話番号を私に伝えました。その電話番号に私が連絡したら、翌日、年収3,000万JDの源泉徴収票が自宅に届きました」
「仕事が早いですね。ところで、書類の偽造をした業者の担当者は分かりますか?」
「私が電話した時に担当者はジョンと名乗っていました。でも、本名なのかどうかは分かりません。リードからはジョンの携帯電話の番号だけ伝えられたので、私はジョンの住所も会社名も知りません」
レンソイス不動産のリードとは違って、直接犯罪に加担しているからのだから、きっとジョンは偽名だろう。
「分かりました。それで、ジョンとはどういうやり取りをしたのですか?」と俺は聞いた。
「『レンソイス不動産からの紹介で』と言ったら、ジョンは電話口で直ぐに私の源泉徴収票の作成に取り掛かかりました。特に雑談や質問する暇はありませんでした」
ディーンはそう言うと、ジョンの携帯電話の番号のメモを俺たちに見せた。
「この携帯番号ですか」と俺はメモをガブリエルに渡した。
ガブリエルはその番号に電話を掛けた。
「もう使われていない番号のようです。解約したのでしょうね。総務省に戻った後、契約情報を調べてみます」とガブリエルは言った。
「そうしよう。それにしても、虚偽の情報でローン審査書類を作成することや、源泉徴収票を偽造するのは犯罪だと思わなかったのですか?」と俺はディーンに聞いた。
「良くないことだとは思いましたが、リードは『みんなやっている』と言っていました。私はみんな偽造しているのであれば問題ないと考えたと思います」
「そういう感覚ですか。まぁ、今となっては、銀行の借入も完済していますから、書類偽造による損害賠償は発生しませんけどね」
「それを聞いて安心しました」
ディーンは書類偽造で逮捕されると思っていたのだろうか?
俺の言葉を聞いて安心したようだ。
「ところで、前段が長くなってしまいましたが、譲渡担保と不動産売却に至った流れを教えてもらえますか?」と俺はディーンに本題を聞くことにした。
長々と喋ってしまったので、まだまだヒアリングすべき事項が残っている。
幾つか有益な情報を得られたし、まあいいか。
<続く>