第6話 底地を買取ろう!(その3)

文字数 1,661文字

(6)底地を買取ろう! <続き>

 俺は気を取り直して、チャールズに買取対象の底地について説明を始めた。

「今日相談に来たのは底地買取りについてです」

「底地って、借地権がある場合の土地の所有権だよね?」とチャールズは俺に確認する。

「そうです。借地権は長い間ジャービス王国で使われてきました。ただ、借地権制度を作った当時とは経済環境や住環境が変わってしまい、現状に合わない制度になっていることも確かです。それに、このまま放置するといくつか問題が出てきそうなので、解決の糸口になりそうな方法を提案にきました」

「法改正をするってこと?」

 普通はそう思うよな、と思いながら俺は説明を続けた。

「法改正はしません。ジャービス王国の借地権には賃貸期間を有限にした定期借地権などがありますから、これ以上増やしても意味がないと思います」

「じゃあ、どうするの?」

 俺はまず、今回の調査の発端からチャールズに説明することにした。

「まず、順を追って説明します。今回、内部告発ホットラインに寄せられた相談は、借地権者と底地権者の争いでした」

「へー、どういうの?」

「借地権付きコンドミニアムの所有者(借地権者)が、コンドミニアムを売却しようとして地主(底地権者)に譲渡承諾を求めたのですが、そこで地主が「譲渡承諾をしない」と言って争いがおきました」

「普通は譲渡承諾するんじゃないの?」

「普通はそうですね。でも、今回はちょっと事情があって。きっかけは相続です。元の地主が死亡し、底地を相続した相続人が処分に困って、第三者に底地を安値で売却しました。そして、底地を取得した会社と借地権者が揉めたんです」

「相続の結果、底地の所有権が移ったから争いが起きた。そういうこと?」

「そうです。今回のように第三者に底地の所有権が移った場合もそうですが、相続によって単独相続または共同相続された場合も同じです。元の所有者は譲渡承諾することを前提に土地賃貸借契約をしたはずなので、元の所有者が死ぬ前だったら問題なく譲渡承諾されたと思います。でも、底地を取得した第三者や相続人が土地を返してほしいと考えたら、譲渡承諾を嫌がるケースが発生します」

「あり得る話だな・・・」チャールズはしみじみと言った。

「地主(底地権者)が譲渡承諾しないと、建物所有者(借地権者)は建物を売却できません。この状況がジャービス国内で多数発生すると、売買できない建物が大量に残ってしまいます。そして、最終的に空き家が増加していきます」

「まあ、そうなるかもな」

「今のは借地権付建物の話ですが、建物の空き家問題と似たような問題が底地にも発生します」

「どういうこと?」

「底地は上物を建てることができませんから、底地を買いたい個人はジャービス国内にはほとんどいません。一部の不動産業者が買取るくらいでしょう。だから、底地の買い手がジャービス国内に少なくて、いつまでも底地は売れないんです」

「たしかに、個人は自分で使えない底地を買わないよな・・・」

「地主が底地を処分しようとしても全然売れなかったら、地主の死後に底地は相続されます。そして、相続人は一人とは限りません。底地の共同相続を何度か繰り返すと、誰が底地の所有者か分からない状態になります。つまり、所有者不明土地が増加するんです。日本では国土の約20%が所有者不明土地と言われているようですが、ジャービス王国でも同様の事態が発生する可能性がありますよね?」

「あるな。そうなったら、困るな」

「だから、そうなる前に底地をうちで購入してしまおうかと思っています」

「将来的な所有者不明土地の問題を回避するのは分かる。分かるんだけど、そのためにジャービス政府が底地を買うのか? 土地の所有権は国民に任せればいいんじゃない?」

「国民に任せていては問題が先送りになるだけ。それに、底地を買うのは儲かるからに決まってるでしょ!」

「底地って儲かるの?」

 お金の話になったらチャールズが興味を示した。

―― あいかわらずコイツはチョロいな

 俺はいつものようにそう思った。


<続く>
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登場人物紹介

ダニエル:ジャービス王国の第4王子。総務大臣。

ルイーズ:総務省 内部調査部 課長代理

ジェームス:ジャービス王国第1王子。軍本部 総司令

チャールズ:ジャービス王国の第2王子。内務大臣。

アンドリュー:ジャービス王国の第3王子。外務大臣。

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